第8回 匿名「冒険が大好き、でもまずはお金を稼ぎたい」
第8回のインタビューは上海交通大学公共管理学部4年生の学生です。友人と一緒に何度か食事をした仲の彼。好奇心旺盛で、留学、インターン、旅行すべてに妥協せず忙しい学生生活を送っています。将来の夢はてっきり観光関係の仕事をするのかと思いきや、意外と現実的なようです。
留学中の旅を通して気づいた世界の広さ
普段はどんな大学生活を送っているの?
とっても豊富で多彩だよ。友達と出かけたり、交換留学をしたり・・・。日々の生活でプレッシャーを感じることはあまりないね。
留学していたよね?
カリフォルニア大学バークレー校のサマースクールとシンガポール国立大学に半年留学していた。交通大学は奨学金も豊富だし、国内では良い大学だけど、世界的に見るとまだまだだと気づいた。留学先の教授は熱心でしっかりと毎回の授業を準備してくるし、生徒も教授に対して挑戦的な質問を様々な視点から投げかける。中国では高考で良い成績を修めて良い大学に入ったら順風満帆という感じだけど、国外は入るのは簡単でも卒業が大変。特にシンガポールの学生の勤勉さに本当に驚いた。
授業外で印象的なことはある?
留学中は暇さえあれば1人で旅行していたので自らの見聞を広げることができた。インドネシアやシンガポール、マレーシア、インドなどを旅する中、特に印象的だったのは宗教的価値観と民族問題。シンガポールでは3つの民族が混在していて、それぞれがグループの利益を追求しているのが垣間見えた。マレーシアでは華人とマレー人間の緊張が目立った。
中国でも民族問題は存在するよね?
中国にも少数民族はいるけど東部ではあまり影響がないからあまり深く考える機会がないし、一部の民族を除いて漢民族との差がなくなってきている。僕は民族問題について、どちらかというと悲観的。民族が調和して暮らせることなんてあるのだろうかと懐疑的に思う。特に中国では民族紛争が暴力的になっているしね。
まずはたくさんお金を稼いで自立したい
特に印象的だった旅の話を聞かせて。
インドのガンジス川近くで過ごした時間かな。ガンジス川辺で沐浴する人を観察したり、瞑想したり、マリファナも試してみた。空間と時間の流れがわかるようなとても奇妙な感覚だった。ホステルの滞在を通してかなり敬虔な信者とも知り合った。彼に宗教についてどう思うかと聞かれたとき、僕はビジネスだと答えた。ショーを見て宗教がビジネスに使われている気がしたんだ。
今は旅行代理店大手でインターンしているよね。将来も旅行関係の仕事がしたいの?
たくさんお金が稼げれば、どんな仕事だってかまわない。旅行は好きだけど、旅行業界の成長は限られていると思うから、本業にはしたくないな。C-tripとか大企業が寡占状態でパッケージプラン等ありきたりな商品を売り出しているだけ。小さな会社が富裕層向けの個人向け商品を販売しようとしているけど資源が足りなくてなかなかうまくいかない。金融、ITとかもっと儲かる時代に合った仕事をして経済的に自立したい。
たくさんお金を稼いで、その後何かしたいことはある?
冒険が大好きだから世界中を旅するのもいいけど、チャリティー団体を旅行中に見て、素晴らしいと思ったからそういう団体の運営もいいかなと思う。まあでもそんな真剣には考えてないし、現段階ではわからないな。
なぜお金を稼ぐことがそんなに重要だと思うの?
うーん。もしかすると、僕の生い立ちかもしれない。結局自分は浙江省の小さな街から出てきたから、社会的地位とか富とかに憧れるんだと思う。
両親や祖父母は大学で勉強する余裕なんてなかった
故郷はどんなところ?
故郷は上海の隣、浙江省の海辺の小さな町。上海に比べると都市としての規模は小さいけど、沿岸部に位置しているので経済はとても発展している。産業構造でいうと上海は主要産業がサービス業になっているけど、故郷では未だに工業や農業が地元の産業を支えている。スイカやサトウキビの栽培で有名だよ。教育水準は明らかに上海のほうが高い。故郷では両親や祖父母のように大学で勉強する暇もなく働いてきた人が多いから、進学率も上海に比べると低いと思う。
なぜ上海に来たの?
獲得した高考の点数で行ける一番良い大学に入った。ただそれだけ。
卒業後も上海に残る?故郷に対する特別な思いはある?
おそらく残るかな、状況によるけど。正直良いチャンスがあればどこだって構わない。故郷は故郷。特に思いは変わってないかな。
逆に上海にはどのような思いを抱いている?
僕は上海という街のエネルギーが大好きだ。美術館やカフェ、有意義に時間を過ごすことができる場がたくさんある。でもどこか自分はこの街に完全には属していないような、そんな感じがする。
インタビューを終えて
以前食事をした時、もうすぐ始まろうとしていた旅行代理店でのインターンについて興奮気味に話してくれた彼。将来もその方向に進むと思っていたので、彼の現実的な目標は予想外でした。自らの生い立ちがそう思う理由だと、彼自身が認識しているのがさらに印象的でした。中国人は拝金主義だと煙たがる人がよくいますが、彼のご両親のように、数十年前の貧しい状態から、国の政策に翻弄されながら身を粉にして働いて今の地位を手に入れた人が多くの割合を占める中、そうなるのは生き抜くうえで自然なことなのかもしれません。彼の言葉を聞いて、第3回のあとがきで紹介した友人の言葉を思い出しました。優秀で好奇心旺盛の彼にとって「たくさんお金を稼ぐ」という目標は達成可能のはず。10年後彼と再会して、彼の新しい目標を聞いてみたいです。
Ryoko Hasegawa: 秋田の国際教養大学グローバルスタディズ課程4年生、長谷川綾子(りょうこ)です。1995年生まれ、出身は大阪です。2016年の香港大学への交換留学を経て、2017年秋から華東師範大学に1年間の予定で公費留学中です。地方から上海に進学してきた若者へのインタビューを通して、中国人の多様性、彼らの故郷・将来への思い、学生生活について少しでも伝えられたらと思っています。どうぞよろしくお願いします。