正直に言うと、このようなイベントへ学生を連れて行くということは、大学教員にとって余計な仕事を増やすだけです。しかし、私には
「日本の事を知らない中国人学生たちを日本に連れて行きたい」
という想いがあり、このお話をいただいた際、ためらうことなく二つ返事で引き受けました。
SRT2015のオファーを正式に受けたのが3月初旬。私が所属する学院の国際交流担当の責 任者と相談し、私が同行することで許可をいただきました。そこから学生募集を始めまし たが、その時期には多くの学生は夏季研修やインターンがすでに決まっており、全学の知 り合いに声をかけなんとか4名の参加学生を見つけることができました。
それから航空チケットの手配、ビザの申請などの事務処理を進めるわけですが、学生の 一人がパスポートを持っていない事が判明、ビザの申請開始が1か月ほどずれ込みました 。さらに、書類の不備などが重なり更に大幅に遅れてしまいます。さすがの私も不安にな り、大使館関係者に連絡を入れたり、学生を集めて指示をしたりと、色々と手を尽くし、 なんとか出発に間に合わせることができたのです。中国人を日本に連れて行くのは今でも 一筋縄ではいかないという事を再認識させられました。
SRT2015では、6か国・地域から集まった約60名の学生たちが約一週間、「教育」「環境 」「移民」「人権」の問題について英語で議論し、政策提言をまとめあげました。会議の 合間をぬって地元企業訪問や温泉も経験し、各国の文化交流も行いました。わずか一週間 という短い期間でしたが、異なるバックグランドを有する各国の優秀な学生たちが一同に 集い、一つの目標を達成するために力を合わせることで、私が連れて行った中国人学生た ちもこれまで国内では決して経験できなかった貴重な時間を過ごすことができたようです 。
閉会式では中国チームを代表してスピーチした女学生が別れを惜しんで泣き崩れました。日本語もできず日本の事はほとんど知らない中国人学生の日本初体験。この思い出は中国の次世代を担うエリート学生たちの若き心に深く刻まれ、彼らの将来に大きく影響してくることでしょう。
文・写真:西村友作
Yusaku Nishimura: 対外経済貿易大学副教授 2010年6月に中国の経済金融系重点大学である対外経済貿易大学で経済学博士を取得し、同大学国際経済研究院で専任講師として採用される。 2013年1月より同大副教授。日中両国でのコラム執筆や講演活動も精力的におこなっている。 中国の外国人の大学教員の立場は、自国の言葉で教える非常勤講師か、海外の大学教員でありながら中国でも講義する客員教員が一般的。日本人を中国人枠での専任講師として採用するのは極めてまれで、人民日報やChina Dailyなどでも大きく紹介された。