とはいえ、安く買えて活気のある市場は魅力的だ。パンダで有名な北京動物園の向かいに、洋服の大きな市場があると聞いて観光ついでに覗いてみた。特に何かを買うつもりもなかったが、私好みなデザインの巻きスカートを発見し、値段を聞いたら30元ほどだと言う。500円でおつりがくるお得な価格が魅力的で、購入を決めた。
しかし、 ボタンを通す穴に紐を通してはくタイプのスカートなのだが、肝心のボタンホールの穴が開いていない。これでは紐を通すことができない。買う前に気づいてよかった。これは欠陥品だから、 同じスカートの別の物を出してきて欲しいと、つたない中国語を駆使して店員さんに頼んだ。
すると、それがどうしたという表情で
「没事儿!(méi shì ér/大丈夫!)」
と、言うではないか。
全然大丈夫じゃないよ!ボタンホール開いてなかったら着られないよ!と、必死で訴えてみたものの、「家に帰って自分であければよい」と、つれない返事。見れば他のスカートのボタンホールも開いていない。そういうものかとも思うけれど、やはり納得がいかない。
「ボタンホール開いてないなら買わない」
そう告げると、ようやくやれやれという顔をして、糸切りを出してきてボタンホールを開けてくれた。そんな苦労をして購入したこともあり、 その巻きスカートは私のお気に入りの1枚となった。
スカートをはきながら、ボタンホールくらい自分で開けても良かったのかもしれないと、思い返す時もある。大量に安く買う市場では、B級品だから安いという場合もある。販売用に買う人などは、 安く買えるならば糸切りで開ける作業は自分でするという人もいるだろう。そんな人たちにとっては、確かに『没事儿』なことなのだ。
それから、「没事儿」と言われたときは、自分の中で一度、「そうか、大丈夫かも!?」と、言葉を受けてみることにしている。「全然、大丈夫じゃないよ!」と苛立ちがこみ上げてきたら、買わないなり、交渉するなりすれば良いのだ。
しかし、時には「あぁ確かにどうでもいいかも」と、思える場合もある。「没事儿!」と言われて、そうかもしれないと思って買い、すっかり我が家に馴染んでいるものもたくさんある。買う時にはいろいろ気になったことも、使ってみればそんなことはすっかり忘れている。 世の中、意外に『没事儿』なことは多いものだ。いつの間にか、すっかり『没事儿!』に馴染みつつある。
Kiyomiy: [投稿者名]Kiyomiy [投稿者経歴] 1976年生まれ。静岡県出身。 コマ撮り (ストップモーション)映像撮影やデザイン制作、 オリジナルグッズの企画制作を行う『FrameCue』(http://framecue.net)主宰。 ブログ『ツクルビヨリ』(http://framecue. net/tsukurubiyori/)にて仕事からプライベート まで365日つくる毎日を記録中。