まいごのシャルル「01.春はまだ」



 ある日の午後のことでした。もう暖かくなってもいい春の日だというのに、この町は季節が変わるのを忘れてしまったかのように、いつまでも冷たい風が吹き抜け、通りには砂ほこりがまきあがっていました。

 太陽のわずかな光も、小さな古い家の中までは入ってこないので、ナィナィおばあさんはひざしを求めて家の前の通りに小さな古い木のイスをだして座りました。ときどきやってくる冷たい風と砂ほこりに肩をすくめながら!

 それでも、窓の小さなうすぐらい家の中でじっとしているよりはましでした。ここに座って編みものでもしていれば、通りかかった誰かが「やぁ!ナィナィばあさん、ごきげんはどうだい?」とか「おひるごはんは食べた?」と、声をかけてくれました。その日あったおもしろい出来事を最初から最後まですっかり話してくれる人もいました。
 



 ナィナィおばあさんは編みものをして疲れると、おばあさんが生まれるよりずっとずっと昔からあった鐘の楼閣とそばにはえた大きな木を眺めました。
 
 おばあさんは、灰色のレンガを積み上げた立派な大きな楼閣の前で、大木の葉っぱが風にゆれ、葉のすき間から木漏れ日がキラキラと輝く様子をみるのが大好きでした。春や夏には緑が生い茂ってそれはそれは立派な木なのです。真夏の太陽が照りつけるような日には、街のみんなが木陰に集まって涼むのでした。
 



 しかし、ナィナィおばあさんの大好きなその大きな木も、残念ながら秋にすっかり葉が落ちて、今は枯れ木のようでした。《若葉がでるのはまだまだ先のようだねぇ。今年はいつもより遅くなりそうだよ》と、ナィナィおばあさんは深いため息をつきました。
 
 そのときです。おばあさんよりも、もっともっと深く寂しげな長い長いため息がどこからともなく聞こえ、通りに響き渡ったのです。《いったいぜんたい、だれだい!》と、おばあさんはあたりをゆっくりと見渡しました。《こんなに寂しげなため息はきいたことがない!》

 家の斜め前にある小さな売店の角で何かが動いたようでしたが、通りの反対に目を向けていたナィナィおばあさんはそのことにまったく気がつきませんでした。

 ため息の主はだれだったのか、このあと何がおこったのか、おばあさんはずいぶん後になってから近所に住むラオワンから聞いて知るのですが、今はどこからか聞こえてきたため息にただ首をかしげるのでした。

 「今日はなんだかおかしな日だね」と、ナィナィおばあさんはつぶやきました。どこからか悲しげなため息が聞こえてくるし、いつもならとっくに家の前を通り過ぎているラオワンの姿がちっとも見えないのです。編みものをする手もさっきからすっかり止まっていました。    



 いつもと違うというのはなんだか落ちつかないものです。
「こんな日は早く夕ごはんを食べて寝てしまうにかぎるね」
 
 そう言って、ナィナィおばあさんは編みかけの毛糸を片付けると、イスを持って家の中にゆっくりと戻っていきました。遠くからおばあさんの後ろ姿を見つめる視線と2度目の小さなため息にはまったく気づかずに。

ながみみシャルルの物語 〜まいごのシャルル〜
つづく ▶︎02.ラオワンのおさんぽ




Kiyomiy

投稿者について

Kiyomiy: [投稿者名]Kiyomiy [投稿者経歴] 1976年生まれ。静岡県出身。 コマ撮り (ストップモーション)映像撮影やデザイン制作、 オリジナルグッズの企画制作を行う『FrameCue』(http://framecue.net)主宰。 ブログ『ツクルビヨリ』(http://framecue. net/tsukurubiyori/)にて仕事からプライベート まで365日つくる毎日を記録中。