上海編 その4 ー 老大、日本の学校を体験する



(写真)上海の教科書と日本の教科書。中国の国語の教科書(右上)は日本とは違って横書きだ


夏休みに入っても…

ただいま「夏休み」真最中。
しかし老二は通常通り、上海で幼稚園に通学中だ。
共働きがほとんど(お金持ちは別)のこの街では
上海市政府は、夏休みに当たる期間も幼稚園の継続を義務としている。
カリキュラムも通常とほとんど同じまま。
なので今年の夏、私と老二、老三はいつも通りの毎日だが
老大だけは日本の祖父母の家へと飛んでいる。

こちらの小学校では、6月中旬の期末テストが終わると、
すぐ試験休みに入り、終業式に登校した後は、
新学期が始まる9月まで、まるまる2か月が「夏休み」。

日本の小学校は7月末から夏休みに入るらしく、
そんな「時間差」を利用して、
老大は数週間だけ日本の小学校に体験入学させてもらっている。
普段上海ローカルにどっぷりの彼にはちょうどいい経験になるだろうと、
今年の春から、休みのたびに体験入学をさせてもらっているのだ。

最初の体験入学は私の母校である小学校だった。
最初に連絡を入れた時には、
ここまでオープンに受け入れてもらえるのかと面食らった。
面接だのなんだの受け入れられるまでにいろいろあるだろうと思っていたので
ちょっと拍子抜け。
今回の父方の祖父母の近くの小学校でも、簡単に受け入れてもらえたようだ。
こちらでの教育費の高さ(対外国人)に慣れている私は「本当に無料だ~」と純粋に感動。

息子が小学校に上がってから、
日本と中国の小学校を数か月単位で往復する
日中ハーフの子どもたちの話を耳にするようになった。
普段は中国でおばあちゃん、おじいちゃんに育てられ、
休みには日本で働く両親の元に戻る、という家庭もあり、
今回始めた老大の体験入学も半ば彼らに触発されたカタチだ。

先日の電話で老大の祖母から聞いた話では、
日本に行って2日目にはもう日本の小学校へと通学しており、
すでに友達もできて放課後を楽しんでいるらしい。
のびのびと楽しく暮らしている様子だ。
電話で私と会話する時間も惜しいくらいに(ちょっと寂しい)。
「上海に戻らない!」なんて言い出すのではないかと内心ハラハラもしている。

日本の小学校は、彼にとって新鮮なことだらけ。
今年の春もわずか5日間の体験だったにもかかわらず、
本人にはとても影響があったようだ。

老大の日本語読解法

体験入学中、一番につまずくだろうと思ったのだけれど、
意外だったことがあった。

老大は日本の漢字をあまり読めないし、書けない(はず)。
ひらがなはつたないながら(私としては残念なことだけど、普段の彼は字が汚い)
なんとか書ける程度…

家の中以外ではほとんど日本語に接触する事がない上、
休みの日以外、毎日が学校の宿題だけで終わってしまうものだから、
日本語の勉強はお世辞にも同年代の子どもに追いついている、とは言えない。
だから教科書も読めないんじゃないか、と心配していたのだけれど…

今年の春の体験入学の時、老大が私に教科書を読んでくれた。
立派な棒読みだけれど、教えた覚えのない漢字も読めていることに驚いた。

「これ、どう読むかわかるの?」と聞いたら、
まず漢字の前後のかなを見て、
次に漢字を中国語の意味で考え、
日本語の語感で全体の文章をつなげていくのだそうだ。

ややこしい…。

中国の漢字と同じものもあるし、意外にいけるよ、と自信満々。
「日本の教科書、漢字すくないね!」と笑っていたものである。
(小学3年生の教科書だし、老大の学校の教科書は漢字だらけだから、そりゃね…)
 

老大のカルチャーショック

体験入学時、彼がまず驚いたのは、日本の小学校の「算数」。

老大は小学3年生のクラス(日本の学年制でいくと当時2年生のはずだったが、何かの手違いで3年生に)に入れてもらったが、

「この内容、1年生の終りと2年生の初めにやったよ」と首をかしげている。

横から教科書をのぞいてみると、日本の教科書は中国のものと比べると、
内容的にとても簡単だし、見やすい。
息子の学校は算数にも力を入れているらしいが、
大体2学年くらいの差があることがわかった。恐怖…
「普段復習できる時間あんまりないから、日本に来て復習できてよかったね」
と言っておいた。
よい復習になった上、彼は自信をつけたようだ。

体験入学期間、喜んでみんなと同じ宿題をこなしていた。
楽しそうに宿題をする彼を見るのは何年ぶりだろう。
それが中国での学生生活との違いを物語っている。

冬に半袖半パンツの小学生」

さらに彼の驚きは続く。

「体育の時間、日本の小学校って服を着替えるんだよ!」
(中国では基本、着替えない。公立小学校では体操服を着て通学する学校もある)

「冬でも半袖着てる人がいる!(こちらでは冬で半袖はありえない!)」

冬にはセーター、シャツとあわせて4枚重ねで通学する子も珍しくない世界にいる彼にとって、これは衝撃だった。

実はこの「冬に半袖半パンツの小学生」は、
日本の子どもを表現する上で、上海の人々がよく口にすることだ。
老大と同じように、さぞやカルチャーショックだったのだろうな、と思うと可笑しい。

実は、私も通学中に半袖半パンツで駆けて行く子どもを見かけたとき
「まだこんな子どもいるんだ!」と嬉しくなった。

体験入学中には、先生からこんな微笑ましいエピソードも聞くこともできた。

体育の時間、彼は短期間の滞在で長袖しか持ってきておらず、
着替えの服もなかったのだけれど、

子どもたちが半袖半ズボンでいるのをみて、老大も長ズボンをたくし上げ、
長袖をまくって体育をしていたそうだ。

きっと周りのみんなに少しでも近づきたかったのだろう。
半袖を持たせてあげればよかった、と思った(冬の一時帰国ではあったけれど)。
今度はぜひ体操服、買ってあげよう。

上海の小学校では、「体育」は残念ながら重要視されていないようだ。
内容も充実しているとはいいがたい。
上海以外でもそうだと聞いたことがあるから、
中国ではそれが普通なのかもしれない。
実質的には何かあればすぐに削られてしまう「予備時間」という扱い。
テスト前には授業の延長にあてがわれ、いとも簡単になくなってしまうだけに、
彼にとって「特別な時間」という意識がある。
いつも忙しいスケジュールでまわっている上海の子どもたちの為にも、
リラックスできる体育の時間と内容の充実はとても重要だと思うのだけれど…
変わっていって欲しいものだ。

中国ではそんな感じだから、
体験入学の最初から最後まで、「体育の時間」の話題が多かった。
思い切り身体を使って体育をする、
それが彼の日常にないものだということをわかっているようだ。

今回の夏休みの体験入学では、どんなカルチャーショックを受けているのだろう。

こちらに戻ってきて、話を聞くのは楽しみだが、
私はまたちょっと心が痛むのかもしれない。



tako

投稿者について

tako: 1998年より上海在住。留学後、現地ベンチャー、フリーコーディネイター、駐在員を経験。現在、専業主婦。 ローカル生活の中で「小さな幸福」を見つけながら、地道に暮らす。 家族は、現地で起業している夫と現地校に通う息子が三人。趣味はネットリサーチ。