第3回 写真祭がきた!

2016年8月23日 / ロンロン&インリ



(写真)開幕


 すっきりと晴れ渡った空。芝が緑に生え変わりかけた三影堂の中庭では桜の若木がほころんでいた。
「2年めの今日を迎えられて本当に嬉しい」
挨拶に立ったフランス人アルル国際写真フェスティバルディレクターのフォンソワ・エベルは、たっぷりの笑顔で喜びを表した。
2011年4月23日午後、第2回草場地・春の写真祭、開幕。

 初日だけで1000人以上が来場し、大成功の開幕でした。
 この写真祭は、現代写真のフォトフェスティバルとして歴史の深いフランスのアルル写真祭との共催で、昨年から始まりました。
 そもそも私たちがこの三影堂写真センターを設立したのが2007年。
その2年前、2005年には中国のアートバブルが始まっていました。私たちも注文のあったプリントをひたすら暗室でつくっていた、そんな時期です。プリント作業に追われて新しい作品がつくれないんです。ひたすら労働しているけれど非再生的というか、非生産的。本当の意味で生産してないわけです。まるで機械の人間みたいで、これじゃいけない、何か立体的な行動を起こしていきたいという思いが生まれました。
三影堂という構想のベースは、ロンロンの若い頃の体験です。彼ら若いアーティスト達がアンダーグラウンドで活動した90年代は海外から貴重な写真集が手に入らず、誰かが外国から買ってきた写真集を回し読みしていました。若い時に優れた写真集や作品をみることは重要という思いがあるロンロンは、図書館をつくって若い人たちに写真集みせたいと考えたんです。
 私たちは、海外に行くたびに1冊1冊選んで買った写真集を大量に担いで帰ってきました。好きで集めてきたそれらを若い人たちに。そこから図書館構想が始まりました。2005年当時の北京には写真学校も写真美術館もない、レジデンスや図書館もないーー。ないものを全部足していったら、 三影堂のような複合的な施設が必要だという思いに至りました。
 アルル写真祭から共催をと申し出をいただいた時は、まだ開幕して2年め。自分たちで手探りで運営しているさなかのことでしたので、嬉しかったです。アルル写真祭は40年の歴史を持つ権威あるフォトフェスティバルで、これまでに海外で第三者と共催した前例はありません。大変な名誉なことである反面、北京で初めてとなる国際写真祭をどう展開、成功させるか、大きな責任を感じました。



(写真)ドイツ大使と3人で


 アルル国際写真フェスティバルと思想手計画、三影堂を中心とする草場地とが共同で企画し、開幕までの作業を進める。ロンロン&インリはディレクターだ。
三影堂のある芸術村・草場地と798と呼ばれるアートエリアの計29の芸術空間が参加し、1ヶ月に渡って展開する。自分たちで企業への協賛依頼に足を運び、スタッフと一緒に企画を考え、形にするという作業をひとつひとつ積み上げて写真祭という集合体をつくりあげるのである。


 参加したそれぞれのギャラリーの展覧会が、全体に去年より質が高くなっていると言ってくれる人が多いのは嬉しいですね。
 88年にアルル国際写真フェスティバルで初めて中国の作家を招待したという歴史的な展覧会の再現をした企画展は、文献展でもあります。なかなか国内では紹介されなかった非常に重要な作品を集めた意義の高いものです。
 当時招待された中国の作家の中には、80歳に近い方やすでに亡くなられた方もいます。そういう方々のオリジナルの作品を集めるのは大変でした。オリジナルがない方たちの作品に関しては、こちらで責任をもってプリントをしました。
 三影堂では若い写真家たちの育成や奨励のために、写真賞を設けています。応募作品のレベルは年々上がっています。
 賛助企業の資生堂が女性写真家に贈る「資生堂賞」、アメリカのティリニー基金の 「ティリニー賞」、そして、三影堂撮影大賞。今年は200名近い応募がありました。資生堂賞(賞金2万元)を受賞したのは36歳のチュ・チュ。そして8万元の賞金が贈られる三影堂撮影大賞はL.Aから応募した22歳のアメリカ留学中の中国人女性チェン・ズが受賞しました。



(写真)台上フランス大使演説


インリはディレクターとして日本の写真文化の紹介を担当する。

 
今年は日本の展覧会企画として「細江英公写真絵巻」展と「山本昌男・川」展を開催しました。特に細江さんがいらっしゃるというので中国メディアの関心は細江さんに集中しました。
 細江さん、そして昨年展覧会をした荒木経惟さんと森山大道さんは、中国で最も知名度が高い写真家です、老若男女から尊敬を集めています。
 細江さんはまさかここまでと驚かれたほどです。
 講演会には若いファンが300人近く詰めかけ、女の子たちが細江さんと写真を撮らせてもらっては飛び跳ねて喜んでるんです。それをご覧になった細江さんも「なんでしょうかねえ、彼女たちは。僕はとってもうれしくなりましたよ」とニコニコなさっていて。



(写真)細江英公氏


4月27、28日のトークセッションには、荒木経惟や森山大道からも作品管理を任され、多くの写真家から信頼の篤いキュレーター・本尾久子と、数々のインパクトある写真集を生み出しているエディトリアルデザイナー・町口覚を招いた。若い写真ファンや写真家たちが集まった。
会場では、髪を高く結い上げたインリが、ゲストに何度となく飲み物を届け、会場となった図書室の空気を入れ替え、細やかに気配りをしている姿が見えた。


 こういう国際的なイベントを通して日本のことを伝えるのは私の重要な役割だと思っています。 写真祭主催で開催する東日本被災地のチャリティイベントには、中国、韓国、日本の77人の作家が参加します。
北京のアートシーンから東日本大震災で被害を受けた子供たちに支援をおくるという主旨で、北京のアーティストや企業家、ギャラリーオーナーなどが発起人となってくれた。そういう人たちが現地にいることをまずありがたいと思いました。写真祭の開幕からひと息するひまなく、5月5日から15日まで開催するこのチャリティイベントの準備に入っています。
 草場地・春の写真祭がこうして2年めを迎えられるのは本当にうれしいこと。しかも今年は3月に日本であのように信じられないような地震が起こり、自分たちの身の回りでも恐ろしい問題が起こっている。先月と今とでは、すっかり世界が変わってしまったというふうに感じています。そんな中で、これから新しい時代をどう生きるのか?
 いつなにが起こっても後悔のないよう、未来を考えていきたいと思っています。


(写真)町口覚ワークショップ参加者と記念写真



Inri

投稿者について

Inri: アーティスト 北京在住 1973 神奈川県生まれ 1994 日本写真芸術専門学校卒業 1994-97 朝日新聞社出版社写真部委託勤務 1997 フリーランスとなり自主作品制作に専念 2000 榮榮と共作開始 2001 オーストリア連邦政府のレジデンスプログラムに参加 2006 北京に三影堂撮影芸術中心を創設