The Edge #2

2016年6月11日 / The Edge




(写真)16歳のUHと乗った中型バイク

連載2回 旅1日目ー01

5ヶ月ぶりにこの村に再来した夜、雪山行きの話が持ちあがった。遊牧生活をリタイアした両親はすでに山を下りている。家族の次女AR、三女JR、そ して長男JMは天山山脈を1年に4回移動する遊牧民だ。ちょうど冬の約4ヶ月間を過ごす雪山の谷から帰ってきていたJMと姉ARが、数日以内に谷に戻ると いう。私は好奇心と期待だけで、いっしょに行かせてほしいと訴えたのである。

運転したことのない雪山を中型バイクで走行するというのが、彼らが私に課した同行の条件であった。私の根拠のない自信と無謀な決断で話は一端まと まったかにみえた。しかし、JMは山を熟知している。私の不安を読み取ったのだろう。出発前夜、夏に連れて行くとの約束で今回は断念するよう言われた。迷 惑はかけられない。命あっての撮影だと、私も一度は諦めた。ところが、彼らが村を出発する朝、JMに電話がかかってきた。姉ARからである。もう一人谷に 行きたいという人間が現れたというのである。そして、私をいっしょに連れてってもいいと言う。急いで準備した。靴下2枚、スパッツ2着、フリースのズボン と更に綿パンを重ね着すると、短足を極めたような格好になった。上半身は、Tシャツ、長袖のシャツ、セーター、フリースのベスト、その上に厚手の防寒ジャ ケット。持参した上着は全て着込んだ。首から上は、ネックウォーマー、マスク、ニット帽で身体の露出を最低限におさえた。夜は氷点下15度を下回る雪山 だ。カメラを首から下げ、厚手のジャケットで保護した。もう一台を収納した小型バックと三脚をたすきがけに背負った。機材の多さに家族は目を丸くしていた が、その時私はこの先9時間を超す雪山走行になるなど考えもつかなかった。

新疆時間の午前9時過ぎ(非公式ながら北京時間より2時間遅い)、仲間との集合場所である慌ただしい駐輪場に到着した。林檎、蜜柑、バナナ、干し た梅、ナン、米、小麦粉、生卵などが、バイクの両脇にぶら下がる麻の袋にはち切れんばかりに押し込まれる。後ろから見たバイクは太った羊のお尻みたいだ。 冬の谷へ向かうバイクは5台。一行は私を含め11人。無論私以外の10人はその谷で暮らすキルギス人。同行する母親は赤ちゃんを毛布でグルグルに巻いて 抱っこし、運転席の夫と彼女の間に赤ん坊をはさむようにバイクにまたがった。赤ちゃんが平気なのだから、私などへっちゃらだろうと確信のない安心が動揺す る心をすこしだけ落ち着かせてくれた。

いよいよ私の相棒が明らかになった。JMが指差す方向には、なんと先ほどまで赤ん坊を抱いていた16歳の少女UHがいた。私は目を疑い尻込みし た。運転したことのない雪山でも、私が運転したほうがましだろう。16歳の少女が荷を積んだ中型バイクに男一人後部座席に乗せ雪道を走行できるのか? 私の甥っ子と数歳しか違わないではないか。急速に募る不安は突如皆の高らかな笑い声で鎮圧された。運転手と後部座席の者が通常逆であるべき状況が地元の男 達には滑稽にみえたのだろう。私は情けなさと恥ずかしさに苦笑するしかなかった。