中国人の夫と一緒にバス停にいたら、不安そうな顔をしたおばあさんが、「頤和園へはどう行ったらいいかしら」と、バスを待っている人に尋ねていた。西太后の避暑地として有名な庭園で、誰でも知っている場所ではあるが、今いる場所からはかなり遠く、直通のバスもない。聞かれた人も首をかしげている。
すると、後ろにいたおばさんが、ずずっと前に進み出て、「この先にあるバス停からバスに乗って、4つ目で降りて。そこに頤和園行きのバスがあるから。30分くらいかかるわよ 」と、行き方を教えた上に、さらに頤和園の観光ポイントまで詳しく話しだした。あまりに流暢に説明するので、周りのみんなも思わず聞き入っている。
一緒に聞いていた夫がそこで、
「你真熟〜(nǐ zhēn shú/詳しいね〜)」
と、声をかけた。
「実は、先週行ってきたばかりなのよ〜」と言って、おばさんは照れくさそうに笑った。道を聞いたおばあさんがお礼を言って立ち去った後も、おばさんと夫は頤和園の素晴らしさについて話し続けていた。
夫はいつもこんな感じだ。混雑したレストランで、たまたま相席になった高校生が持っていたキャラクター人形を見て「それ流行っているの?」といきなり聞いていたし、最新式のスマホをいじっている若者に「どこで買ったの?それいい?」と質問攻めにしたりもしていた。子どもを公園に連れて行けば、他の親たちに声をかけて子育て話をしている。夫のことを随分とおしゃべり好きな人なのだとずっと思っていたのだが、よくよく見ていると、声をかけられた方も別に違和感もなく、普通に夫のおしゃべりの相手をしてくれている。
さらに、私自身も、中国語があまりできないというのに、道を聞かれたり、話しかけられたりすることが多い。夫が特別おしゃべりということではなくて、みな気軽に話しかける雰囲気があるような感じだ。他人との距離の近さに最初は戸惑ったものの、慣れてしまうとこれが意外と心地いい。
遊んでいる子どもに声をかけたり、バスで旗を持っているおばさんに話しかけてみたりすると、私のカタコト中国語も気にせずに、話し相手になってくれる。思えば、他人、他人と言うけれど、同じ街に暮らす人たち同士じゃないか。たまたま出会った時間を楽しくおしゃべりして過ごすのも悪くないものだ。声をかけ始めると、今まで周りの人たちとの間に壁を作っていたのは、自分自身だったのだと気づく。中国語も上達できるし、おしゃべりにはかなりの効能がありそうだ。
Kiyomiy: [投稿者名]Kiyomiy [投稿者経歴] 1976年生まれ。静岡県出身。 コマ撮り (ストップモーション)映像撮影やデザイン制作、 オリジナルグッズの企画制作を行う『FrameCue』(http://framecue.net)主宰。 ブログ『ツクルビヨリ』(http://framecue. net/tsukurubiyori/)にて仕事からプライベート まで365日つくる毎日を記録中。