取り壊される直前の「六里屯の家」を撮った時、ロンロンとインリはあの家との関係性を確認した。そして、そこから彼らは作品の主題を、自分たちの生活におき展開を始めた。インリがロンロンの家族のあり方に人間関係の原点を見いだし、関係について多面的なつながりを受け入れられるようになったことが、ひとつの伏線となっているのかもしれない。
こちらの友達から「もうこの人も半分中国人だから」と言われたときには 、嬉しい半分、考えさせられるところもありました。海外で暮らすようになって、日本という国や日本人であることを改めて認識するようになりましたから。
日本人として同時に中国人の大家族の中に存在するということは、私という個人を考えることにもつながっています。日本人の私と中国人のロンロンとの間に生まれた3人の子どもたちが、この中国で大家族に囲まれながらアイデンティティが確立していく過程を見ていくことで、また新たな発見があるかもしれません。
先日写真祭の一環として開催した東日本を支援するチャリティイベント『愛と希望』には、ドイツ大使が共感を寄せてくださいました。ドイツ大使は私たちがこの活動を発起したときに「私は日本人。私たちはみんな日本人です。そう思って私はこの活動を全面的に支持します」と言って下さいました。それ以上の言葉はないだろうと思いました。本当に感激しました。
表現において、個人と他者、家族、そして社会など、個人を取り巻く社会との距離感や関係性は作品から自ずと滲み出てきます。日本とは異なる家族観の中に暮らしたことが幸いして、家族が私にとって重要なテーマとなりました。ドイツ大使のこの言葉は、日本を支えるメッセージであると同時に究極の家族観として私の心にずっしりと重く響きました。
Inri: アーティスト 北京在住 1973 神奈川県生まれ 1994 日本写真芸術専門学校卒業 1994-97 朝日新聞社出版社写真部委託勤務 1997 フリーランスとなり自主作品制作に専念 2000 榮榮と共作開始 2001 オーストリア連邦政府のレジデンスプログラムに参加 2006 北京に三影堂撮影芸術中心を創設