この頃の作品『富士山』や『大自然』は、のちに海外で高い評価を受けることになる。『富士山』はスイスを拠点とする現代アートのコレクター・ユーレンス夫妻のコレクションに加わった。
『富士山』は、富士山を背景に雪一色の湖が広がり、その中に裸で駆けていくふたりの後ろ姿。『大自然』は、敦煌の大自然を背景にふたりが重なる。静けさと躍動感がひとつの作品の中に共存する。
かなりギリギリのところまで行くので、いつカメラに撮られているのか私たち自身もわからない。シャッターチャンスはカメラに委ねていました。
シャッターチャンスに加えて「気」も合った時に初めていい作品が生まれるのです。「気」が乱れると、「ああ惜しかった、これが入っていれば……」ということがあるんですが、「自然」のシリーズはそれらが「気」が合ったときに生まれた作品が多いんです。
山で作品を撮ったあるときも、登る前からずっと雨だったのに、山頂についたら急に厚い雲が割れて雨が止み、光が射し込んだのです。
「今、撮ろう」
と、すぐにふたりで撮影を開始しました。撮り終わるとまたすぐ太陽が雲に覆われ光が遮られて、一気に暗くなってしまったんです。
そういう奇跡のような出来事が何度かありました。
一方、この年、ニューヨークでもロンロンの展覧会が企画された。同時にふたりはオーストリアのレジデンスをベースに3ヶ月かけてヨーロッパを旅する。欧米の現代アート界の視線を惹きつけるのに、そう時間はかからなかった。
Inri: アーティスト 北京在住 1973 神奈川県生まれ 1994 日本写真芸術専門学校卒業 1994-97 朝日新聞社出版社写真部委託勤務 1997 フリーランスとなり自主作品制作に専念 2000 榮榮と共作開始 2001 オーストリア連邦政府のレジデンスプログラムに参加 2006 北京に三影堂撮影芸術中心を創設