引っ越しの準備をしていた時のことだ。夫の友人から電話があり、新居を見に来るという。そして、改装中の部屋に一緒に行くと、どんな家具が欲しいか詳しく聞かれたのだ。聞かれるままに、ここにはこんな棚があるといいね、ここはテレビを置く台を……と、おしゃべりしながら部屋を案内した。そして、北京のどこで家具を買えば希望のものが買えるのかわからないという私たちに、彼は「任せておいて」と、一言残し帰って行った。知人の多い彼のことだ、きっと良い家具屋さんを紹介してくれるのではと期待して待つことにした。
無事に引っ越しを終え、そういえば家具のことはどうなったのだろうと思い始めた頃、我が家に、突然、トラックで大きな箱がいくつも運び込まれた。そして、一番大きなタンスを夫とその友人が抱えて、汗だくになりながら階段をあがってきたのだ。閑散としていた部屋が、一気に賑やかになった。お姑さんの部屋には落ち着いた木目のタンスとテレビ台。私たちの部屋には棚の幅が変えられるオープンタイプの最新式の棚。
あまりの急展開に驚きつつ、いくらかかったのか聞くのだが教えてくれない。いやいや、お金は払うよ、せめてお礼だけでも、と食い下がる私たちに、彼は笑顔で言ったのだ。
「应该的(yīng gāi de/当然のことだよ)」
引っ越し祝いにしては、あまりにも大きなプレゼント。そして、「友だちなのだから」と、さらりと言って立ち去ろうとする彼が衝撃的だった。結局、彼は最後までお金を受け取ってはくれなかった。彼にはいつでもお世話になりっぱなしで、大きな恩がありながら、未だにそのお礼を返せずにいる。
「应该的(当然のことだよ)」
「この言葉が使えるようになりたい」というよりも、「この言葉が使えるような人になりたい」という方が正しいのかもしれない。中国語を覚えて使うというだけなら、わずか一言、難しいことはない。しかし、言葉の前に、それを言うだけの中国人の友だちがいて、そして、その友だちが困っている時に手助けできなくては。
助けてもらってばかりの私だけれど、いつか「应该的」と、言える側になりたい。憧れの実現にはまだまだ道は遠そうだが、一歩一歩近づいていけたらと思う。
Kiyomiy: [投稿者名]Kiyomiy [投稿者経歴] 1976年生まれ。静岡県出身。 コマ撮り (ストップモーション)映像撮影やデザイン制作、 オリジナルグッズの企画制作を行う『FrameCue』(http://framecue.net)主宰。 ブログ『ツクルビヨリ』(http://framecue. net/tsukurubiyori/)にて仕事からプライベート まで365日つくる毎日を記録中。