The Edge #5

2016年8月22日 / The Edge




(写真)凍った川に斧を振り下ろすJM。自給自足に近い生活をおくる雪山では、生活水を確保するのも一日の需要な労働。

連載5回:旅2日目ー01

 ようやく頭があがったのはお昼前だ。部屋には私以外見当たらない。6畳ほどの土間を下りてまず水瓶に手を伸ばす。鉄製の柄杓から喉にグイグイと流れ込む水が体の末端に届くような気持ちよさで2度目の目覚めを感じた。右隅のドアから外へ出ると、家の前で長男JMが6歳の息子BNと薪割りをしていた。見渡す限り私たち以外にはなにも存在していない。

 JMと笑顔で挨拶を交わしたのだが、少々笑われているように読み取れたのは、昨夜数回にわたって無様に嘔吐したせいだろう。隣にいる息子BNは恥ずかしそうにしながら、私のほうをチラチラと気にしている。彼のニックネームは「老師」と呼ばれている。顔つきが妙に落ち着いていて、私から言わせれば、先生よりも僧侶というほうが適切だと思うのだが。綺麗な丸刈りでもあったし。
 間もなくJMが水を汲みにいこうとジェスチャーをした。自給自足に近い生活を営むこの谷では、水汲みは大切な日課であり、また力仕事でもあった。大きなバケツ2つと斧を持って、谷の対岸へと歩いた。(谷の端から端まで約380歩ほど。歩幅で計算すると谷幅はざっくり380メートル以上はあることになる。)JMの家から対岸に数百メール歩くと凍った川を確認できた。深い鮮やかな緑色をしていた。突如声もなくJMの一打が振り下ろされた。斧で叩かれた氷が周辺に飛び散る。薪を割る要領で、何度も的確に同じ場所を叩いていた。やがて直径50センチほどの穴ができあがった。掘り下げること約30センチ。川底を流れる清く透明な水に私は手を伸ばして少量口元へ運んだ。新鮮な雪解け水が口内を洗った。

 バケツの水を家まで往復し終わった頃、JMの奥さんが帰宅していた。地元の言葉で「アッシュポロ」という炒めた麺と羊肉を絡めた料理を昼食として出してくれた。これが大層うまくおかわりをして食べた。その後、JMの誘いで谷奥の姉達の家を訪れることになる。