国際教養大学(秋田)では1年の海外留学が必須ですが、中国語圏に留学する学生は毎年1名いるかいないかだそうです。
そんななか、今回執筆してくださる長谷川綾子さんは、3人めの寄稿者。
一昨年の飯島悠希さん(武漢)、昨年の金指みなみさん(台湾)に続き、長谷川さんは上海から送稿してくれます。
長谷川さんの中国語圏への接触は、さかのぼること2年前。香港が初めてです。香港大学への1年の留学で体験した、大陸人と香港人の交わらなさへの疑問が、彼女を上海へと向かわせたそうです。
大陸・上海に集まる若者たちへのインタビューを通して彼女は、香港で見つけた疑問への解に、どのようにたどり着くのでしょう?
BB第1回 「香港での気づき―揺れる若者のアイデンティティ」
ニュージーランド→香港→そして、上海
こんにちは。国際教養大学4年、現在上海留学中の長谷川綾子です。
初回ということで、まずは私が上海にやってきた経緯について少しお話させていただけたらと思います。
私は幼い頃から英語に興味と憧れを抱いており、高校1年次には1年間ニュージーランドに留学し、国際教養大学に入学しました。
大学には台湾・香港からの留学生が多数来ており、親睦を深めていくうちに彼らの中国に対する微妙な感情に気づくようになりました。恥ずかしながら大学に入学するまでは「台湾、香港、中国」この政治的に不安定な関係性についてあまり深く考えたことがありませんでした。もっと彼らのことを理解したい、そんな気持ちから私の興味は北東アジア圏、中華圏へと傾倒していきました。
そんな中やってきた、3年次の交換留学。私は迷わず香港と台湾の大学を志望しました。高校在学時の留学とは違って、様々なバックグランドを持った人が混在しているアジアの国際都市に身を置きたいと考えていた私にとって、香港は特に理想的な留学先でした。
2016年1月から1年間、香港大学での留学生活が始まりました。
香港人と中国人が口を効かないという驚き
留学中、私は香港・香港島にある香港大学の医療系学部向けのキャンパス近くの寮に住んでいました。約370人の寮生のうち、香港人、中国大陸からの学生、外国人の割合が大体7:2:1とローカル色の強い寮でした。香港大学の寮では、ドラゴンボートやソフトボール、合唱などのクラブ活動が盛んに行われています。
現地生が寮に住み続けるには寮内の活動に参加することが必須のため、彼らは授業後すぐにクラブの練習に参加し、帰寮すると休む間もなく夜深くまで日々の学習に取り組んでいました。多忙な毎日を送っているからか、最初あまり話しかけてくれなかった現地の寮生も、留学後半に突入すると心を開いて寮のイベントにも積極的に誘ってくれるようになりました。
留学当初から抱いていたぼんやりとした違和感が大きくなったのは、ちょうどこの頃でした。
寮内のイベントに中国人学生の姿がまったく見えないのです。また、同じ階には中国人学生も現地生も一緒に住んでいるのにかかわらず、彼らが同じ部屋に割り当てられることはまずありません。イベントに誘わないどころか、廊下ですれ違って挨拶を交わすことすら稀でした。
現地生になぜ中国人学生と交わらないのかと聞いてみたところ、中国の学生はマナーが悪い、勉強ばかりでクラブ活動にそもそも積極的ではないから誘う必要はない、などと皆中国人に対するネガティブな意見を口にしました。
もちろん2014年9月に香港の高校生と大学生が中心となって「真の普通選挙」を求めて立ち上がった雨傘革命など、デモの様子は留学前から目にしていたので、香港の学生が年々存在感を増している中央政府に反発しているということは事実として知っていました。ですが、このような対立構造が日常的に学生の間でも存在するのかと、私は驚きました。
確かに、中国人の行動規範は香港の人のそれと異なるかもしれない。でも本当に彼らはマナーが悪くて勉強しかしない、つまらない人々なのだろうか。もちろん決してそんなことはありません。私が個人的に仲良くなった中国人の友人は、深夜まで中国語の授業のプレゼンの練習につき合ってれ、将来の夢に向かって高い目標を掲げ努力を惜しまない、心優しく優秀で尊敬できる人たちばかりでした。
中国とそこで生きる人を知りたい
香港は政治的に厳しい状況に立たされており、若い世代が反発する理由もよくわかります。でも私は第三者として、彼らが反発する中国という国を、そこで生きる人たちをこの目で見て、もっと知りたい、そう思いました。そんな気持ちから一念発起し、現在日本の大学を休学し中国・上海の華東師範大学に、2017年9月より1年間の予定で公費留学中です
私が上海に来て驚いたのは、この街の発展の勢い。次から次へと巨大な商業ビルが竣工していくことはもちろん、IT関連の技術が進んでおり、生活全般の利便性が非常に高いです。
空腹でも外に出るのが億劫なときはデリバリーサービスを頼み、歩くのが面倒なときはレンタルバイクを借り、レストランでお会計の時は電子マネーでさくっと清算。現金を持ち歩くことがなくなりました。無人コンビニなどもどんどん増えてきています。もちろんこの優れた利便性の裏には、社会問題や環境問題も潜んでいるということも忘れてはなりませんが、本当に何不自由ない生活を送っています。
地方からチャンス求めて上海にきた学生
そして何より、国際的な印象が強い上海には外国人のみならず、中国全土から人々が職や機会を求めて集まってきている、ということに気づきました。すると上海という大都会で暮らす中国の若者と、中国に反発しもがく台湾や香港の若者の姿が少し重なって見えました。中国という大きな国の下に置かれ、形は違えど懸命に生きているという点では彼らは同じなのではないか、そう思ったからです。
そこで、この連載では地方出身かつ上海在住の学生に焦点を当て、対話形式で進めていくことにしました。大都会で揺れる若者の故郷への思いや将来の夢を伝えることで、大きな国としてとらえてしまいがちな中国という国の多様性を読者の皆さんに伝えられたらいいなと思っています。
どうしてもどこか得体のしれないように感じてしまう「中国人」のイメージが、1人1人のストーリーを通して少しでも身近な存在の「人」へと変わってくれますように、そんなささやかな願いを込めて上海からお届けします。
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長谷川綾子
秋田の国際教養大学グローバルスタディズ課程4年生、長谷川綾子(りょうこ)です。1995年生まれ、出身は大阪です。2016年の香港大学への交換留学を経て、2017年秋から華東師範大学に1年間の予定で公費留学中です。地方から上海に進学してきた若者へのインタビューを通して、中国人の多様性、彼らの故郷・将来への思い、学生生活について少しでも伝えられたらと思っています。どうぞよろしくお願いします。