女の子CKが住む家は、TVアンテナを設置した土の家から川の対岸に位置する。この家も谷にある一様の四角い土壁で、室内には一段高い居間に敷き詰められた手縫いの絨毯が鮮やかだった。三女JRの夫KPは谷でも指折りの羊飼いらしく、その数は80頭を超えていた。日の入りが早い谷では、夕方家族総出で放牧から戻った羊と山羊に餌を与える仕事が残っている。まず、羊と山羊を分別して違う場所に囲う。特に数の多い羊はその群れを2組にわける。干し草や乾燥したトウモロコシを餌箱にまき散らすと、羊達は一心不乱に食らいつく。お預けをくっているもう1組の羊の群れは、目前に見る幸せ絶頂の同胞に、「メー」「メー」と再三非難の声がもの凄い。そのなかの数頭は羨ましさの限界に達したとみえ、狂うように飛び跳ね餌箱を目指して走り出す。その暴走を抑えるのが、私と兄SBの仕事だ。手の平に収まるくらいの石を持ち、羊に当たらない程度に投げ上げる。その度に羊の一群は後方へと後ずさりするのだ。
餌に夢中になる羊の後ろから夫KPは手を伸ばし羊のお腹の辺りを探っている。食事中に突如身体検査をされた羊は、驚いた様子で隣の餌箱へ小走りに移動する。兄SBに聞くとこの時期メスの羊は子を身ごもるという。その発育をKPは毎日触って確認しているのだ。その間、羊の頭数を数えるのも大切な仕事の一つだ。子を産んだ母親は一頭800元から良質な羊で1000元を超えて売られると聞いた。家畜に餌を与え終えると、ようやく我々人間が食卓を囲めるのである。ただ、食卓ではなく居間に円を囲むようにして座り、中央に置かれた羊肉たっぷりのアルミのボールに手を伸ばして食べる。食事が済むと、兄SBがさっそく親戚の家へテレビを見に行こうと言い出した。私は一家と共に真っ暗な谷を一列に並んで昼間来た道を引き返した。