第5回Rati / ジョージア「アジアでの留学経験を活かし、ジョージアの経済発展に貢献」

<プロフィール>
1989年、黒海に臨む国ジョージアの湾岸都市バトゥミで生まれる。ジョージアの首都トビリシのInternational Black Sea Universityにて国際関係および国際経済を専攻。卒業後はジョージア最大の決済ビジネス関連会社に就職。自身の仕事をする傍ら、父親が経営する建築材販売会社を手伝う。その後、ジョージア政府から支援を受け、アジアへの第一号留学生として中国へ渡る。天津の大学で中国語を学んだ後、清華大学(Tsinghua-MIT Global MBAプログラム)に入学。在学中は中国企業Huaweiでのインターシップや、韓国の延世(ヨンセ)大学校での交換留学を通してアジアビジネスの知見を深める。MBA卒業後は、ジョージア政府の投資機関でキャリアを積み、将来起業を目指す。


周藤(以下、(周)):ジョージア(*1)について簡単に教えてもらえる?

Rati(以下、(R)):黒海に面する人口370万人の小さな国。北はロシア、南はトルコと隣接している。一人あたりGDPはすごく小さい発展途上国だね。産業は銀行業が盛んなのと、あとはワインが有名で、年々輸出量が拡大している。中国にも輸出してるよ。

(*1) 旧名グルジア。2015年、日本での呼称はジョージアに。


(周):ジョージアの中国関連ニュースってどんな感じ?日本ではすごくネガティブなんだよね、事故や大気汚染とか、中国経済はバブルが弾けてもうダメだとかね。日本人とは違う考えを持った留学生から意見を聞きたいなと思ったのが、今回のインタビューの目的の1つでもあるんだ。

(R):基本的にポジティブな内容かな。でもほとんど全てが経済関連のニュース。中国企業が海外進出したとか、中国企業が米国企業を買収したとか。少し前には中国の民間企業がジョージアの銀行を買収したりなんかもあったね。もちろん昨年の中国株式市場が暴落した時は、ネガティブな内容だったけどね。


(周):中国に来たのはどうして?

(R):大学卒業後はジョージアで最大の決済ビジネス関連企業に入社した。そこでの経験はすごく有益だったんだけど、でも徐々に成長のスピードに満足できなくなってきた。もっと色々な知識を得て、色々な経験をしたかった。そこで、自分独自のスキルを習得したくて、中国語か韓国語を勉強しながら、現地の文化やビジネスを学ぼうと思った。あとは、今の経済状況を踏まえると、やっぱり中国のほうに重点を置きたくて、中国に留学することにしたんだ。


(周):交換留学では韓国に行ったんだよね?韓国語以外にはどんなことを学んだの?

(R):うん、韓国の延世(ヨンセ)大学校で5ヶ月間過ごした。韓国に行って勉強したかったのは、なぜ韓国経済があんなに早く成長したのかってことかな。あとは、韓国でサプライチェーンマネジメントを学んで、中国と韓国のサプライチェーン事情を比較したいというのもあったし、中国語以外のアジア言語として韓国語も勉強したかった。


(周):中国と韓国の留学生活で違いはあった?

(R):韓国は中国よりもっと統制がとれてまとまっている感じだね。日本でもそうだと思うけど、例えば、レストランとかでも色々と細かい点まで気にかけている。今日のお店(清華大学近くの日本食レストラン)はすごくサービスがきめ細かいと思うけど、全体的に見ると、このレベルに達している店は北京ではまだまだ少ない印象。


(周):中国生活で困ることはある?

(R):語学もできない状況で中国に初めて来た時は知り合いが全くいなくて、予約したはずの学生寮も取れていない時は、相当焦ったね。それ以降は特に困ったことはないかなぁ。地下鉄とかもすごく整備されていて便利だしね。当然、語学は難しいけどね。


(周):韓国の授業は英語(English)だったんだよね?それに、中国では中国語(汉语)、韓国では韓国語(한국어)も勉強して、ジョージア語(ქართული ენა)はネイティブ、ロシア語(русский язык)までできるんだっけ?異なる起源を持つ言語をそこまで学ぶのって大変そうだけど、特にアジア言語を学ぼうと思ったのはどうして?

(R):ジョージアでは母国語がジョージア語。中学から学んだロシア語と英語はもう問題ないレベルだね。中国語はまだまだだけど、日常会話は問題ないし、得意分野なら授業もなんとか聞き取れるくらい。韓国語は初心者だよ。アジア言語を学ぼうと思ったのは、やっぱり差別化したかったからかな。ジョージアはみんな、言語的にも地理的にも文化的にも親和性の高いヨーロッパを意識していて、アジアを見ている人はすごく少ない。でも中国に関連した投資案件は逆に増えていっているし、中国のニュースを聞くことも少なくない状況だから、今は語学力だけでもある程度武器になるんだ。


(周):MBA卒業後はどうする予定?

(R):卒業後は、いい会社が見つかれば上海か北京でもう少しだけインターンをして中国ビジネスの経験を積みたいと思っている。去年の夏にHuaweiでインターンした時は、色々学ぶことができたからね。でも、今回の留学はジョージア政府の奨学金をもらっているから、半年以内にジョージアに帰国して、政府の投資機関で働くことになってるんだ。中国関連の投資案件も少なくないから、頻繁に中国に来ることになるかなとは思ってる。


(周):長期的には?父親のビジネスを継いだりも考えているのかな?

(R):父親はジョージアで建築関連の会社を経営しているんだけど、それはやりたい仕事ではないから、後を継ぐのはあまり考えていないね。最終的にはやっぱり自分の会社を興したいと思っている。


(周):すでにスタートアップのアイデアはある?

(R):うん、アイデアはいくつかあるよ。例えば、インターンシップ先を探す学生と優秀な学生を雇いたい会社をマッチングさせるビジネス。他にも、シェアリングエコノミー(*2)を利用した、配送ビジネスとかも考えている(詳細なビジネスモデルは非公開)。中国では今、スタートアップが大流行しているよね。実はジョージアでも似たような状況が起こっていて、政府がスタートアップに資金やオフィスを援助する機関などを立ち上げているんだ。個人的には、スタートアップは政府主導になるべきではないとは思ってるけど、ジョージアみたいな発展途上国ではそうするのが正しいのかもしれない。

(*2) 個人が保有する遊休資産(スキルのような無形のものも含む)の貸出しを仲介するサービス。AirBnBやUberなどが代表格。(参照:総務省2015年情報通信白書)


(周):起業の時に狙う市場はジョージアではなくて、グローバル市場になるのかな?具体的にどのエリアを意識している?

(R):そうだね。ジョージアは人口370万人しかいないから、グローバル市場を狙う必要があるね。さっきも話したけど、ジョージアと親和性が高いのはヨーロッパ市場。でも自分はアジアマーケットを狙っていきたいね。まずは中国、あとは韓国や日本もね。


修士論文のテーマに「中国とジョージアの郵送事業の比較分析」を選んだのはどうして?

このテーマを選んだ理由の1つは、将来のスタートアップの配送ビジネスの前準備をしたかったからかな。基本的には郵送事業はどの国でも政府の規制がある産業だから、まずはその法律や発展に応じた規制緩和、税制とかについて詳しくなる必要があると思った。もう1つの理由は、最近の中国の配送事業の変革が、将来ジョージアでも起きると思ったから。中国ではこの数年で、eコマースの爆発的な発展と共に、配送ビジネスも大きく変わったけど、eコマースが発展するには電子決済、配送事業、インターネットとかのインフラ環境の整備も必要不可欠で、色々と学ぶことが多いね。


(周):確かに中国の配送事業はここ数年で急激に発展した印象。確かJD.com(京東)は、配送チャネルを自社で作ったり、色々なビジネスモデルがあるね。ジョージアのeコマースはまだまだ発展途上なの?

(R):あぁ、JD.comが自前で配送網を作ったケースは、中国の配送制度を理解するのに役立ったよ。ジョージアではJD.comやTaobaoみたいな巨大なeコマースは存在しなくて、買い物する時は、基本的には近所のモールに行くね。一応B2Cのeコマースサイトもいくつかはあるけど、品数が圧倒的に少ない。ジョージアはインターネット普及率も43%でまだ低いし、配送網も発達していないから、eコマースはまだまだ発展途上。でも、最近EUと結んだ輸出入に関する協定なんかも後押しして、ジョージアのeコマースは今後発展していくと思ってる。中国の成功モデルを学んで、ジョージアに戻った後の政府投資機関で、ジョージアのeコマース変革を提案したいと思ってるんだ。


(周):今日はありがとう!卒業まであまり時間ないけど、またボーリングでも行こう!


Kazuhiro Sudo

投稿者について

Kazuhiro Sudo: 1981年東京生まれ。 東京工業大学計算工学修士修了。在学中は投資・Webビジネスの学生ベンチャーに従事。 2007年野村総合研究所入社後、日系金融機関向けのシステム開発、コンサルティングを経て、2014年清華大学MBAへ社費派遣留学。