上海編 その8 ー 消えゆくサンクチュアリ



(写真)海で遊ぶ老一、老二、老三


いつもの風景…じゃない?

ザザーン、ザザーン。
初秋の海、高台にたつ海岸沿いのホテルに着いた。

部屋からみえる、いつもの風景に子どもたちがはしゃぐ。

居ても立っても居られず、荷物を置いて、
我先にと海岸に降り立った子どもたちが足を止めた。

「いつもの砂浜じゃない!」

後ろから覗き込んだ私も思わず「あっ!」と叫んでいた。

いつもの「白い」砂浜が、砂利だらけの「黒い」砂浜に変身していた。

いったい何が起こったというのだろうか…

私とホテルの十数年

10月の初め、中国には「国慶節」という連休がある。

ここ数年は、政府の政策によって短くなっていたのだけれど、
今年はなんと8日も続く大連休になった。

この時期航空チケットは高額になるし、人数が増えたわが家は
ここ数年、移動が便利な自家用車で国内に旅行することが多くなっている。

そんな国内の旅行先には、いきつけの場所がある。

上海のお隣の浙江省という行政区の海のそば、
目の前が海岸というロケーションの国営ホテルだ。

ダンナさんと結婚する前から訪れていた場所なので、おつきあいの歴史は長い。
上海から車で行けるというロケーションは貴重、
ずっと通っているものだからホテルのマネージャーさんとも顔見知りになった。
何よりも通っている間、スタッフが変わらないので、
一人ひとりがわが家の歴史を見守ってくれている、
なんてアットホームな気分になっている。

2008年に杭州湾大橋という橋ができてからは
さらに交通の便利が良くなった。
以前はフェリーに乗り換えて島に渡っていたのだけれど、
これが休みのたびにひどく混み、待ち時間が数時間にわたる重労働な旅だったことを思い出す。



(写真)開発されて行く浜辺




急激なリゾート化

10数年前、初めてこの地を訪れた時には、
上海近郊の茶色の海とは違うブルーの海に感動を覚えたものだった。

当時は海岸線に軍の演習基地があったり、
海岸を走る軍隊の姿などがあったりとリゾート地という雰囲気には程遠い、
海鮮を売りにする屋台だけが呼び物の小さな漁村だった。

それが数年前からホテルの周りの海岸線にびっしりと別荘が建ち始め、
去年にはいままで人影もまばらだった海岸にワンサカと人があふれていた。

キャンプ地として注目され始めたのだ。

キャンプが手軽なレジャーとして定着し始めたのも、
ここ2,3年といってもいいと思うが…

その他にも、軍の演習基地として、そこここに洞窟があり
不気味な雰囲気を放っていた山側は「保護地区」となり、
公園として有料となった。(しかも高額)

しかし元々ガタガタだった山道は綺麗に舗装されたが、
道路の横の山際は切り崩されたまま、山水が道路に流れ出ている。
雨の日なら土砂崩れが起きそうだ。

綺麗になったはずなのに…突然に壊されたかのような自然の姿が痛々しい。
なにが「保護」されたのだろう。

そして…

目の前には砂利&ゴミだらけの砂浜。

半年後、ここはどうなっているんだろう。

波打ち際で、穴を掘っていた老二が言った。
「お母さん、砂の下が固い」

よく見ると、粘土だった。

いままでは砂浜の下に粘土層があるなんて
気づいたことはなかった。

掘っても、掘っても、砂だったはずだ。

半年前に来た時にも気づかなかったことだ。
いったいなにが起こっているのだろう?

表面を剥ぎ取られたかのような砂浜の姿は
本当に痛々しかった。
たった半年でこうなら、
これからどんな風に変わっていくのか。

砂浜がなくなってしまう?
そうしたら、このリゾート地の価値はどう変化していくんだろう?

ただ楽しむはずだった旅が、
考えさせられる旅に変わってしまっていた。


tako

投稿者について

tako: 1998年より上海在住。留学後、現地ベンチャー、フリーコーディネイター、駐在員を経験。現在、専業主婦。 ローカル生活の中で「小さな幸福」を見つけながら、地道に暮らす。 家族は、現地で起業している夫と現地校に通う息子が三人。趣味はネットリサーチ。