第7回 オレオレ詐欺に遭遇!

2016年8月26日 / 36歳テレビマン留学記

(写真)詐欺犯から届いた感謝のメール…

 私の携帯電話には時々知らない番号から電話がかかってくる。「家を買いませんか」「アメリカに移民しませんか」「スチュワーデスの女の子を紹介しますよ」、中身は殆どがゴミ広告の類で、普段は完全に無視しているが、そんな私も引っかかってしまった手口がある。お恥ずかしい限りだが、皆さんへの警告も兼ねて、ご紹介したいと思う。
 
 きっかけは新学期開始直後にかかって来た、男性からの一本の電話だった。知らない番号だったので、「お前は誰だ」と私は冷たく聞いたのだが、相手は笑って「俺だよ、俺、当ててみて?」と人懐っこく聞いてくる。今思うと、相当怪しいが、もちろん相手は中国語、細かいニュアンスや訛りの違いが余り把握できない私は、すっかり友達の「Eさん」かと、思い込んでしまったのだ。
 
 「ひょっとしてEさんじゃない?」とのんきに答えたのが運の尽き、相手は待ってましたとばかりに「そう、よく分かったね。Eだよ!電話番号変えたから、新しい番号を登録してね!」と話してきた。彼は続けて「今は旅行で北京にいない。戻る頃に電話するから、また北京で会おう!」と言って、電話を切った。この時点では、私はすっかり相手がEさんだと信じているので、新しい電話番号がわかってよかったな、くらいにしか思っていなかった。しかしすでに、悲劇は始まっていたのだ。
 
 3日後、また「Eさんの新しい番号」から、電話がかかってきた。授業中だったので私は電話に出られなかったが、相手は3分おきぐらいに、ひっきりなしにかけてくる。「何が起きたんだ?」不安になった私は、授業が終わった後、すぐに折り返し電話をかけた。相手は明らかに尋常ではない様子だ。
 
 「大変だ。俺の友達が交通事故にあって、今病院に入院した。手術が必要だが、手術代が足りない。今から言う口座番号にお金を送ってくれないか?」
 
 ああ、なんて典型的な手口だろう。しかしすっかり友達と信じている人間から、焦ってまくし立てられると、こちらも冷静な判断ができなくなってしまう。どこかで怪しいと思っていても、万が一本当にけが人がいて、手術が必要ならば、やはり助けてあげるのが人の道だろう。
 
 「いくら必要なんだ?」
 
 私が聞くと、相手は「5000元」とふっかけてきた。日本円で5万円以上の大金だ。さすがにそんな大金はないと答えると、相手は「今財布の中にいくらある?それだけでもいいから送ってくれ。近くにあるのは何銀行だ?今から言うのは友だちの口座だから、あるだけでいい、送ってくれ!こっちは大変なんだ」と懇願してきた。
 
 もし相手が日本人で、日本語で話しているのであれば、私は詳細を確認しただろう。「どんな事故だ?どの病院に入院したんだ?病状はどうだ?…」。しかし私の中国語はそこまでのレベルに達していなかった。少々おかしいとは思ったが、本当の事故なら一大事だ。私は馬鹿正直にも、財布の中にあった700元(1万円くらい)を指定された口座に振りこんだ。そして「Eさん」にはショートメールを送った。「Eさん、出来るだけのお金は振り込んだ。友達の回復を祈っている」そして「Eさん」からは、感謝のメールが帰ってきた。「今日の件は本当にありがとう」
 
 真相が判明したのは、それから一週間後だ。電話番号を変えたはずの「Eさん」の古い番号から、また電話がかかってきたのだ。
 
 「Eさん、電話番号変えたんじゃなかったの?友達の怪我は良くなった?」私が事故のことを尋ねると、Eさんは、「?」が10個くらいついた声で、「お前何言っているの?俺達が最後に話したのは、去年の年末だろう???」と返してきた。この時私はようやく気がついた。
 
 「あ〜〜、騙された!!」
 
 ただ本物のEさんはやはりいい人だった。彼は仕事が終わったその足で大学まで来てくれて、私と一緒に警察に行って被害届を提出してくれた。おかげで私も中国の警察の事情聴取を経験することができた。調書にサインをした後、Eさんは警官に
 
「彼は日本人の友人だから、中国の威信をかけて捜査してくれ」と冗談めかして頼んだが、警官はくすりとも笑わず、「次から気をつけろ」とだけ言って、私達を部屋から追い出した。Eさんはその後、「偽の俺がお前を騙したのだから、今日は俺がおごる」と言って、晩ご飯をごちそうしてくれた。
 
 それから、犯人が捕まったという話はなく、お金ももちろん戻ってこない。こういった詐欺事件は日常茶飯事で、数百元単位の事件など、警察も一々真剣には捜査しないのだという。「700元で教訓を買ったと思えばいいじゃないか」と慰めてくれる人もいた。
 
 こういった事件を経験すると、中国が嫌いになる人もきっといるだろう。でも日本にも中国にも詐欺師はいる。むしろ私は、本物のEさんの誠意を知ることができて、良かったと思っている。「捨てる中国人あれば拾う中国人あり」、もちろん700元は、今でもちょっともったいないとは思っているが……。


Noriaki Tomisaka

投稿者について

Noriaki Tomisaka: 1976年8月27日福井県生まれ(辰年、乙女座、B型) 1994年 京都大学法学部入学 1999年 テレビ朝日入社 朝のワイドショー(「スーパーモーニング」)夕方ニュース(「スーパーJチャンネル」)などのAD・ディレクターを担当 2007年〜 経済部にて記者職を担当 農林水産省、東京証券取引所、財務省などを取材 2011年9月〜 北京・中国伝媒大学にて留学生活を開始(〜2012年夏まで)