その7 理想のカレは中国人。中国ネット婚活事情 — 城崎美加さんの場合 —

2016年9月1日 / カレは中国人

 高校時代にカンフー映画を見たのをきっかけに、城崎美加さんは学生時代から中国の様々な文化や歴史に魅かれてきた。1993年、外語大学在学中に21歳で北京に留学。大学卒業後には貿易関係の会社の駐在員として北京に赴任した。2000年からはフリーランスとして北京で翻訳の分野で活動しはじめ、今では北京通として知られている。その彼女は1年半前からお見合いサイト『世紀佳縁』で中国人の結婚相手を探している。
『世紀佳縁』は03年、清華大学の女子学生が開いた会員数4千万人、1日の新規加入者が1万人という巨大お見合いサイトだ。
 このサイトに申し込むには、まず自己の履歴を登録する。携帯番号、身分証明書、収入証明書などの具体的な資料を提出すれば自己ポイントが上がり、信頼度が高い情報だと認識されアクセス数は増える。無料会員と有料会員があるが、無料会員は、異性からのメールを閲覧するたびに2元(約25円)の料金がかかる。年会費490元(約6100円)の有料会員は受け取ったすべてのメールを見ることができる。毎日数千組のカップルが生まれていて、理想の相手との出会いも期待できるらしい。
 
 美加さんは有料会員に登録している。連絡をもらった異性と最初はチャット、電話などでお互いを知り、気が合いそうだったらお茶や食事などのデートへと進む。しかし、日本人である美加さんへの中国人男性からのアクセス数はそれほど多くない。
「テレビドラマ『おしん』の影響などで日本人女性に人気があったのはひと昔前です。以前は日本に対して先進国への憧れもあったかもしれませんが、中国が経済発展した今はそんな感覚はほとんどないようです。それに、歴史的な問題もあって結婚には相手の両親が反対する可能性が高いので、日本人女性はリスキーなんです」
 美加さんがこれまで実際に面会まで進んだのは20数人。好感を持った人も2、3人いた。けれども、やはり知らない人と会うことには危険もある。
 一度、チャットで気が合った男性と会ってみたところ、実際に話をしてみるとタイプとは違っていたので美加さんはやんわり交際を断ったのだが、相手の男性は美加さんを気に入り、どうしてもつきあいたいという。断っているうちに、男性はストーカー行為に走ってしまった。愛情は憎しみにかわりやすい。最後には、電話で、
「中国にいられなくしてやる!」と脅迫電話まで受けた。怖くなって、美加さんは10年間使った携帯電話の番号を変えた。それでも男性がつきまとってくるので、友人のつてをたどり相手の仕事先の上司の名前と携帯番号を調べ「あなたのストーカー行為を上司に言いつける」と友人に言ってもらって、やっと男性はストーカー行為をやめた。

中国人のカレがいないと、渡るにはシビアな中国社会

 この先も中国で活動しようと思っている美加さんは、そんな経験をしてもお見合いを続け、中国人男性と結婚したいのだという。北京は文明が古い分、社会構造も複雑だ。そのなかで営まれる微妙で深い人間関係は、たとえ中国人であっても北京人でないと一生かけてもわからないと美加さんは感じてきた。ましてや、日本人にはこの社会の構造をきちんと理解し、対応していくことはとても無理、そう美加さんは話す。そして小さな日常生活にこう例えた。
「中国の社会では、危機管理は日本よりずっと必要です。例えば、家の契約などでも、もっといい条件の借り手がいたら、契約期間内でも大家さんに追い出されたり、人間関係を利用して仕事のポジションをいきなり奪われたり、私の場合、ストーカー事件に巻き込まれたりもしたように、日常の生活でもいつ何が起こるかわかりません。日本人のパートナーとではとてもこの国では渡っていけないのです。中国で生活し、仕事をしていくのに、私を守ってくれる中国人が必要なのです」
 それに、と、美加さんは続けた。
「中国人男性は荷物を持ったりエスコートするのはもちろん、愛情表現もきちんとしてくれるので、一緒にいると心地いいのです。また、男女平等というより、女こどもは弱いから守らなくてはいけないという観点からだと思いますが、女性に手を振り上げたり、怒鳴ったりしないですし。彼らは大人だと思います」

 美加さんは15年以上北京に暮らし、中国を肌で感じてきた。今後はさらに中国を知り尽くし、中国の歴史や文化を小説などで日本に伝える第一人者になることを目指している。そして、中国への思いは、この国を知れば知るほど強くなっている。人はその国の文化や歴史背景によって形成されていくものだろう。中国を愛する美加さんが、その土地で育った中国人男性と結婚したいと思うのは自然なことなのかもしれない。(文中は仮名)


SadoTamako

投稿者について

SadoTamako: フォトグラファー 北京大学留学後、’99年より北京在住。中国関連の写真とエッセーを内外のメディアに発表している。 『NHK中国語会話テキスト』、『人民中国』の表紙写真、『読売新聞国際版』リレーエッセーを連載。 著書に『幸福(シンフー)?』(集英社)など多数。(ウエッブサイト