第3回 清華大学MBA Patrick(男性)31歳 ー 就活に失敗!?外資系への転職で給与2倍に

2016年9月11日 / 清華大MBAリアルトーク

パッと見は「IT系」の風貌ですが、実は話好きで、笑顔が素敵なナイスガイ!テスト期間中に2回もインタビューしたのに、その度に快く引き受けてくれました。

<プロフィール>
1981年陕西省生まれ。父親は地方政府、母親は中国建設銀行で働いていたが、現在は定年を迎え、悠々自適の生活を送っている。また8つ離れた弟も中国建設銀行で働いている。学生時代は物理が得意科目で、大学の専攻は情報工学。インタビュー中には奥様の話がチラホラ。更に奥様から何度か電話もあり、結婚5年目を迎えても色あせないその夫婦愛には脱帽!

 
 
Q.2003年に卒業したということは、ITバブル崩壊直後に就職活動をしたのですね?

その通りです。ITバブルのおかげで就職は楽勝だろうと思っていた私は、明らかに準備不足でした。当然ながら、同級生に人気のあった中国移動といった大手国有通信企業はことごとく不合格。
最終的には先輩のコネで民航数据通信有限责任公司(Aviation Data Communication Corporation)という会社に入社しました。航空業界に関わるほぼ全ての情報処理システムを独占的に扱う国有企業です。従業員200名程度の小さな国有企業だったので、初任給はたったの3000元(約4万円)!それでもこの会社を選んだ理由は、北京市の戸籍(户口)を優先的にもらえるからです。私の場合、入社前から手続きを始めてもらったので、入社2か月後には北京市の戸籍を得ることができました。
北京市の戸籍は2つの意味で重要です。1つ目は私自身に関することで、例えば北京市で社会保障や年金を受けられたり、北京市で自家用車と自宅を購入できるようなったりします。2つ目は子供の教育に関することで、北京市内の公立学校に通えるようになります。もし北京市の戸籍がない場合は、学費の高い私立学校、もしくは無認可の学校に通うしかないのです。

 
Q.小規模な国有企業では新入社員研修があるのでしょうか?

正直言って研修らしい研修はありませんでした。会社と業界全体の説明、簡単なビジネスマナー研修を1週間受けて、いきなりプロジェクトに配属されました。
そのプロジェクトとは、北京首都国際空港の管制システムの開発です。各空港には管制空域というのが定められていて、「どの航空機が、いつ、どこからどこへ侵入する」という情報を管理する必要があります。驚くべきことに、当時の北京空港ではこれを「手書き」で行っていました。この管理システム作成は会社にとっても私にとっても初めてのプロジェクトでしたが、配属された3人で協力し、スムーズに完成させることができました。その後も、多数のプロジェクトに配属されましたが、軌道に乗るにつれて上司がそれを自分の手柄にしようとして、順調なシステムに対して自分の不必要なアイデアを取り入れろ、と強要してくるようになったのです。

 
Q.結果を出しているのに、給与が低く人間関係もややこしい。それはモチベーションが下がりますね。

それだけではありません。この会社は航空システムの独占企業だったため、競争がなく、業務の効率性を高めたり、最新のシステムを導入したりすることに後ろ向きでした。また、国有企業であったため、日本の会社と同じで(笑)、昇進も昇給も遅いのが実態です。
最終的には2005年には離着陸を管理するシステムの開発プロジェクトに配属されましたが、それが終了する直前に、2年間勤めたこの会社を辞めることにしたのです。
上述のような理由で退職したので、実力と実績で昇進昇級が決まるフランス系のエアバスに転職しました。同じくアメリカ系のボーイングという選択肢もありましたが、第一にエアバスのオファーは役職こそ変わらないものの、給与は前職比で約2倍の月給7000元(約9万円)。さらにボーイングは企業体質が古く、当時使っていた技術もアナログの要素が多い一方、エアバスは比較的若い会社で、最新の技術を積極的に導入していました。

 
Q.エアバスに入社後、どのような仕事をしていたのでしょうか?

2011年までエンジニア向けのテクニカルサポートやトレーニングシステムの管理をしていました。優秀な同僚が多かったので、自分が成長できる環境だと感じていましたが、満足できない部分もありました。それは駐在員と現地採用された中国人の給与格差です。例えば、本社から派遣されていた駐在員の給与は、同じ仕事をしても私の3倍から4倍。また、本社から出張で来ていたあるシニアエンジニアは1日4時間しか働いていなかったのに日給1000ユーロ(約11万円)だと言っていました。出張なので特別手当が出ていたのだと思いますが、私は彼の2倍働いても給与は10分の1以下。私は中国で現地採用されたので、彼らのような給与をもらえる可能性は低い。このような状況に納得がいかないのは、みなさんにも理解してもらえるのではないでしょうか。

 
Q.外資系企業で、中国人と外国人(駐在員)の能力はそんなに差がないのに、給与に大きな差があって、中国人が大きな不満を抱える・・・日系企業で聞かれる問題と同じですね。だから心機一転、清華大学のMBAを目指したのですね?

直接のきっかけは違います。2年前、社内でオペレーションマネージメントに関するグローバル研修があったのですが、そこでプロジェクトマネージャーを任されました。プロジェクトの成功には多様な国籍やバックグラウンドを持つエアバスの社員を束ねていく必要がありましたが、マネージャー経験が初めてだった私は、異なる意見の取りまとめに相当な時間を費やしてしまいました。最終的にプロジェクト自体は成功したのですが、その時の経験を踏まえて、経営の勉強を一からやってみたいと思ったのです。

 
Q.卒業後の進路は何を優先しますか?

月給4万元(約50万円)以上という給与水準です!・・・というのは冗談で、もちろん長期的なキャリア形成を重視しています。あえて選択肢の幅を狭めず、航空業界に戻ったり、インターンシップ先の投資会社でソフトウェアや航空関連業界の投資に携わったり、ソフトウェアの知識と経験を活かして起業したり、ということも念頭に置きながら将来のことを考えたいと思っています。


Hitoshi Kono

投稿者について

Hitoshi Kono: 1981年鹿児島県出身。 一橋大学経済学部卒業後、2005年に新卒で外資系金融機関に入社、金融派生商品の開発や法人営業を担当し、2010年9月に退社。 世界一周旅行をエンジョイした後、2011年9月より清華大学MBAに入学。 北京では大好きなサーフィンができないけれど、出会いと発見に満ちた中国生活を満喫中。