今年の4月は温度差には悩まされた。日本は桜が咲いたかと思えば雨が降って散ってしまい、その後4月だというのにオーバーコートを着るほど寒い日が続いた。ここ北京では、4月に入って急に温かくなりもう夏が来たかと思っていたら、急に寒さがぶり返した。日本と中国って、大陸の高気圧や低気圧を共有してるのだと改めて気がついた。大きな気象図でみれば、日中には温度差がないのだ。しかし政治、外交、ビジネスそして生活に至るまで、日中には温度差が結構ある。
現在の日中関係をどうみるか。日本では、円安などで業績が大きく改善し史上最高利益の会社も結構あるのに、中国に対しては賃金上昇や外国企業への締め付けでちょっと熱がさめてしまい、東南アジアやインドなどに目が向いている感じだ。北京とかに旅行にいく人も少なくなり、旅行会社のツアーも激減してという。つまり日本では、ビジネスも生活も中国に興味がやや薄れてしまった感がある。
一方中国はというと、メディア報道もお決まりの日本右傾化批判などが少し減ったような気がする。僕の周りにいる人たちには「日本行きた~い」ヒトが増え、僕が日本出張に行くと聞きつけると「魔法瓶と化粧品買ってきて」と頼まれる。中国人はすっかり政治と生活を分離し、安倍さんはキライだけど日本は大好き、なんて人が増えたようだ。
ビジネスの世界の話をすると、日中企業の提携においては温度差があると言える。中国は「新常態」といって高度成長期の歪を修正し、構造改革をして安定成長に何とか向かおうとする政策が進められている。もっとも「新常態」は中国経済の減速をも意味するので、それ自体がビジネス機会をもたらすわけではない。重要な変化は、中国企業がこれまでの国内市場から海外に目を向け始めたことだ。
昨年中国は、対外投資が対内投資を上回り事実上の資本輸出国になった。中国企業がこれまでの高度経済成長で蓄積した富はすごいものがある。だから国内で一定の成功を収めた中国の企業家は、虎視眈眈と世界の投資先を探している。
日中の企業提携の温度差をみれば、明らかに中国が高く日本が低い。日本だって円安にもかかわらず対外M&A金額などは史上最高レベルにある。だから別に日本企業の対外投資熱が低いわけではない。中国の企業家は、「中国は市場が大きく発展しているから、日本企業はみんな中国で事業をしたがっている」と思い込んでいる。ところが日本側はと言えば、提携や投資には意欲はあるものの中国と聞くとまず最初は身構える。中国企業との提携も、あくまで事業戦略上のひとつの選択肢に過ぎないと冷静だ。しかし中国人の友人は常々言う。「日本企業のマインドは内向きだ、ビジネス機会を理解しない」。
しかし考えてみよう。こんなに情報化が進んだ現代でも世界のビジネス界では未だに会合やパーティが重視される。スマホのLINEやWeChat(微信)を使えば、会社、商品の映像そして相手方の話しぶりまでリモートで確認できる。しかし唯一わからないのは相手の人間としての“温度”だろう。
我々日本企業は、やっぱりもっと人に会うことに貪欲になりたいものだ。言葉や手続きの問題などで中国人企業家に会うことに臆しているとしたら、とても惜しい。双方の国で得られる情報にはある種のバイアスがかかっているので、日中ビジネスの世界では、直接会っていろんな人の“温度”を感じることがとても重要だと思う。ビジネスの世界でもまさにBillion Beatsを感じなければならないのだ。
文・写真:松野豊
Yutaka Matsuno: 本職:経営コンサルタント、現在:北京の清華大学研究者 本籍神奈川県、実は大阪人。北京在住。 京都大学大学院で環境を専攻し、1981年に野村総合研究所入社。 環境政策研究、先端技術調査、経営システム改革などを手掛けた後、2002年、突如会社からひとり中国上海に派遣され、現地法人野村総研(上海)諮詢有限公司を設立、約3年総経理を務める。 いったん帰国後、2007年再び北京に赴き、今度は清華大学と共同研究センター(清華大学・野村総研中国研究センター)を設立し、理事・副センター長に就任。 現在は中国の経済・産業の研究に従事。専門は中国政策、経営システム改革。