第8回 中国人恋愛事情

2016年8月26日 / 36歳テレビマン留学記

(写真)真実の愛はどこにある?

 
 日本でも中国でも、大学生活に欠かせないものといえば、何と言っても恋愛だ。残念ながら私はすでに日本に妻子のある身なので、キャンパスラブを満喫するわけにはいかなかったが、それでも学生たちの色々な恋愛模様をそばで垣間見させてもらった。
 
 F君はアナウンス学部所属のイケメンだ。私が通っていた中国伝媒大学の一番の特徴は、アナウンサーや俳優の養成学部があること。彼らの入学に際しては、筆記試験だけでなく、ルックスも非常に重視される。つまり、普通の大学より美男美女の比率が多いのだ。F君もそんな難関を突破した一人で、自他共に認めるプレイボーイだ。
一方、一般の学部には、恋愛経験が余り豊富でない学生も多い。その要因のひとつには「高考」と呼ばれる、中国の大学入試の存在がある。この試験、とにかく難しいことで有名で、高校生は朝から晩まで学校に缶詰になって勉強する。恋愛どころか、本を読んだりテレビを見たりする時間さえ無いのだ。つまり、高校時代の勉強漬けの毎日から開放されて、ようやく恋愛を始めたばかりの「真面目」タイプの学生だ。Gさんはそんなタイプの女性だった。
 F君のようなプレイボーイと、Gさんのような女性は、普通はあまり接点が無いのだが、ある日私はF君から相談を受けた。「Gさんのことが好きになりました。どうしましょう?」
 
 私は少し迷った上で、こう答えた「好きになるのは自由だから止めないけど、性格が合わないじゃない?」しかし彼は私の助言を聞かず、アプローチを続け、めでたくGさんのOKを勝ち取ったのだ。交際が決まった直後、彼は自信満々にこういったものだ。
「冨坂さんが帰国する前には、絶対別れませんから!」
 
 しかし、現実はそんなに甘くはなかった。わずか数週間で、彼らの恋愛は破局を迎えたのだ。理由はやはり、F君のプレイボーイぶりにGさんが我慢できなかったから。私の印象だが、こちらの学生は恋愛関係について隠すことはあまりせず、非常にオープンだ。特にF君は自分のモテぶりを自慢する癖があり、大学を歩くたびに「あの女の子は僕に告白したことがある」

 「あの女の子の友達と昔付き合ったことがある」などと、武勇伝を色々聞かされたものだ。

 
 真面目なGさんは、F君が変わることを期待して付き合うことを承知したのだが、やはり彼は変わらなかった。そのため、破局に至ったというわけだ。絶対にうまくいくと思い込んでいたF君は非常に落ち込んだが、これも一つの人生勉強だろう。
 
 もちろん、ロマンだけではうまくいかないのが恋愛だ。Hさんは大学院生の女性で、アメリカ人と国際恋愛をしていたが、つい最近彼に振られてしまった。彼女はあの手この手でよりを戻そうと試みたがうまく行かず、追いかければ追いかけるほど相手が引くという悪循環に陥っていた。そこで私は、彼女にこういって慰めたものだ。
 

 「アメリカ人の彼はもう諦めて、新しい恋愛を始めたほうがいいよ。中国には13億人も人がいるじゃないか」
 
 しかし彼女のお眼鏡にかなう男性はそうはいない。大学院まで来る女性は、それまで大変な競争を勝ち抜いてきたわけで、少なくとも大学を出ていない男性は相手にしない。また、「都市部」出身か「農村」出身かも、中国では非常に大きな要素だ。たとえ優秀でも貧しい農村から出てきた苦労人よりは、少々ボンクラでも「都市部」のお金持ちの息子のほうが、ずっと輝いて見えるらしい。さらに大事なのは家柄。「共産党の幹部」や「企業の重役」の息子たちは「官二代」「富二代」といって重宝される。かいつまんで言うと、日本よりずっと「現実的」なのだ。
 
 また、よく言われることだが、一人っ子政策の中国では、子供は基本的に「お殿様」「お姫様」なので、非常にわがままに育ってしまうケースも多い。相手の立場にたって考えることを、中国では「换位思考」というが、大学生ですら、それができないことがままある。自己中心的な者同士が付き合っても、やはりなかなかうまくはいかないだろう。
 
 「愛があれば関係ない」。口で言うことは簡単だが、実践することは難しい。特に中国は、日本どころではない壮絶な格差社会だ。様々な現実的な要素が「愛」より優先する社会、お金持ちが何人も愛人を抱える社会、そんな歪んだ社会の中で、真実の愛に辿り着くことは決して簡単なことではないだろう。そんな中でも、私は多くの学生が真実の愛を求めて奮闘する姿を目撃してきた。決して甘くはない青春だけど、簡単に諦めることだけはしてほしくない。なぜなら、青春は二度とは来ないのだから。


Noriaki Tomisaka

投稿者について

Noriaki Tomisaka: 1976年8月27日福井県生まれ(辰年、乙女座、B型) 1994年 京都大学法学部入学 1999年 テレビ朝日入社 朝のワイドショー(「スーパーモーニング」)夕方ニュース(「スーパーJチャンネル」)などのAD・ディレクターを担当 2007年〜 経済部にて記者職を担当 農林水産省、東京証券取引所、財務省などを取材 2011年9月〜 北京・中国伝媒大学にて留学生活を開始(〜2012年夏まで)