第4回 LOVE&HOPE チャリティイベント開幕式 — 北京のアートシーンから被災地の子どもたちへ ー

2016年8月23日 / ロンロン&インリ



(写真)展示会場


「地震を知ってからずっと何かしたいと思ってたんだ。でも寄付をしたくてもどこに寄付できるのかわからなかった。チャリティイベントに出品する機会をくれて本当にありがとう」
 中国のアートシーンを代表するアーティスト・方力釣(ファンリーチン)はそう言って出品を快諾してくれました。

 5月5日夕方、初夏晴れのさわやかな夕暮れ時、街路樹の新緑がみずみずしく茂る芸術区・798のイベリアアートセンターに600人の観客が訪れた。798は元工場をリノベーションしたアート地区。100軒以上の現代アートギャラリーがひしめく。ここで、「草場地春の写真祭2011」の一環として、東日本大震災で被災した子どもたちを支援するチャリティイベントの開幕式が始まろうとしていた。

震災がおこってから数日は連日の報道映像をただただ見ているだけで何も行動に起こせなかった、すっかり気持ちが打ちのめされてる自分に杭をうつことにしました。私はなんの被害も受けていないんだと。
 早急な支援は無理にしても日本にいない自分たちだからこそできることがある。自分たちに何ができるのか、ロンロンと考えていました。写真祭でともにディレクターを務めたベレニス・アングレミーや黄锐(フアン・ルイ)たちも展開を考えていた。そして共同で何ができるかということを話し合ったのが約一ヶ月前の話になります。
 そこにイベリアアートセンター館長の夏季風(シャーチー・フェン)が発起人として加わって会場を提供してくれると決まったのが、ちょうど2週間ちょっと前。そこから一気にこのLOVE&HOPEチャリティイベントの計画が具体的に動き出しました。
 私たち発起人が手分けして作家に直接依頼をしました。方力釣に依頼に行って、逆にお礼を言われた時には人間ってすばらしいと心から思いました。彼をはじめ中国、韓国、そして日本のアーティスト、合わせて79人が98点の作品を無償で提供してくれました。



(写真)展示会場


 展覧会は2部構成となっており、第一部の“311:東日本大震災写真展”の会場には被災地の報道写真が展示されていた。がれきの山の前で立ち尽くしうなだれる家族、スナップ写真を握りしめて行方不明の妻子を探す夫の思いつめた表情、泥の中から顔をのぞかせるセルロイドの人形。写真は静かに、だが強く、被災地の哀しみを訴えかけてくる。
吹き抜けの真っ白な空間に展示された現代アート。場内は被災地への鎮魂の空気に満ちていた。
報道写真は、ボランティアスタッフによって映像として編集、上映されていた。映像をしめくくる最後の1枚に選ばれた、避難所で祖母の背中におぶわれる小さな女の子の澄んだ瞳が印象的だった。


今回、このチャリティイベントを被災地の子どもたちのために行いたいというのは私たち発起人の同じ思いでした。
 震災からすでに一ヶ月がたった今だからこそできることを考えました。 現状はあまりにも残酷です。
 被災地では子どもの存在が大人を支えているといいます。子どもがいなかったら、動かない現実というか、生命観のない現実につぶされてしまいます。子どもがいるから明日があるというふうに思える。子どもがいるから続いていくんだという思いがあります。子どもは社会の希望であり、原動力であり、守らなければならない存在なのです。
 もうひとつの願いは、彼らがいつか大人になった時に、自分たちが小さい時に中国のアーティストたちが支援してくれたという記憶が新たな歴史を作ってゆくかもしれない。という未来への希望です。



(写真)展示会場


 被災地の報道写真を提供した朝日新聞社や禅フォト・ギャラリーへは、インリが直接出向いて提供を依頼した。朝日新聞社は、インリが20歳から3年間契約カメラマンとして働いていた古巣である。当時の写真デスクが社内のアレンジを引き受けた。被災地の子どもたちを支持したいという思いはここでもつながった。

北京のアートシーンから、さまざまな国の人たちが日本に向けて思いをひとつにすることができました。東日本大震災発生後、現地発起人によって行われた日本支持のイベントは、中国国内ではおそらく初めてです。今後もないでしょう。
 そして、ここで中国と韓国、日本という複雑な歴史を抱える国の人々がアートを通して一堂に参加してくれたことはとても意味のあることです。

 開幕式でスピーチに立った韓国文化院の金翼兼氏は、被災地のために国と国の垣根を超えたことの意義をたたえた。

もちろん、中には、出品の依頼を断る作家もいました。
 でも、それはそれで仕方がないこと。そういった中でこれだけたくさんの人が参加してくれたことがすばらしいと思うし、そういった人たちがいることを伝えられるイベントができたことがよかった。私の役割はむしろそういう人たちが中国にいるという事実を伝えていくことだと思います。
「ひとつの国で大変な問題が起こった時に、その国だけでは対処できないこの時代ですが、同時にインターネットを通じて問題意識を世界中で共有できて、ひとつの問題に対して何ができるかをを考えられる時代になりましたね」
そうおっしゃったのは、国際交流基金日本北京文化中心所長の杉田松太郎さんです。
 この活動を通して、世界で何かが起こった時に私たちは何ができるかを考えることから本当に交流をが始まるということを示したいと願いました。
 それが実現できたのが本当にうれしいことです。

 ギリギリの予算とスケジュールの中、関係した人々はすべてボランティアで協力してくれた。初日の売上げは100万元を越えた。作品は5月15日まで展示販売される。



(写真)展示会場




Inri

投稿者について

Inri: アーティスト 北京在住 1973 神奈川県生まれ 1994 日本写真芸術専門学校卒業 1994-97 朝日新聞社出版社写真部委託勤務 1997 フリーランスとなり自主作品制作に専念 2000 榮榮と共作開始 2001 オーストリア連邦政府のレジデンスプログラムに参加 2006 北京に三影堂撮影芸術中心を創設