Away from home in Shanghai ~大都会上海で暮らす学生のすがた~

第3回 匿名 「雲南から、上海、海外へ。彼女の目に映る中国の姿とは」

第3回目のインタビューは現在上海交通大学の学生(匿名)です。香港留学中に出会い、私にとって初めてできた親しい中国人の友達である彼女。私の中で無意識的に形成されていた、あまりポジティブでない「中国人」のイメージを変えてくれた人物です。

雲南から上海へ

故郷はどんなところ?
雲南は曲靖というところ。上海に比べて小さい都市で、生活リズムももっとゆったりとしている。教育水準はあまり高くないけれど、幸福度は高いと思う。家賃も低いし、大気汚染もない。上海の人々みたいに常に高い目標を追い求めていないしね。

上海の印象は?故郷と何が違う?
故郷に比べて暑いというくらいかな。中学の卒業旅行で当時開催催されていた上海国際博覧会を見に行ったことがあったから大体想像がついた。故郷との一番大きな違いはやはり機会の多さ。上海は国際化が進んでいるからその分機会が多い。

雲南への思い
雲南で培ったもの、例えばリラックスした生活、自然を大切にする気持ちや「天人合一(本来天と人は一体であるという考え方)」という観念をこれからも大切にしたい。でも現代社会に生きる人は技術を使って居心地よい生活を送れると思うから、技術と自然、その二つの間のバランスをうまくとって生きていきたいと思っている。



雲南の自宅からの風景。家の前に湖が広がっている。
 

大学生活―香港やアメリカ、国外で勉強し視野を広げる

普段はどんな大学生活を送っているの?
忙しい。競争が激しいので不安に思うことも多々ある。頑張っても周りよりGPAが低かったりすると特に。でも学部がミシガン大学と提携していて授業がすべて英語で開講されていたりと、視野を広げられる機会が沢山あって充実しているよ。



上海交通大学の図書館の様子。
 

在学中の一番印象的な出来事は?
香港への半年の留学。半分遊びの感覚だったけど(笑)、いろんな人・考え方に出会えたおかげで自分の考え方を変える大きなきっかけになった。香港の学生は皆キャリア志向。一方中国の大学は学術志向。香港に行ってから自分のキャリア形成と大学生活はつながっていると気づいたから、帰国後すぐにインターンを始めた。

最近はカリフォルニアでプロジェクトをしていたよね?
そう。大学の授業の一環で、ミシガン大学の学生とのチームで様々なプロジェクトに取り組んだ。一番印象的だったのはシリコンバレー、スタンフォード大学で過ごした1週間。とっても活気があって、熱意を持った人がたくさんいて感銘を受けた。シリコンバレーのスタートアップで働いている卒業生の1人と話しているときに、「キャリア=自己投資」と言っていたのが特に印象的。アメリカは製品や組織、あらゆる面で管理制度に優れているなという印象。スタンフォードの本屋さんのカテゴリーの仕方とか、学ぶ意欲を駆り立て、自己研鑽できるもので溢れていた。香港と同じく自然も豊かでよかった。

様々な大学・場所で教育を受けた今、中国の大学教育についてどう思う?
交通大学の私の学部は奨学金や独特なプログラムを提供しているから少し例外的だけど、中国の教育はまだまだ海外から学ぶ必要がある。アメリカの大学のキャンパスは門がいつも開いている。それは同時に社会と大学が繋がっていて、オープンだということ。中国の大学は大規模なレクチャーが多すぎるから、もっと社会とのつながりを持つべき。学習態度も個人主義で、GPAばかりに固執しすぎ。



複数訪れた大学の中で一番印象的だったというスタンフォード大学
 

スイスの大学院に進学、その後もとどまる予定

将来はどうしたい?
今秋からスイスの大学院で技術経営と経済学を勉強して、その後もおそらくスイスに残って働くと思う。先進国はやっぱり生活水準も教育水準が高い。雲南に戻ることはあったとしてもしばらく先だね。

なぜ上海の大都市じゃなくて、海外にとどまるの?
上海にとどまってここで自分の将来を切り開くという道も確かにあるけれど、あまりにもプレッシャーが大きすぎる。中国はまだ発展途上国、街のインフラは素晴らしいし、表面的には発展しているけど、マインドセットはまだ10年くらい前の状態のまま。例えば、政府や会社の管理制度があまり発達していないし、規制も多いから、完全に安心感を得ることは難しい。この点が改善されて、自分が完全に自立して人生の目標も明確化されたら中国、故郷に帰ってきてもいいかな。まだまだ時間がかかりそうだけど。

中国のよい点・悪い点は?
客観的に見ると経済が急成長していて、GDP成長率も高い。その分機会も多いし、規制が及んでいないところではIT技術関連のスタートアップがどんとん発達している。環境汚染もましになりつつあるし、教育水準も素質も上がりつつある。逆に問題点は創造性の欠如。組織体制が概してトップダウンだから長期的な成長を考えるとあまりよくない。

インタビューを終えて
今回は、彼女との余談を紹介したい。彼女は同世代の学生には3タイプの人間がいると言っていた。「1つ目のグループは、小さい都市出身だが高考で一生懸命勉強して大学から都市、ときに国外で活躍する人。国際的な理解が低い場合、多くのこのタイプの人間は部屋を買うことやお金を稼ぐことだけが人生における目標になってしまいがち。なんせ田舎で資源がなくて辛い状態で育っているから。彼らはどうやってうまく資源をうまく利用するかを学ぶ必要がある。2つ目は、都市で生まれ育ち、あまり特別な努力なくして大学に入った人。彼らは現在の状態に満足しがちでモチベーションがなく、コンフォートゾーンにとどまりがち。一般的に視野が狭くて排他的。3つ目は、大都市で育ち、もっと上を目指す人。残念ながらこのタイプの人間は大学入学の時点で既に国外へ出ていく。私は1つめのタイプの人間だからもっと自分のパッションを見つけなければと今思っているところ。」あくまでも名門校に通う彼女の個人的なざっくりとしたカテゴリーだが、うまく言い表していると思った。やはり海外に出て勉強をしているだけあって、かなり冷静に、批判的に国のこと、自分の将来のことを考えられているという印象だ。「第1タイプ」に属しかつ資源をうまく活用できている彼女がこれからどう世界で活躍していくのか、とても楽しみだ。


Ryoko Hasegawa

投稿者について

Ryoko Hasegawa: 秋田の国際教養大学グローバルスタディズ課程4年生、長谷川綾子(りょうこ)です。1995年生まれ、出身は大阪です。2016年の香港大学への交換留学を経て、2017年秋から華東師範大学に1年間の予定で公費留学中です。地方から上海に進学してきた若者へのインタビューを通して、中国人の多様性、彼らの故郷・将来への思い、学生生活について少しでも伝えられたらと思っています。どうぞよろしくお願いします。