Away from home in Shanghai ~大都会上海で暮らす学生のすがた~

第9回 饭饭(ファンファン)「中国のデザインも、若者の働き方も変わりつつある」

第9回のインタビューは現在華東師範大学3年生デザイン学部のファンファンです。彼女とは大学の空手部に入部したてのころ、練習でペアになってから意気投合し、仲良くなりました。陽気でおしゃべりで、絵を描くことを愛する彼女。彼女の作品も色鮮やかで遊び心に富んでいて、見る人を笑顔にしてくれます。そんな彼女との、終始笑いが絶えなかったインタビューです。



食堂の夜市メニューを一緒に食べたときの写真。大きなボールに入っているのはザリガニ。
 

専門は景観デザイン-中国のデザインも、若者の働き方も変わりつつある-

いつからデザインに興味をもったの?
ずっとアニメと絵を描くことが好きだったから。

デザイン学部の学生の大学生活ってどんな感じなの?
大学ではいろんな側面からデザインを学べるから面白い。専門の景観デザインのほかにもインタラクションデザイン、グラフィックデザイン、シルクスクリーンとかね。上海にはたくさんの展覧会や、国外の学生と交流する機会があるから楽しいよ。こうやって綾子にも出会えたしね!笑

在学中の一番印象的な出来事は?
大学2年生の時の3週間のイタリア人講師による特別授業かなあ。水泥や石膏などの多くの材料をいろんな割合で混ぜ合わせて、2日間で1つの設計のスケッチや模型を作った。英語はわかりにくいし、知らない材料だらけで大変だったけど、皆で団結して徹夜して頑張ったから今も心に残っている。ちなみに、基本的にイタリアの提携大学で教えられていることを参考に師範大で教えているんだよ。

中国のデザインについてどう思う?
ヨーロッパと比べると、まだまだ。まず、模式化されていて創造性に欠ける。山寨(偽物・模倣の意味)の問題もかなり深刻。でも若者は気づいていて、クリエイティブアート空間が増えつつある。地方政府管轄の設計院に入る代わりに事務所を起業したりして、自分のスタイルを追及する若者が増えている。あと一つ問題を挙げるとすれば、優秀な人材の欠如。デザインを専門にする人は増える一方だけど、専門をとことん突き詰める人が減っている。私たちの年代の人々は責任感に欠けると言われることが多い。まあ、社会が開放的になったから仕方ない気はするけど。

これから若者の働き方も変わるかな?
これからはもっと起業を選ぶ人が多くなるんじゃないかな。私の後輩は既に起業して成功しているし。友達は網易(中国4大ポータルサイトの1つ)でコスプレの絵をデザインして売ることでお金を稼いでいる。私は小規模のベンチャーに就職したいな。大企業に入ったら生活は安定するだろうけど、自己成長はあまり期待できないよね。ヒエラルキーがあって昇進しづらいし。

大学卒業後は景観デザインに関わる仕事をする予定?
うん。まずは国内で働いて自分にとって何が足りないかを見極めたい。卒業生を見ていると、5、10年後くらいにみんな疲れてやめるっていうからもし無理だったら子供たちに絵を教えたいなと思っている。



イタリア人講師の特別授業のときにつくった模型
  

大学でデザインを勉強し始めてから故郷を誇りに思うようになった

故郷はどんなところ?
私の故郷は中国の北部、山西省。故郷は北部内陸に位置している。北部は農園が多く、資源はあっても自由に開発できるような状況ではないし、内陸部もインフラがまだまだ発達していない。実家は山西省中心の太原市から2時間ほど離れてるんだけど、街中に地下鉄なんて通ってないよ。中心部太原市でやっと建てられ始めた。友達や家族が皆故郷にいるから帰りたい時もあるけど、飛行機で2時間半、火車だと20時間もかかって遠すぎるんだよね。

上海に来た理由は?
海辺の少し湿っぽい気候が好きだから。

上海の印象は?故郷と何が違う?
上海は国際化が進んでいて、金融業が発展しているね。それに対して地元の経済を支えているのは鉱業。最近になって、産業構造を刷新しようという動きも出てきていて、観光業が盛んになってきた。王家大院や乔家大院など、有名な観光地があるよ。
故郷では職がなくて若者が皆都市部に出て行ってしまうので高齢化問題が深刻化してしまっている。それに対して上海は各区に驚くほど多くの学校があって、電車で通ったりするけど故郷ではそんな選択肢もないし、私なんて家から自転車で5分圏内の学校に通ってた。
あとはやっぱり利便性かなあ。上海は夜でも街が活気に溢れている。上海は24時間営業の店がたくさんあるけど、故郷だと冬は夜11時くらいで誰もいなくなっちゃう。飲食においても、故郷だと他の地方からの影響は少ないけど、ここだと何でも揃っている。故郷でも商業複合施設は増えつつあるけど。

風習も違うんだよね?
風習で言えば、24節気、太陰暦に基づいて誕生日を祝う。性格も、私を見ればわかるように北の方が活発で率直、こっちの人は穏やかで甘ったるい話し方をする。食べ物で言うと、酢や麺類が有名。上海の人は甘い食べ物が多いけど、故郷の人は酸味、辛さ、塩気の強い料理を好む。今では実家の料理がたまに塩辛く感じる。

卒業後は上海に残りたい?
上海、北京、広州あたりの大きな都市にいると思う。故郷では就職の機会少が少ないし、親も帰ってくるなって言うしね。「山西=国家から見放された場所」という意識が強いのかもね。故郷はまず経済の刷新、就職の機会の増加にまずは取り組んで若い人が残れるような選択肢を作る必要がある。

上海に来てから気づいた故郷の良さってある?
大学で景観デザインを専門に勉強し始めて気づいたけど、山西には榫卯という技術を使って建てられた世界一古い木造建築の应县木塔が残ってるんだよ。先生が教えてくれるまで私も知らなかったから、今度帰省したときに行ってみようと思っている。昔は山西が古臭い街だと思っていたけど、最近は故郷のことを誇りに思う。上海なんてまだまだ歴史が浅い街じゃない!て感じ。笑 山西は伝統文化が色濃く残る都市。最近はテレビで取り上げられることも増えてきたので、どうやって保存していくかを考えないといけないね。



今では少し塩辛く感じるという実家の母の手料理。
  

インタビューを終えて
先日久しぶりに連絡をとったところ、大学院で研究を続けることが決まったと嬉しい報告をしてくれました。今回のインタビューは中国のデザイン、若者の働き方について考える良いきっかけになりました。インタビューの中でクリエイティブアート空間のことが出てきましたが、歴史的・文化的価値のある建造物保護を目的にこのような创意园区と呼ばれる文化の発信地が増えているようです。ファンファンとも一度、新しくできたシェアオフィスで行われたイベントに一緒に参加しましたが、スタイリッシュなカフェや開放的な共有スペースに感度の高い若者がたくさん集まってきていて、その活気に驚きました。起業家精神も旺盛な若者たち、これからますます勢いを増していきそうです。


Ryoko Hasegawa

投稿者について

Ryoko Hasegawa: 秋田の国際教養大学グローバルスタディズ課程4年生、長谷川綾子(りょうこ)です。1995年生まれ、出身は大阪です。2016年の香港大学への交換留学を経て、2017年秋から華東師範大学に1年間の予定で公費留学中です。地方から上海に進学してきた若者へのインタビューを通して、中国人の多様性、彼らの故郷・将来への思い、学生生活について少しでも伝えられたらと思っています。どうぞよろしくお願いします。