そこからは徒歩だった。新疆時間の午後12時頃。少しでも距離と時間を稼ぐため前進した。歩いて実感したのだが、氷の上に積雪していたらしく、徒 歩でも滑らないよう踏ん張るような雪道だった。スパイクなしのタイヤで運転してきたことが恐ろしく感じられた。歩くと呼吸がすぐに乱れる。目指す谷は、 3000メートルを超える天山山脈にある。照らす太陽と反射する雪が眩しかった。両手が自由になったため、カメラを取り出した。フィルム交換の際に足を止 めると、限りなく無音に近いことがわかった。無風のなかに、やけにギラギラと光る雪、どこまでも青い空。数時間歩いた後、私を含め徒歩3人組は川の対岸で 待つ仲間のバイクを発見できた。川はうねりの形状を残したまま止まるように凍っていた。時間が静止しているようで美しく感じられた。川底を流れる水の低い 音は、その川が生きていることを語っていた。
川岸の仲間に合流すると、私は次女の夫KPの後ろにまたがり再出発することになった。少女UHはと振り返ると、今度は大人の女性2人を後部座席に 乗せていた。なんと逞しいこと。ちなみに2人ともJMのお姉さん。姉妹ともにハイヒールを履いていた。私には困難に感じられるこの旅路でも、彼女達には モールに買い物に行く感覚なのだろうか。そもそもモールに出かけたことはあるのだろうか。
安定したKPの運転にホッとしていると、間もなく休憩場所である土壁の家に辿り着いた。家のなかに入ると薪のストウブで部屋が大変暖かい。細かく 刻んだ揚げパンに無言でくらいついた。小さな窓から差し込む光を受けて、大きなアルミのボウルは、皆の空腹を満たしていった。ここで長男JMと合流。少女 UHと私は再び相棒として雪山を目指す。