第2回 张 思「北京近郊から上海へ 上海で気づいた質の高い暮らし」
記念すべき第1回目のインタビューは現在上海外国語大学日本語学部2年生の张思(ジャン・スー)さんです。上海でなかなか中国人の友人ができないと知り合いの方に相談し、紹介してもらった私にとって初めての現地の友人である思ちゃん。大学進学を期に、2年ほど前に故郷の河北省は石家荘市を離れて上海にやってきました。
上海での発見:質の高い暮らし
故郷はどんなところ?
石家庄市は天津と北京の間に位置していて、高铁で北京から3時間くらい。一応河北省の省会城市だけど、北京と比べるとあまり歴史も深くなくてこれといった観光スポットではないかな。でも交通も便利だし地価も高くない。平凡な街だけど、何不自由なく暮らせる大好きな街だよ。
上海の印象は?
上海はとてもいい街だと思う。おもしろいお店がたくさんあって、住んでいる人1人1人が生活を楽しんでいるという気がする。皆質の高い生活を求めている感じ。北京は首都ということもあって「中国っぽい」んだ。古い建物が立ち並んでいて、地名にも「宮」がついている。至る所で古い歴史を感じるね。上海ほどカフェとかも少ないし、首都だから政治的な色が強くて海外とのつながりが弱い。迷ったけど若いうちにオープンな上海に来てよかったと思うよ。
石家庄と上海の違いは?
まずはアクセントが全然違う。私の故郷はかなり標準的な中国語を話すけど、上海の人は方言も含め独特な話し方をする。
それから上海の女の子はみんなおしゃれ。自分のためにおしゃれをして、モチベーションを高めている。それが「高精致的生活(質の高い暮らし)」に繋がっている気がする。北部の女の人は「女汉子」と呼ばれるだけあって男勝りで直接的なものの言い方をする人が多いけど、ここの女の人はもう少しやわらかい印象で、それぞれ個性を楽しんでいる。もちろん、上海には休む間もなく忙しく働いている人もいるよ。対照的な2種類の人々を見て、私は生活を犠牲にしてまで働くような人にはなりたくないと密かに思った。
外国語学校から上海の外国語大学へ
上海にきたきっかけは?
中学から外国語学校に通っていて、その頃から日本語を勉強していました。進路選択の時、北京か上海、どちらの外国語大学に進学するか迷ったけど、海外の人や物が多く、オープンな雰囲気の上海に惹かれて上海に来ることを決意した。ずっと北部で生まれ育ったから南に行ってみたかった、というのも大きな理由かな。
ちなみに私は外国語学校に通っていたから幸い推薦枠をもらえて、高考を受けなくて済んだ。推薦枠は基本的に私みたいに外国語が得意な人や数学や物理で受賞歴がある人が対象。
普段どのような生活を送っているの?
郊外の学生街、松江に住んでいるよ。1年生の間はサッカーサークルと勉強に集中していたけど、今はのんびりとした生活を楽しんでいる。せっかく上海にいるのだからもっとこの街のことを知りたい、楽しみたい、そう思って週末は積極的に街に出るようにしているよ。そのほかにも、外部のスピーチ大会に参加したり、外に出てもっと広い世界を見ようとしているところ。
寮生活について聞かせて。
4人部屋の寮に住んでいる。中国の寮は基本的にキッチンなしでシャワーも共有、でも特に不満はない。喧嘩する人もいるけど、私たちは基本的にみんな支え合って楽しく生活しているしよく一緒にでかけたりすることも多い。高校の時も寮に住んでいたことがあるから私は慣れているのかも。中国では高校3年生になって勉強が忙しくなると、家が遠い、勉強に集中したい、等の理由で寮に入る人が多いよ。
将来の夢はある?
まだ決めていないけど、上海で通訳の修士をとろうかなと考え中。修士だとキャンパスも中心地にあるからこの街のことをもっと知れると思う。でも実家に近い北京に戻ることも考えている。私は上海に残りたいけど正直上海は厳しい街だと思う。給料は高いけど、その分生活費も家賃も高い。家を買うなんて到底無理だし。将来が見えないし大きなプレッシャーを感じる。5年くらい頑張って将来の見通しが立たなければ故郷に戻るか小さい街に移るしかないかな。でもどこにいたとしても日本に関わる仕事がしたいなと思っているよ。
日中関係に対する思い
中学から日本語を学んできて、日中関係についてはどう思う?
中国人には、日本のどこが好き、と具体的にはっきり言える人がたくさんいる。例えば日本食とか、アニメとかね。でも日本人ははっきり言える人って少ないと思う。上海や北京を知っている人は多いけど、中国にはもっとおもしろいところがたくさんある。それをこれからもっと中国側がうまく伝える必要がある。
あとは民間交流が一番大事。外国語学校でも高校生の時1年間留学する人がいて、やっぱり若いうちから交流することって本当に大切だなと痛感した。高校生は大学生と違って毎日現地学生と同じ時間割で授業を受けるから、交流の程度が全然違う。政治的には厳しい過去があっても、日本と中国は近隣諸国で経済的にも重要なパートナー。世界はどんどんグローバル化しているし、そのポジティブな流れに乗るべきだと思う。
インタビューを終えて
終始穏やかな表情で楽しそうに話す彼女はすっかり「上海の女性」の表情をしていました。今回のインタビューでの新たな発見は外国語学校、推薦入試の存在。インターナショナルスクールに通う学生以外は皆統一試験である高考を受ける他ないと勘違いしていましたが、選択の余地が少し残されているようです。中国の大学入試には主に高考と呼ばれている統一試験のほかにも、推薦入試や、優秀な学生向けの枠である「保送」という制度もあるようです。
また、上海の女性は強い、といわれますがその「強い」の意味が少しわかったような気がします。自分の好きなこと、上質な生活を実現するために妥協しない、そんな「強さ」を持った女性なのではないかなと思います。新しい街に引っ越し、その土地での生活を楽しむ。そんな彼女に共感することがたくさんあり、本当に楽しいインタビューでした。
Ryoko Hasegawa: 秋田の国際教養大学グローバルスタディズ課程4年生、長谷川綾子(りょうこ)です。1995年生まれ、出身は大阪です。2016年の香港大学への交換留学を経て、2017年秋から華東師範大学に1年間の予定で公費留学中です。地方から上海に進学してきた若者へのインタビューを通して、中国人の多様性、彼らの故郷・将来への思い、学生生活について少しでも伝えられたらと思っています。どうぞよろしくお願いします。