第1弾 激動の歴史を生きた家族の物語

2016年8月30日 / 中国秀逸ドラマ



人间正道是沧桑


~人间正道是沧桑 (全50集)~

まず最初に“人间正道是沧桑 ”をご紹介したいと思います。このタイトルは中国語で“移り変わりこそ人の世”という意味ですが、1925年から1949年までの近代中国歴史の中で最も激動の時代に生きた人々の物語です。孫紅雷(楊立青)、黄志忠(楊立仁)、張恒(楊立華)の3兄妹に、柯藍(瞿霞)、楊雪(林娥)、孫淳(瞿恩)などの豪華俳優陣が、激動の時代の中でそれぞれの立場や信念で懸命に生きる姿が描かれています。

1925年の中国は孫文が亡きあと、革命新政府と北京などの各軍閥が対峙していた時代ですが、広州に革命政府の軍官養成機関として蒋介石が校長を務める黄埔軍官学校が設立されます。当時は軍閥に対する革命政府軍の育成のため、国民党と共産党が協力していた時代ですが、両者の矛盾と不信が徐々に広がって相互監視が始まります。その激動の時代の中で日本の士官学校を卒業した父を持つ3人の兄妹がそれぞれの道を歩み始めます。

やがて国共合作は破れ立青の家族も共産党と国民党の幹部として、それぞれの立場で対立した状態となります。立青は好意を寄せていた瞿霞の国民党による逮捕や投獄、更に恩師瞿恩教官が戦闘の中で国民党に射殺される中でつらい時期を迎えます。ところがここに日本が入ってきて三つ巴となり、これが第2次の国共合作を促し両者の対立は一時的に停止されます。分かれていた兄妹にも和解の機運が出てきますが、根本的な相互の不信感は拭い切れず、日本投降後には直ぐに対立が始まり解放戦争が始まります。

特に日本が支配していた中国東北地区は、両者が覇権を目指して激しい戦闘地域となります。米国から支援を受ける国民党の砲弾に対抗するため、共産党は東北に残っていた日本人技師を利用して国民党を上回る性能をもつ砲弾を開発させる場面や、戦闘で負傷した兵士の看護のため、日本人医療部隊を優遇する場面も出てきます。

このドラマは激しく変わる不安定な時代でそれぞれの進む道は違っていても、家族の絆の大切さや、本当に信頼できる友人や尊敬できる先輩を持つことの大切さを教えてくれます。孫文の革命から中華人民共和国の設立まで、さまざまな場面で日本がどう関わったのか、中国人がどう見ていたのかも理解できます。バイオリンやピアノが中心の音楽も素晴らしく、美しい場面に彩を添えてくれます。是非皆さんにお薦めしたいドラマです。

以上



第2弾 愛情あふれる夫婦と家族の物語

2016年8月30日 / 中国秀逸ドラマ



父母愛情


~父母愛情 (全45集)~

2回目は“父母愛情”をご紹介します。物語の舞台は海と町並みが美しい青島。砲兵学校勤務の海軍軍人の(郭涛演じる江徳福団長)に“小資本家”と言われた資産家の娘(梅婷演じる安傑)が出会う場面から始まります。朝鮮戦争直後の時代は、国民党や台湾、米国とつながりの有る人々は“出身不好”として歓迎されませんでした。2人の出会いは砲兵学校が男女の出会いのため開いたダンスパーティで、主に農村出身の女性が招待されましたが、人数不足で資産家の娘安傑も一人参加しましたが、育ちの良さから周囲の女性とは明らかに違う存在でした。一方朝鮮戦争の英雄として既に砲兵学校で名声のあった江団長は美しい安傑に一目惚れします。当時は軍幹部と資産家との結婚には障害が多く、江団長は軍職と党員資格を失くしてまでの結婚を決意しますが、最終的に組織から許可を受けます。

こうして2人の共同生活が始まりますが育った環境が大きく異なるため、あらゆる場面で衝突が起きます。この衝突がとてもおかしいのですが、安傑がリードして江徳福がそれに慣れる形で2人の間の近くなっていきます。時代は文革となり安傑の姉夫婦は右派のレッテルを貼られ青島を追われ厳しい生活環境へ追い込まれます。一方江団長は参謀長に昇進して海軍基地の有る離島へと派遣となりますが、都会暮らしに慣れた安傑は当初島行きを拒否しますが、周囲の圧力でそれも難しくなり、ついに2人の子供を連れて離島暮らしを決断します。暮らし向きは不便でしたが、隣人や職場での人間関係にもまれ、様々な出来事が起こりながらも、5人の子宝に恵まれて幸せな日々を過ごします。子供たちも軍人を含めそれぞれの道を進みます。

やがて暗い文革の時代が終わって資産家の生活も平穏となり、退役後夫婦も青島に戻ります。最後の場面での子供たちからのプレゼントで、離島時代に毎日聞いた軍号(出勤や食事の時間を知らせるラッパの音)を2人肩を寄せ合って聞く場面はとても印象的です。日本との関係では離島生活の中で、“さよなら“と安傑が日本語で声をかけるのは日中国交が開かれた70年代でしょうか。当時中国で片言の日本語が流行っていたのかも知れません。

この物語は夫婦が家族や親戚、職場の人々に支えられて、さまざまな困難に遭いながらもともに老いて行く姿を生き生きと描いています。思わぬ優しさに支えられて涙を誘う一方、やきもちやおせっかい、小さな失敗等で笑いの部分も多く、美しい青島や離島を背景に、とても爽やかな気分にしてくれます。夫婦でこのような一生が送れたら素晴らしいと思わせてくれる素晴らしいドラマです。

以上



第3弾 東北の鋼鉄会社を舞台にした歴史物語

2016年8月30日 / 中国秀逸ドラマ



鋼鉄年代


~鋼鉄年代(全37集)~

第3回は鋼鉄年代をご紹介しますが、遼寧省にある“鞍山鋼鉄”を舞台にしたドラマです。ここは瀋陽から車で数時間のところに有りますが、中国でも有数の鋼鉄会社ですので、ご存じの方も多いと思います。私自身も以前出張で何度か訪問した事があり、何本もの煙突からあがる煙と、真冬の工場内の寒さを今でもよく覚えています。

ドラマの始まりは日本敗戦以降、この鋼鉄工場を先に接収、管理していた国民党と東北解放を目指していた共産党との戦いの場面から始まります。国民党は投降し共産党の管理下に入りますが、新国家設立で鋼鉄需要が高まる中、戦前日本が建設した鞍山鋼鉄は当時中国最大の鉄鋼生産拠点として政府から重要視されていました。

その中で工場長(陳国宝演じる尚鉄龍)の下に配属された日本人女性(松峰璃莉演じる鈴木加代)の鉄鋼技術者が登場するのですが、自らも満州で家族を失って一人中国に残り現地で力を尽くそうとする加代に対し、当初戦争の記憶から鉄龍の加代への風当たりは強かったのですが、加代の懸命に働く姿を見て両者の関係は信頼から愛情に変わっていきます。やがて二人は結婚を決意しますが、当時共産党幹部だった鉄龍が日本人との結婚するためには党組織の壁があり、最終的に二人は結ばれず加代は帰国します。

時代は移り大躍進政策のもと15年で英国を追い越す目標に向かって、鞍山鋼鉄工員の住居でも、集合住宅の中庭に土で作った炉を使っての鉄鋼生産が始まります。鉄くずは家から集めて来るのですが、土の炉での生産がうまくできるはずもなく、これを科学的でないと批判したもう一人の工場長(冯远征演じる楊寿山)は労働改造所送りとなります。その後の食糧難が更に工員の困難な生活に追い打ちをかけ、栄養不良で倒れる工員が続出しますが、皆が力を合わせて困難な状況を乗り切ろうとする姿は心を打たれます。

生活が困難だった時代を描いたドラマですが、家族、隣人、職場の人々が一体となって困難ぬ立ち向かう姿はとても心温まるものがあります。1950年代の日本やソ連、米国との関係、大躍進時代の土炉を使った鉄鋼生産や食糧難時代の糧票など、歴史的にも勉強になる材料が多く含まれています。また日本との関係では戦争直後に新中国建設に貢献した日本人がいた事に心打たれます。個性的な俳優陣、美しい黒竜江省の映像、そして音楽など本当に素晴らしいドラマに仕上がっています。

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第4弾 残留孤児と中国人家族の物語

2016年8月30日 / 中国秀逸ドラマ



小姨多鹤


~小姨多鹤 (全36集)~

4回目は“小姨多鹤”をご紹介します。ドラマは戦後中国東北地区に残された複数の日本人残留孤児が麻袋に入れられて町で売られている場面から始まります。そこに偶然通りかかった一家の父親(杜源演じる張石匠)が一人の孤児を買って帰るところから物語が始まるのですが、家族は戦争で被害を受けた多くの中国人の日本人への感情として、周囲の反感を大変恐れます。そこで家族の息子(姜武演じる張检)は、孤児を冬の川に捨ててしまおうとしますが、間一髪のところで母親(薩日娜演じる关小脚)が助けます。この19歳孤児の日本人(多鶴)を演じるのが孫麗という中国トップ女優ですが、多鶴は当時ソ連軍の参戦で混乱した東北から逃げる中で家族を失い、自らも重傷を負い瀕死の状態で売られていました。

やがて多鶴は日本人であることを隠して中国人として生きることになりますが、中国人父母の愛情を受ける一方で、日本兵の被害で子供の産めなくなった息子夫婦のために3人の子供を産み、更に家計を助けるため重労働に従事します。生活はとても苦しいのですが、子供たちと息子夫婦とともに幸せな日々を過ごします。3人の子供たちは真の母親が多鶴ということを知らず“小姨”と呼んで育ちます。

真摯に生きる多鶴の姿に周囲の中国人も好意を持つようになり、その後日本人であることが分かって差別を受けそうになる多鶴を助けるようにもなります。多鶴は自らも恋愛をし結婚相手まで見つけますが、思わぬ不幸に遭ってしまいます。そして1972年の日中国交正常化で思わぬ出会いが有り、子供たちも本当の母親を知ることになります…

“小姨多鹤”は北京で共同研究を行っている主任の方から、日本人への推薦ドラマとして紹介を受けたものです。中国で仕事をされている皆さんは感じる機会が有ると思いますが、お互いの意識の中に歴史的な話題にはなるべく触れない、触れにくい部分があります。しかしつきあいが長くなるにつれて、さまざまな話ができるようにもなります。

孫麗の演技は本当に素晴らしく思わず引き込まれてしまいます。戦前中国東北には日本人移住者が多く住んでいたために、他の地方にはない特有の歴史がうまれました。戦後中国人に引き取られた日本人孤児がどのような人生を過ごしたのか、中国人が日本人にどう接したのか考えさせられるドラマです。東北地方の美しい景色と音楽を背景に、戦争に翻弄されながらも、激動の時代を懸命に生きた中国人と日本人の愛情を描いた素晴らしいドラマです。

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第5弾 北京に夢を求めてやってきた若者の姿

2016年8月30日 / 中国秀逸ドラマ



北京爱情故事


~北京愛情故事 (全39集)~

第5弾は地方から北京に夢を求めてやってきた若者を取り上げた“北京愛情故事”をご紹介します。タイトルから見ると若者の恋愛や失恋の軽い内容と思いがちですが、“外地人”と言われる地方から北京に出てきた若者たちの希望、苦悩や葛藤を切実に描いた作品で、すぐに引き込まれました。ドラマで何度も歌われる中国で大人気のロック歌手汪峰が切なく歌う“青春再見”が心に響きますが、これを見ないと代表作“北京北京”含めて彼の歌の意味はわからないと思いました。

さて物語は主人公の陳思成演じる疯子こと程锋、李晨演じる老吴こと吴狄、そして张泽演じる小孟こと石小孟の3人の大学同級生と、彼らを取り巻く女性と家族を中心に展開します。3人は北京での大学同級生で楽しいキャンパスライフを送りますが、卒業後北京でそれぞれの道に進むなかで厳しい実社会の現実が、彼らの環境と関係を大きく変えて行きます。疯子はその名前の通り投資会社社長の息子として経済的に恵まれ、自由奔放で仕事もせず女性を追いかける毎日ですが、早くに母親を亡くし家庭を顧みなかった父親に対する恨みを持ち心の傷を抱えたまま成長します。老吴は外資系メーカーに営業マンとして勤務しますが、学生時代からの彼女(杨幂演じる杨紫曦)が花屋さんを持ちたいという夢を叶えてあげられず、裕福な若者の下へ去ってしまいます。そして3人の中で最も成績優秀だった小孟は小さな広告代理店に勤務しますが失敗が多く成績は上がりません。

小孟はそんな中でも何とか資金を集めて大金で38㎡の小さなアパートの購入にメドが立ち、佟丽娅演じる田舎にいる幼なじみの沈冰を北京に呼びだすのですが、その彼女を疯子が好きになってしまうところから、3人の運命が大きく変わっていきます。

このドラマは地方から北京に出てきた若者がどのような境遇で生活しているかをうまく描いていると思います。社会で成功し豊かで安定した生活を送りたいと思うのは日本でも同じですが、中国は急速な経済発展の一方で、所得の大きな格差や社会保障等に多くの課題も有ります。厳しい競争社会の中でも大切にしなければならないのは何か、失ってはいけないものは何かを教えてくれます。周囲にいる中国の若者がおかれた状況を理解する上でも一度見てみて下さい。 

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第6弾 40代夫婦の苦悩

2016年8月30日 / 中国秀逸ドラマ



人到四十


~人到四十 (全38集)~

第6弾は家庭を支える夫婦と家族の有り方を提起したドラマの紹介です。40代の夫婦といえば社会での責任も重く最も忙しい時期でもありますが、身近で大切なものとは何かを教えてくれます。

物語は王志文演じる小さな精神病院の主任医師の梁国輝が検査で肺がんが見つかり、余命半年の宣告を受ける場面から始まります。寿命が限られたものであることを知った国輝は自身の人生を振り返りはじめます。妻の江珊演じる郑洁は大病院の外科医師でもありますが、仕事と家庭とも多忙で、国輝とのすれ違いが多く家庭で口論が絶えません。一方国輝の勤務する病院では若手女医の王思思演じる华碩が、国輝から余命僅かな病気の話を聞き、自らの恋心を告白し、限られた残りの時間を精一杯ささげようとします。妻の郑洁は华碩と協力して国輝の最後の時間を大切に過ごそうと努力するのですが、手術の結果幸いにも肺がんは良性で一命を取り留めたところから物語の展開が大きく変わっていきます。

落ち着かない家庭状況から一旦は华碩に心が動いた国輝ですが、やはり家庭への責任感から华碩と距離を取り始めます。ところが国輝への気持ちが諦めきれない华碩はあらゆる手を尽くして引き戻そうとします。そして元々冷えていた国輝と郑洁との夫婦関係は华碩の存在をきっかけにして新たな展開が始まります...

夫婦役の王志文と江珊は主演とされていますが、私は华碩役の王思思にとても魅かれました。事実上の主役は彼女だとも思います。国輝への思い切った告白、懸命の看病、国輝から冷たくされた時の態度、妻の郑洁との緊張した会話、最後の別れなど各場面での豊な表現力に満ちた演技力に心惹かれます。特に21集で揺れ動く心を表した場面は本当に素晴らしく、私が数多く見た中国ドラマの中でも最も輝いた表現力を持った女性です。

ドラマでは何故かドラえもんの“のび太”と“しずかちゃん”の人形が愛情表現のシンボルとして登場しているのが印象的で、メインソングとして流れる王钲亮が切なく歌う“不曾分开”も心に響きます。40代の夫婦をベースにした人間模様を見事に描いた作品です。是非ご覧ください。

以上


第7弾 “中国の病院を舞台にして”

2016年8月30日 / 中国秀逸ドラマ



心术


~心术 (全36集)~

強い北風で北京の冬らしくなってきました。一度病院を舞台としたドラマを取り上げたかったので、今回は中国人中でも評判の高い“心术”をご紹介したいと思います。

一般に中国の病院で診察を受けるのは簡単では有りません。まず診察券を得るために時間をかけて並ぶ必要がありますが、評判の良い病院や医師ほど集中するので、診察を受けるまで一苦労です。更に都市の病院には地方での治療が難しい患者も来ますので、結果的に都市の大病院では医師が毎日非常に多くの患者を診ています。

“心术”の舞台である脳外科では腫瘍を除去する手術が多いのですが、多くの中枢神経が集中する部分で、手術後に後遺症が残ったり、極端な場合は死亡につながる場合も少なく有りません。手術前に家族に十分な説明行い同意を得ていたとしても、結果に納得のいなかい場合も有り、医者と患者は高い緊張関係に有ります。医療事故の責任を取らされて病院を去った医師が、今度は弁護士として病院と対決する場面や、医療事故を専門にして騒ぎを起こす“医闹”と呼ばれる人々の存在も絡めて、医者と看護婦が大変な圧力の中で仕事をしている状況が良く描かれています。

ドラマでは大型病院で脳外科医である吴秀波演じる霍思邈(老二)、先輩医師の张嘉译演じる刘晨曦(老大)、その娘で重い腎臓病を抱えた南南、若手医師の翟天临演じる郑艾平、そして看護婦の海清演じる美小护を中心に様々な物語が展開します。主人公の霍思邈は一見軽い感じの独身医師ですが、倫理観が高く、腕利きで“医闹”を含む難しい患者家族への対応で周囲の信頼を得ています。日々の診察と手術の傍ら、病状の悪化する先輩医師の刘晨曦の娘を救おうと子供の臓器探しに奔走しますが、刘晨曦は父親と医師としてのはざまで一度は苦しい決断を迫られます。一方若手医師の代表格である郑艾平は親しかった看護婦を、医療事故で病院に殴りこんできた患者家族からの暴力から救えなかった自分自身を責め、一旦医師を辞める決心をしますが、やがて別の医療事故で不幸が起こった患者の家族から、医師を続けるように励まされます。

“心术”では人間がぎりぎりの状況でとる行動、発言する内容によって、周囲が大きく変わる様子をうまく描いています。中国の医療現場は多くの人口、収入格差、医師不足、保険制度、病院や都市と地方での医療設備や技術の差など多くの課題を抱えています。現代中国が抱える問題を理解する上でもお薦めの作品です。

以上


第8弾 母親の家族愛

2016年8月30日 / 中国秀逸ドラマ



为母亲的名义


~以母亲的名义 (全38集)~

さて第8弾です。母親の子どもへの愛情を描いた “以母亲的名义”をご紹介したいと思います。このドラマには中国で活躍する日本人俳優、矢野浩二さんと田中千絵さんが出演しています。母親役の王雅捷演じる杜彩霞は訳あって4人の子どもを育てますが、実は自分自身の子は1人もいません。日中戦争から国民党との解放戦争を経て激しく変わる時代に翻弄されながらも、母親として強く生き抜いた女性の物語です。

国共合作時、杜彩霞は八路軍の地下工作員でしたが、日本軍との戦闘中に戦死した同志の子(念红)を預かることになります。更に日本軍の内部情報を得るため、将校家族の保母として潜り込むのですが、日本軍が敗走する中で残された将校の子(中生 日本人)を育てます。日本の投降後、長く行方の分からなかった八路軍の夫との再開を果たしたときには、夫は杜彩霞が戦死したものと思い既に別の家庭を持っていました。その夫も妻と一緒に解放戦争中の国民党との戦闘中に亡くなりますが、ひとり残された子ども(胜利)を預かり、更に縁あって知り合った子ども(向阳)まで引取り、自らは結婚しないまま4人の子どもを育てることになります。

女手一つでの生活は大変苦しかったものの、4人の明るい子どもたちや、同じ四合院に住む教師役の田中千絵さん演じる单秋雅や高云翔演じる洪大贵らの良き隣人に囲まれて、充実した幸せな時間を過ごします。そして時代は移り日中が国交回復し、中生の叔父として矢野浩二さん演じる程南山(日本人と中国人から生まれたハーフの設定)が現れます。程南山は日中戦争中は抗日運動に参加し、戦後中国で医者になった人物として描かれていますが、自らの家族を東京大空襲で失い、当時の中国政府の後押しもあり唯一の親類である中生を日本に連れて帰りたい一心で探していました。

しかしながら程南山は中生と杜彩霞がとても強い親子の愛情で結ばれていることを知り、ついには日本へ連れて帰ることをあきらめます。杜彩霞は当初反発しながらもしだいに程南山の人柄に魅かれ、ついに2人は結婚まで考えますが、中国での伝染病と戦っていた程南山は自ら感染で失明する事になり、ひとり日本に帰国します。やがて4人の子どもたちは成長し恋愛や結婚、犯罪なと様々な問題と直面しますが、杜彩霞の子どもへの愛情は全く途切れることなく、叱咤激励しながらも最後まで子どもを守ろうとする姿勢に心打たれます。

このドラマは戦争に翻弄されながらも、強い意志と愛情で家族を守った母親の物語です。日本との関係も多面的に描かれていますので、皆さん是非ご覧になって下さい。

以上


第9弾 人情味溢れる筒子楼

2016年8月30日 / 中国秀逸ドラマ



老爸的筒子楼


~老爸的筒子楼 (全35集)~

第9弾は“老爸的筒子楼”をご紹介したいと思います。3月5日は有名な“雷锋”の日とされていますが、“雷锋”さながら少々おせっかいで人助けの大好きなお父さん(许亚军演じる雷二亮)が主人公です。“筒子”とは文字通り“つつ”の意味ですが、“つつ”のようなアパートは居間と寝室兼用の一家族に一つだけが個室で、残りの生活は全て共有でした。この自然と生まれる濃い人間関係で70年から80年代にかけて近代化が大きく進んだ時代の物語です。

お人好しの二亮は父親を朝鮮戦争で失くした“英雄の子”としても一目置かれた存在でした。ある日勤務先の国営工場でトラックの運転中に飛び出してきた刘威葳演じる许诺との偶然の出会いを果たします。運よく一命を取り留めた许诺でしたが、事情があって自ら飛び込んだものでした。後に二人は縁あって結婚し“筒子楼”での共同生活が始まります。

さて“筒子楼”には長年二亮を親代わりとして育ててくれた敬愛する艾师傅も住んでいました。身体の弱かった艾师傅自身も妻を早くに失くして幼い兄妹を育てていましたが、持病が悪化し亡くなってしまいます。残された兄妹をどうするか“筒子楼”の住民で検討し紆余曲折あって、結局二亮と许诺夫婦が引取り、経済的に苦しくも一家4人で楽しく充実した日々を送ります。一方当時まだ続いていた文革で、二亮の国営工場でも保衛課が反革命的な動きに常に目を光らせていました。ある日一人息子を連れて“筒子楼”に越して来た音楽教師に保衛課長が反革命の疑いをかけますが、二亮は追い込まれた音楽教師親子を勇気ある行動で助け出します。

80年代に入ると改革開放で急速な発展を遂げますが、市場経済の動きに遅れをとった二亮の国営工場は経営的に苦しくなっていきます。そこで救世主となるのが深圳で学んでいた二亮の息子(孙佺演じる艾军)とアメリカに渡っていた音楽教師の息子2人です。ところが2人が進める改革では育て親である“筒子楼”の工員らや二亮を解雇しなければなりません。解雇対象者の発表で騒然となりますが、ここでも二亮は自らの立場を乗り越えて息子たちの改革を支える行動をとります。

現在の北京では殆ど見られなくなった“筒子楼”を舞台として、家族、職場そして“筒子楼”で人と人との関係がとても濃かった時代の感動の物語です。豊かになった生活の象徴としての日本の家電製品も登場しますので、皆さん期待して見て下さい。

以上


第10弾 人々を幸せにする国家とは

2016年8月30日 / 中国秀逸ドラマ



北平无战事


~北平无战事(全53集)~

中国ドラマのご紹介もいよいよ最終回となりました。日中関係の多様な捉え方や中国社会の理解に意味のありそうな作品をご紹介させていただいたつもりですが、如何でしたでしょうか? さて最後は昨年末に放映され大きな反響を生んだ“北平无战事”です。1948年から1949年の間に起こった北平(今の北京)での物語を個性的な俳優陣が演じます。

当時の中国は8年に及んだ抗日戦争に勝利はしていましたが、国民党と共産党との戦いが再び始まっていました。当時国民党支配下にあった北平では食糧不足が深刻で多くの市民が餓えに苦しんでおり、米国からの援助に頼っていました。その援助食料の配分に管理責任のあった北平民食調配委員会と中央銀行北平分行で組織的な不正の疑いが強まり、市民や学生では政府への不満からデモが頻発していました。問題解決のため南京の国民党本部から北平に特別調査チームが派遣されますが、この調査チームと北平の関係者の間で複雑な戦いが展開します。

調査チームとして派遣されたのは市民に人気の高い国民党空軍将校の方孟敖(刘烨)と国防部の曽可达(董勇)で、受ける北平には方孟敖の父親で中央銀行北平分行長の方步亭(王庆样)と妹婿で秘書の谢培东(倪大红)とその娘の谢木兰(姜瑞佳)、燕京大学の副学長で国民党の経済顧問の何其沧(焦晃)とその娘の何孝钰(沈佳妮)、何其沧の助手の梁经伦教授、及び国民党中央党員の徐铁英(陈宝国)らがいました。

方孟敖と曽可达は協力して作業を進めていきますが、調査先には国民党員と地下共産党員が交わっており、更に家族関係や恋愛感情も入って複雑な調査展開をたどります。経済運営を司るのは方步亭と何其沧の経済学者ですが、破たんが迫る財政状況で苦しい政策が続きます。一方の徐铁英は調査で追い込まれる中凶悪な手段を取り始め、ついには方孟敖の家族を取り返しのつかない大きな悲劇が襲います。そして正義感のあった曽可达は最後に南京の命に背いて市民への食糧配布を行ったため非業の最期をとげます…

このように腐敗と経済運営の失敗により国民党が敗れ今の中国が生まれるのですが、今再び腐敗が深刻となっているのは皮肉な状況です。当時の国際情勢から中国の援助より日本再生を優先した米国への不信感も垣間見ることができます。1948年から僅か2年の間に起こった劇的な物語を、家族や隣人との愛情を絡め豊かな人間模様と、北平の美しい風景と静かで印象的な音楽で描いて行きます。見て忘れられないドラマです。是非ご覧ください。 

以上