第3回Todd / アメリカ 「中国人パートナーとMBA在学中に北京で起業!」

<プロフィール>
1973年、日本人の父親と韓国人の母親のもと、ニューヨークで生まれる。コネチカット、ミネソタ、マサチューセッツなど、アメリカ各地で育ち、カーネギーメロン大学で機械工学学士を修了。卒業後、キャタピラー(Caterpillar Inc.)で働きながら、パートタイムでブラッドリー大学の機械工学修士を修了。キャタピラーの設計技術者としてアメリカとフランスで8年勤務した後、2005年にキャタピラーと中国企業のジョイント・ベンチャー設立のため中国へ。その後、風力発電事業会社の中国担当を経て、清華大学Tsinghua-Global MBAプログラムに参加。在学中に北京で起業し、個人向けアプリ事業会社WecareのCEOとして奮闘中。




周藤(以下、(周)):家族のバックグラウンドについてもう一度教えてもらえる?

Todd(以下、(T)):これはいつも説明するのが難しいんだけど、国籍上、父親は日本人で、母親は韓国人、自分はアメリカ。でも、両親も自分も、日本語、韓国語は話せなくて、ほとんどアメリカ人と変わりないね。父親はアメリカのIBMに勤めていたけど、今はリタイアして夫婦でハワイに暮らしてるよ。


(周):中国に来たのは何で?

(T):キャタピラーで設計技術者として、アメリカとフランスで8年くらい働いた後、本当はアメリカの西海岸でMBAを取ろうと思ったんだよね。そんな時に、ちょうどキャタピラーが中国市場のテコ入れで、中国企業とのジョイント・ベンチャーを設立することになって、自分に中国行きのオファーがきたんだ。両親の仕事の都合で子供の頃から引っ越しを繰り返していた影響もあって、生活環境を変えて、色々な経験をして、新しい人と出会うことがすごく好きだったから、中国という全く違う環境に挑戦したいと思ったんだ。


(周):中国にきた時はやっぱり大変だった?

(T):中国の地方都市で仕事をしていた時に、中国人から受け入れられるのにすごく時間がかかったのを今でも覚えている。100人くらいの技術者の前で重要なプレゼンをしたときなんか、参加者はみんなノーリアクションで一言も発せず、責任者が一言だけ”Good Work”って。当時はすごい不安だったね。


(周):それが今では中国で起業するまでになったんだね。

(T):うん。MBA1年目の冬休みを利用して、2015年3月に中国企業として北京に法人を設立したんだ。今のところ会社のメンバーは5人で、アプリを通して個人の生活にインパクトを与えることを企業理念として、既に2つのアプリをリリースしている。1つ目のアプリ流年(Liunian)は、Managerial Thinking(*1)でMBAクラスメートと考えたアイデアを発展させたもので、人生で重要なイベントの動画を未来の指定した日に家族や友人とシェアできるアプリ。本当は中国の旧正月を利用してアプリをリリースして一気に広めようと思っていたんだけど、開発に問題があってリリースが遅れて、いい時期を逃しちゃった感じだね。それで、今は2つ目のファッションSNSアプリ拉我(LAWO)に注力していて、今、βテストを終えて、近日中に正式版をリリースするところ。

(*1)人間の行動や考えを起点とした新しいアイデアを生み出す枠組み「デザインシンキング」を通じて、中国で新しいビジネスを提案する清華大学MBA1年目の授業


(周):自分もベータテストでLAWO使ってみたよ。アプリの特徴とターゲット層についてもう少し教えてもらえる?

(T):特にハイクオリティなファッションに関心のある中国人の若い女性をターゲットとしていて、ユーザがアプリのSNSを通じて、今日のコーディネートやファッションスタイルをシェアできるんだ。あと、SNS内にはファッションのプロもいるから、コーディネートのアドバイスや意見をもらうこともできるよ。市場としては北京と上海をメインターゲットにマーケティングキャンペーンを進めていく予定。本社は北京だけど、ファッション中心地の上海にもメンバーが2人いるんだ。


(周):資金調達はどうしているの?

(T):今のところ、全部セルフファンディングだね。集まったメンバーは、みんな会社の理念に共感してくれていて、ストックオプションの報酬のみで働いてくれているんだ。今はオフィスもないから、必要なのは開発費用くらいだね。


(周):良いチームメンバーが集まったんだね。でも将来、ビジネスを拡大する時は外部からの資金調達も考えてるよね?その時は、中国と海外どちらから資金調達しようと思ってる?

(T):うん、時期がきたら外部からの資金調達も考えているよ。でも外部投資を受け入れるとしても、ある程度のボリュームのユーザを獲得してからかな。投資の受け入れが早すぎて失敗している会社がいっぱいあるしね。あと、投資元については周りからよくアドバイスされるんだけど、中国ではなくて海外からの投資を探したほうがいいって。中国からの投資は一見するとすごく魅力的なんだけど、あとになって契約内容(タームシート)と違う主張をされるリスクがあるみたい。家族とか信頼関係が深い相手からの投資でない限りは、そういうリスクは避けたほうがいいっていうのが今のところの考えかな。


(周):起業に際してMBAは役に立った?

(T):まず清華大学のMBAに来ようと思ったきっかけが、清華大学にあるx-lab(*2)なんだよね。起業のアイデアはあっても、理念に共感してくれるIT技術者をどうやって探すかが課題だった。そこで、入学後すぐにx-labに申し込んで人探しをして、最終的には清華大学パートタイムMBAのOBで、外資IT会社に勤務していたすごく優秀な人をチームに誘うことができたんだ。スタートアップでは、起業理念にフィットする優秀なメンバーを探すのが一番難しいと思うんだけど、それを助けてくれたのはすごくありがたかったね。

(*2)清華大学生の起業をトータルサポートするインキュベーションセンター。


(周):修士論文のテーマも起業に関連したこと?

(T):そうだね。修士論文では「なぜ多くのスタートアップが失敗するのか?」をテーマにアントレプレナー(起業家)の失敗要因や投資家の投資基準を分析している。起業/投資成功率を高めるための評価基準みたいなものを作って、成功率をどうにかあげることができないかってね。例えば、注目している基準の一つは、創業者個人の性格。投資家目線だと、ビジネスの状況や創業者の経歴ばかりに目がいきがちだけど、実際は性格面の影響も大きいと思うんだよね。よくアントレプレナーは外向的な人が多いと言われるけど、外向的すぎる、傲慢な性格が原因でビジネスが失敗に終わることも少なくない。トップレベルのアントレプレナーは実は内向的な人が多くて、そういう人達は詳細な部分まで目が行き届くんだ。例えばアメリカでは、実際は40%のCEOが内向的な性格だっていう研究結果もある。ビル・ゲイツやウォーレン・バフェットとかね。


(周):修士論文ではアメリカの投資環境の研究にフォーカスしてるみたいだけど、中国とアメリカでは違いも大きいんじゃない。

(T):修士論文では主にアメリカの投資を研究対象としているんだけど、指導教官の計らいで、中国トップの投資会社で最年少でゼネラルパートナーになった中国人にインタビューすることができたんだ。彼が言っていた大事なことは、投資の前に、創業者とそのチームを知るために3〜4ヶ月間を費やすということ。朝食で何を食べたかから始まって、彼らが一日をどう過ごしているかの詳細な調査を通じて、創業者とそのチームをものすごく深いレベルで理解すること。それが彼が高い投資成功率を保っている秘訣だった。もちろんアメリカと中国の違いは大きくって、ビジネスのスピードや規模、技術環境も全然違う。ただ、成功のキーファクターになり得る創業者やチームの性格は変わらないと思っている。


(周):最近では中国に起業ブームが起こっているよね。同時に中国の経済成長も減速していっているけど、将来の中国経済の状況についてはどう見ている?

(T):このまま減速が続くと思うね。中国はかなり大量の負債を抱えているから、近い将来それを清算しなければいけない時がくるはず。新常態(*3)では、毎年6.5%のGDP成長を安定的に維持すると言われているけど、それは難しいと思っている。中国は今、製造主導の時代から消費主導の時代に変遷していっていて、製造がくずれると地方都市で仕事を失う人も増えてくしね。

(*3)中国の高度経済成長を終えた後の、緩やかな成長フェーズ


(周):だからこそ中国政府は今、民間のスタートアップとかイノベーションにすごく力を入れてるよね。だからチャンスも多いってことでもあるのかな?

(T):そうだね。中国スタートアップの95%以上が失敗に終わってるけれども、それでもビジネス成功のチャンスはあると思う。今の中国スタートアップは欧米の既存サービスをコピーしただけで成功している企業もあるし、やっぱり人口10億人以上のネットワーク効果はあなどれないね。


(周):今日はありがとう!すごく楽しかった。起業がうまくいくことを願ってるよ!


Kazuhiro Sudo

投稿者について

Kazuhiro Sudo: 1981年東京生まれ。 東京工業大学計算工学修士修了。在学中は投資・Webビジネスの学生ベンチャーに従事。 2007年野村総合研究所入社後、日系金融機関向けのシステム開発、コンサルティングを経て、2014年清華大学MBAへ社費派遣留学。