The Edge #3

2016年6月12日 / The Edge




(写真)キルギス遊牧民が暮らす冬営地へ向かう途中

連載3回 旅1日目ー02

冷えきった風が意外と心地いい。町中の道路は舗装されており、快適に飛ばす少女UHは、仲間を次々追い越して行く。スピードに乗る彼女の肩越しから 険しい雪山が威圧的にそびえ立つのを確認できた。一行は町を抜けると進行方向を北東に向けた。舗装された道路はここまでだった。前方には限りなく続く雪 道。反射的に両足に力が入った。後輪が白い雪に乗った瞬間だった。突如タイヤは滑り少女UHと私は呆気なく宙に放り出された。低速と積雪のため怪我こそな かったが、バイクのエンジンがかからなくなった。早々と「断念」の二文字が頭をよぎる。数分後、後方から追いついた仲間の手助けで、運転は再開できたが、 バランスが非常に偏っているせいか、やけに後輪が滑りやすい。少女UHの腕力では無理なのではないかと心配になる。彼女の背中がうんと小さくみえた。再度 転倒。その数分後、またもや転倒。次第に、後輪が滑ったと感じた瞬間に身を投げ出す受け身の取り方を覚えた。少女UHに「大丈夫?」と尋ねると彼女は笑顔 で「平気だよ」と答えた。どうやらクラッチとギアに問題があり、減速と加速の際に気を取られ、その間にタイヤを雪に奪われるらしかった。話し合った結果、 修理のため長男JMが我々のバイクに乗って町まで戻ることになった。

そこからは徒歩だった。新疆時間の午後12時頃。少しでも距離と時間を稼ぐため前進した。歩いて実感したのだが、氷の上に積雪していたらしく、徒 歩でも滑らないよう踏ん張るような雪道だった。スパイクなしのタイヤで運転してきたことが恐ろしく感じられた。歩くと呼吸がすぐに乱れる。目指す谷は、 3000メートルを超える天山山脈にある。照らす太陽と反射する雪が眩しかった。両手が自由になったため、カメラを取り出した。フィルム交換の際に足を止 めると、限りなく無音に近いことがわかった。無風のなかに、やけにギラギラと光る雪、どこまでも青い空。数時間歩いた後、私を含め徒歩3人組は川の対岸で 待つ仲間のバイクを発見できた。川はうねりの形状を残したまま止まるように凍っていた。時間が静止しているようで美しく感じられた。川底を流れる水の低い 音は、その川が生きていることを語っていた。

川岸の仲間に合流すると、私は次女の夫KPの後ろにまたがり再出発することになった。少女UHはと振り返ると、今度は大人の女性2人を後部座席に 乗せていた。なんと逞しいこと。ちなみに2人ともJMのお姉さん。姉妹ともにハイヒールを履いていた。私には困難に感じられるこの旅路でも、彼女達には モールに買い物に行く感覚なのだろうか。そもそもモールに出かけたことはあるのだろうか。

安定したKPの運転にホッとしていると、間もなく休憩場所である土壁の家に辿り着いた。家のなかに入ると薪のストウブで部屋が大変暖かい。細かく 刻んだ揚げパンに無言でくらいついた。小さな窓から差し込む光を受けて、大きなアルミのボウルは、皆の空腹を満たしていった。ここで長男JMと合流。少女 UHと私は再び相棒として雪山を目指す。