第11回 新店舗の改革そして継続する力




(写真)何事も挑戦、高橋さん


 2010年8月スーパーマーケットとベーカリー、レストランの複合体である新店舗をオープンして以降、問題は抱えながらも売上は着実に伸びていった。月賦で支払っていた内装費も2011年2月には完済し、会社全体のキャッシュもプラスに転じてきた。
 それでも、新店舗についてはまだ赤字が続いていた。
 新店舗の赤字はパン屋の利益 からの補填で成り立っているという足引っ張りの状態である。クローズしてしまうことも考えたが、やるべきことをやってそれから考えてみようということに岡田と話はまとまったのである。
 まずは、人材不足の解消のために全社員の給料の底上げから臨み、少しずつ結果が現れ僕自身が毎日シフトインする状況から脱出することができたのである。
 そして、売上を上げるための施策を考え、それをひとつずつ実行していった。
 
 ここで力を借りたのが高橋豊さんである。
 高橋さんとは、一店舗目のパン屋をオープンして間もない2005年に知り合った。パンを買いに来てくれたお客さんだった。
 経歴がこれがまた特殊な人で、高橋さんは、関西の大学を卒業後、関西のウルトラ有名大学で電子工学の博士号を取得しているのだが、就職経験がない。世界各地の風土や考え方に触れたくて各地を回り、旅行というよりも見聞のための滞在型で現在でも進行形である。そのひとつの地点に天津があった。丁度先程インドよりビザの関係で一度天津に帰ってきたばかりである。
 なぜ、そんな長い期間、無職で生活してるのか?という疑問を持つ人もいると思う。
 もちろん、ウルトラ有名大学の博士なので英語はしゃべれる。専門も電気工学であるため知識も豊富。そして、何事にも物怖じしない性格とビジュアル(以前は、ドレット風の長髪パーマでヒゲボーボーでした)からは想像がつかない腰の低さにより人から好かれる。ということで、どこでも人にはできないようなアルバイトのようやらフリーランスのような仕事をしてしまうのである。
 ガンガンもその恩恵にあずかっている。僕自身はレストランにかかりきり、そして岡田もケーキと既存店のパン屋で仕事は多い。そんな中、一番の弱い部分であったスーパーにたくさんの手助けをしていただいた。スーパーの設備の修理やデータ分析、新規商品の開発から業者との折衝など。人が足りない時にはシフトにも入ってもらった。
 2012年3月現在、高橋さんはインドより戻ってから少々お手伝いをいただいており、またヨーロッパを目指しての旅の準備中だ。
 レストランでは背水の陣と心得、いろいろな食材や料理法を試してその一つ一つの技術を従業員と共に磨いてきた。その甲斐があったのか、何とか2011年の10月以降より新店舗から利益が出始めた。それでも問題は山積みで毎日がその改善で動いている。




(写真)白菜と自家製ベーコンのグラタン。ホワイトソースも白菜をつかってとろみをだしやさしい味に仕上がっている。


「改善」のおもしろさを知った中国人幹部達

 物事を成すということは、実行してでてきた結果が全てである。
 いろいろな管理方法、販促計画、コスト削減計画、サービスマニュアル、POSシステム、5S管理、などなど。
これらを計画するのは、一人でもできる。しかし実行となるとそれを人に伝えて実行させて結果をださなければならない。
 しかも営業活動は、半永久的に続く。食材の雑損を今日一日だけ記録することは簡単であるが、それを半永久的に行っていくことは難しい。
これは、以前の回でも触れた内容であるけれども、経営、マネジメントの難しさはこのことに尽きると思う。
僕は、会社を発展するためには、継続して実行し続けられる人間たちがいなければ(理想は、全員である)何を計画しても失敗に終わると思う。
 新店舗の改革も、この点に一番の留意点を置いてやってきた。
 できることから一つずつ、その時その時に応じたスタッフ達のレベルがある。それからあまりにもかけ離れたことをすれば継続できない。実行責任者を決めて、その責任者には仔細に渡る説明と確認が必要である。
現場では複雑なことをできない。どれだけ簡略化されたオペレーションで高い効率をあげるかが重要である。
新店舗も少しずつその実行責任者達がこの点を理解し始め継続して一定のレベルの効率をあげられるようになってきた。

 2012年3月現在、まだまだ改革は進行中でそれを継続することに力を入れている。
 まだまだ理想の売上でも理想のコスト、理想のお店にもなっていないが、なんとかお客様がついてきてくれている。僕とスタッフ達が諦めなければ、理想の形になるというようなぼんやりとしたイメージは見えてきた。
 結局のところ、問題を起こすのも人間でよい結果を生むのも人間。設備の問題やお金の問題も人間が行った選択で悪いことにも良いことにもつながる。
 そして、現在、僕達の会社の一番の強みは、スタッフ達のモチベーションの高さであると思う。継続して実行する力を身につけた人間は、さらなる高みを目指して努力を重ねようと試みる。幹部達はこれを目指し始めている。現場において部下を管理することは想像以上に難しい。幹部たちは、これを通りぬけることで新たな世界がひろがっていることに気付く。そこに適度な課題を与えて実行し、現場が改善される。そこに喜びを感じ、営業額も伸びて給料も増えていく。このサイクルを感じられれば、モチベーションは天井のない空に向かって昇っていく。
 そこには、日本人とか中国人という国籍は関係ない。
 継続する力がない者にはマネジメントはできない。生半可な知識や生半可な屁理屈、小手先の技術があっても半永久的に続く営業活動には通用しない。継続して行う力こそが基礎でありこれができなければガンガンの中では認められない。

 僕自身、日々、この継続する力、相反する怠慢という葛藤との戦いである。
 ただ、僕の欠点でもある怠慢な気質は、ある意味利点でもあると思う、なぜならそんな人間の心を理解できるから。
 自分の弱さを知りそれを改善しようという意識がある人間には、当然救いがあるはずだ。人の弱さも千差万別で欠点があるからこそ改善ができる。人間同士の相互理解は、難しいもので誤解というこの世で一番の悪が潜んでいる。 
 その悪に立ち向かい救いを求めることにより弱い人間に救いを与えることが出来ると思う。僕もそんな人間になりたいし、ガンガンに関わっている人たちにもそのようになってほしい。

 ついこの間、スタッフの結婚式に参加するために山東省の農村に出かけてきた。
以前よりスタッフ達のルーツである場所に行って見たいという思いがあってやっと実現できたのだ。
この経験は、非常に良かった。彼らの親戚達とゲロを吐くまで酒を飲み彼の生活の一部分を垣間見てその純粋な動機や行動をちょっとだけ理解することができたと思う。
 皆それぞれ背景があり、それぞれの思いがある。そして弱さがある。

 弱さに挑戦してそれに打ち勝ち未来を開拓していきたい。


第12回(最終回) ガンガン流「地産地消」




(写真)2009年10月。フランスへのパンとレストランの見聞旅行にて。真ん中のかわいらしい女の子たちはパリで招いてくれた友人の子どもさん


 ガンガンは、僕等にできる「地産地消」を今真剣に考えている。

 輸入品や日本特有の食材、その他欧米も含んだ外国食材に頼っていては、コストが上がり、おいしいものだってその本国以上のものができるわけがない。現地の材料を使ってガンガンが考える「新しいもの」を生み出すことのほうが、コストも安くおもしろいものができるはず。地元の材料を使って外国の料理をつくればここにしかないものだってできるのだ。きっと「日本だったらもっとおいしいものがあるけど、中国だったらこの程度でいいか」なんて妥協はいらないと思う。

 中国にはものすごい種類の調味料、スパイス、野菜があり、淡水魚やジビエ(注:狩猟による鳥獣肉のこと)と呼んでもいいような肉もある。中華料理には様々な料理法があり、味つけも多彩である。その材料や方法を学んでガンガンに取り入れることは、非常に自然であると思う。食事を餌として考えてしまうとバランスのとれた味つけで慣れたものを食べるのが一番おいしいと感じる。

 しかしガンガンが行うことは、食の情報や文化をお客さんに伝えること。餌でなく食事である。例えば、蝦醤(XIAJIANG)という蝦を発酵させてつくった味噌のような食材がある。これは、アンチョビと味が似ておりガンガンでも一部の料理、サンドイッチなどに使用している。サンザシという果物も伝統的にお菓子で使用されていて、僕はチョコレートにも合うと考えているし、あの酸味を料理にも活かせると思っている。もちろん、100%輸入品に頼らないということは現時点で難しいところもあるが、方向性としてこのように向かっていくことがこの地域、天津、北京、中国に貢献できるのではないかと思う。

 その土地に根ざすということは、その土地の特製や人々の考え方、何が古いことで何がカッコイイことなのか。その土地の状況を把握してその人たちが面白いと思うことカッコイイと思うことを発信し続けることが、ひとつの方法だと思う。その土地の時代の流れを読んでわかりやすい表現で伝えていく。

 スタッフは、現在のところ岡田、羽深を除いて約60人が全て中国人だ。個人でできることには限界があるが、62人という集団で行うことで大きな貢献ができる。そのためにはひとりひとりのスタッフを大切にすることが一番の発展への近道と考えて疑わないのがガンガンの考え方だ。

 会社が大きくなれば雇用も増えるし、地元のものを使えば地元の生産者のためにもなる。そして国家に税金を多く支払えば中国の発展にも貢献できる。 これは、現時点の僕達のレベルでは理想論でしかないが、この先もしもグローバル化が進み経済においても世界各地がフラットになってくるならこの考え方がしごく自然な気がする。その結果僕たちの周辺の人々に貢献できるならば、取り組む価値があると思う。




(写真)カンパーニュ。オープン当時のパンの写真。家の一室に1週間エアコンをつけっぱなしにして室温18度に保ちレーズンからつくった天然酵母で発酵させてつくったパン。現在でもその種は毎日引き継いでいてガンガンの歴史そのもの。


結果を出さなければ意味がない

“一身独立して一家独立す、一家独立して一国独立す”

 僕はこの言葉で自分の不甲斐なさに気づいたことがある。独立するということは、自分自身の仕事に責任を持ち、結果を出して自立すること。僕のこれまでの人生は、ほとんどが他人に依存して生きてきた。次男坊である僕は兄に頼り、大学まで父親母親に頼り、就職後は、会社という保護のもとぬるま湯に漬かり、そうとも知らず上司の文句を言ったりする。日本国という大きな保護者の存在にも気づかず、甘いことばかり考える。そして中国でも王さん、ジャンさん、小島さん、東福さん、高橋さん、そして岡田と、多くの人に頼り続けてきた。自分自身を表現せずに他人の力ばかりを拝借して自分の結果としていたところがある。怠慢というやっかいな獣に怯えて僕自身の個人というものを出すことができず人の顔を伺うことに終始時間を費やしていた。

 近頃、自分の仕事もまともにやってないのに人のことをとやかく言ったり他人の努力の成果にたかって甘い汁を吸おうとしたりする輩がたくさんいるような気がする。でも、たとえラッキーパンチがあたってもそれに伴う幸せは幸福とはいえないと思う。人から慕われて人を幸せにすればおのずと人は自分を大切にしてくれるはずだ。

 僕の考える「地産地消」は、少なくとも自分達のコミュニティーから幸せにすることということから自然と湧き上がってきたのだが、こうした僕の考え方は、たまに人から嘲笑の目で見られることがある。それは、僕の言っていることが正論だからだと思う。でも本気で思うから仕方がない。それに自分に正直になれば自分に嘘はつけない。他人の顔をうかがっていては、いつまでたっても独立できない。僕の個人を表現するチャンスがやっと自分の中で芽生えたことのひとつがこれであると思う。

 相変わらず、僕には欠点ばかりで飲みすぎて朝起きれなかったり、中途半端な仕事で上手く結果が現れない事もあり、お客様からお叱りを受けることもある。それでも、諦めずに“お客様、スタッフ、業者、投資家などのガンガンに関わる全ての人間の幸せの実現、笑顔の創造”を目指して頑張ることが僕や岡田、スタッフたちを含めたガンガンの使命だ。がんばろうとする人間を信頼して支持しそれが報われる会社であることが僕のひとつの着地点。何があってもここを忘れずに働いていきたい。