JMと笑顔で挨拶を交わしたのだが、少々笑われているように読み取れたのは、昨夜数回にわたって無様に嘔吐したせいだろう。隣にいる息子BNは恥ずかしそうにしながら、私のほうをチラチラと気にしている。彼のニックネームは「老師」と呼ばれている。顔つきが妙に落ち着いていて、私から言わせれば、先生よりも僧侶というほうが適切だと思うのだが。綺麗な丸刈りでもあったし。
間もなくJMが水を汲みにいこうとジェスチャーをした。自給自足に近い生活を営むこの谷では、水汲みは大切な日課であり、また力仕事でもあった。大きなバケツ2つと斧を持って、谷の対岸へと歩いた。(谷の端から端まで約380歩ほど。歩幅で計算すると谷幅はざっくり380メートル以上はあることになる。)JMの家から対岸に数百メール歩くと凍った川を確認できた。深い鮮やかな緑色をしていた。突如声もなくJMの一打が振り下ろされた。斧で叩かれた氷が周辺に飛び散る。薪を割る要領で、何度も的確に同じ場所を叩いていた。やがて直径50センチほどの穴ができあがった。掘り下げること約30センチ。川底を流れる清く透明な水に私は手を伸ばして少量口元へ運んだ。新鮮な雪解け水が口内を洗った。
バケツの水を家まで往復し終わった頃、JMの奥さんが帰宅していた。地元の言葉で「アッシュポロ」という炒めた麺と羊肉を絡めた料理を昼食として出してくれた。これが大層うまくおかわりをして食べた。その後、JMの誘いで谷奥の姉達の家を訪れることになる。