まいごのシャルル「09.朱色の楼閣」



《子どもじゃなかったのか!》

一生懸命背伸びをしながら立派な大人なんだと言うシャルルの姿に、思わず笑いそうになったラオワンは、マフラーで口元を隠すように少しあげ、
「わたしはラオワン」
と、ひとことぼそっとつぶやきました。

そして、また前を向くと静かに歩きはじめたのです。

「あ!ねぇ!ちょっと、どこに行くの!?」



壁沿いに細い道を進んで鐘の楼閣の裏側にでると、両側に木が並んだ広場のような場所がありました。ラオワンの背中を見ながら必死についていったシャルルでしたが、広場を見ようとラオワンの後ろから顔を出してみたその時です。

「わぁ…!」
シャルルは息をのみました。

その広場の先に、鐘の楼閣よりももっと大きな、朱色の立派なもうひとつの楼閣が建っているのが見えたのです。細かな装飾がほどこされているのが遠くから見てもわかりました。灰色のレンガを積みあげた家々が並ぶ街並みの中で、それはひときわ輝きをはなっていました。



鐘の楼閣も近づいてみたら見上げるほど大きかったのですから、遠目でも大きく見えるこの朱色の建物はいったいどれほどの大きさなのでしょうか。

気づけばシャルルはラオワンの前を歩いていました。後ろから吹いてくる風がシャルルの背中をせかすように押してきます。

どっしりと地面に座り込んだような存在感のある朱色の壁の上に、重なる緑がかった屋根瓦。屋根の隙間から見えるいくつもの装飾の帯。建物の真ん中を横切る金色の文様には太陽の光があたってきらきらと輝いていました。それはシャルルが今まで一度も見たことがないほど美しいものでした。しかし、見たことがないのに、遠い日の記憶の中でであったことがあるみたいな懐かしさがこみあげてくるのでした。

小さな門には『鼓楼』と文字が刻まれています。

門の前で立ち止まり、考え込んでいたシャルルの横で静かに待っていたラオワンが
「時間だよ」
と、声をかけました。

「時間?」

シャルルの問いかけには答えずに、ラオワンは先に門をくぐって行きました。シャルルも後に続いて中に足を踏み入れると、目の前いっぱいに朱色の壁が迫ってきました。



《たしかにどこかで見たことがある気がする》

こんなに鮮やかな朱色の建物を見たら忘れるはずはないと思うのですが、シャルルにはどうしても思い出すことができません。それでも、やはりその色や瓦屋根の形、文様の数々を見れば見るほど、胸の奥にしまってある大切な思い出がじんわりとしみ出してくるようでした。

ながみみシャルルの物語 〜まいごのシャルル〜
つづく ▶︎10.前と後ろの境界




Kiyomiy

投稿者について

Kiyomiy: [投稿者名]Kiyomiy [投稿者経歴] 1976年生まれ。静岡県出身。 コマ撮り (ストップモーション)映像撮影やデザイン制作、 オリジナルグッズの企画制作を行う『FrameCue』(http://framecue.net)主宰。 ブログ『ツクルビヨリ』(http://framecue. net/tsukurubiyori/)にて仕事からプライベート まで365日つくる毎日を記録中。