第5回 合資企業立ち上げに七転八倒。救世主ジャンさん現れる




(写真)出会いはパーティ。今はなくてはならない人、ジャンさん


会社を設立するには、資本金が必要である。
 もちろん僕達2人に貯金はない。お決まりのパターンであるが親からの投資を期待する。この中国ベーカリー出店計画を立案した1人の中に僕の父親もいるので、もちろんそれを期待する。
 ということで、まずは資本金登記額の少ない国内企業でスタートしてみようとなった。法廷代表人には日本人の名前を使えないので、本稿第2回で紹介した王偉さんに法廷代表人になってもらい、国内企業を立ち上げた。
 さて、これは、王偉さんの力でほとんどの手続きが終わり、少々問題もあったのだが無事お店をオープンすることができた。その後、試行錯誤を繰り返して順調に売上を上げていき、それそろ本格的に事業として考えられるところまで来た。そして、その1つとしてこの会社に外資を入れて実際に僕達の名前を登記していかなければならないという話になった。
 そもそも国内企業は、外国人や外国の企業が投資した企業でなく、中国人が人民元で投資をして設立した企業という定義だ。僕達2人や実際に投資した羽深、岡田の父親の名前は表向きは出ていない。
 この国内企業に外資を投資するという形で合資企業を立ち上げる手続きに入っていった。
 さてこの手続き、僕とスタッフで始めてみたのだけどこれがなかなか進まない。
 どのような手続きが必要で、どこに行くのか、というところから始めたので資料ひとつ作成するにもひと苦労。このあまりにも進まない作業に嫌気をさしていたところで知り合ったのがジャンさん(張誕)だ。




(写真)クリスマスのチョコケーキ


天津人っ子気質であっという間に危機から救ってくれた

 彼は、天津出身の天津人で天津大学卒業である。ガンガンのスタッフ、ヤオ・ユエンと同様に一般的な中間層の家庭で育ち、その後奥さんと共に現在の会社を立ち上げた。外資の会社を多く扱っており、最近では、H&M天津店の税務報告代理なんかもやっている。
 彼との出会いは、パンの卸し先であるフランス料理店でのオープニングパーティーだった。なんとなく話をしていて気が合うというか、今後もつき合って行きたい相手だなと感じていた。その後、そのフランス料理店のイベントなどで何回か会っているうちに、僕は彼に合資企業の手続きが進まないことを話した。
 そこで初めて、彼の仕事が行政関係の手続きを主とした投資コンサルティングだとわかったのである。
 ここは、天津出身の中国人(以下、天津人と略す)の長所でもあり短所でもあるのだけど、一度友人となれば、金銭設定を低くして仕事を請け負い実行する。ただ、これが甘えとなって適当に実行する人間が多いことも確かだ。彼は、そんな中でもその仕事基準が比較的高いところにあり、僕が2ヶ月もかかって終わらなかった合資企業手続きをわずか2週間足らずで終えてしまった。その後、現在でも彼には、毎月の税務報告など行政関係の手続きをお願いしている。
 合資企業登記の手続きの流れは、大きくわけると四段階にわかれる。

第一段階 プロジェクト提案書等の審査
第二段階 F/S報告等の審査
第三段階 合弁契約書・定款等の審査
第四段階 設立登記等

 合弁企業とは、中国の国内企業が外国の外資企業とある比率にて投資を行い、設立する企業のことだ。
 まず、そのプロジェクト内容を中国政府に報告する。外国企業の情報や出資比率、合弁期間、そして、導入する技術や内容、条件。中国政府から営業許可が下りてから、F/S報告の作成。F/Sとは、フィージビリティースタディー(feasibility study)という舌を噛みそうな発音をする略語で、日本語だと採算可能性調査が一番近しいと思う。これも審査と許可が必要だ。
 その後、会社の定款を定め、批准を得て、各役所での設立登記手続きへと進んでいく。営業許可書をおろす工商局、衛生許可をおろす衛生局、その他、税務署や環境局、消防局等々である。これらは、業種によって申請する場所は多少異なる。




(写真)ドイツ発祥のクリスマス伝統菓子、シュトレン


 さて、中国の行政手続きは、面倒であると同時に賄賂やコネクションがなければうまくいかないという誤解がある。さらに賄賂さえあれば何でもできるという大きな誤解もある。賄賂やコネクションは当然役に立つツールだが、あくまでもツールである。やるべき手続きをやらずにまかり通ることなんてことはありえない。賄賂や関係は、問題処理や手続きの速度を速めるときに役に立つのであって、それ自体に使うのではない。この点を誤解している人が多い。自分が勉強もしないで事柄がうまくいけば誰でも成功者だ。なぜ、世の中、成功者と失敗者がいるのかを考えれば簡単である。頭や体、人間関係すべてのことに最適な配分で実行できる者が成功するのだと思う。
 経営者たる人は、絶え間ない学習と実践の繰り返しにより経験を積んで、その結果を人に伝えていく。そして、トップは常に会社内で圧倒的な知識や実力を持っていなければならない。それができなくなった時は引退だ。そもそも苦労と思うのか、それとも自分の使命と思うのか、その差は激しい。この手続きにしても、コンサルタントに仕事を依頼することの意味は何か。それは、自分で手続きをするよりも速度を速めることができるというのが趣旨である。もちろんどのような手続きがあり、どのように進めて何が必要なのか、提出する資料は何に使用されるものなのか、すべてを把握することは当たり前だと思う。


HabukaTakeshi

投稿者について

HabukaTakeshi: 生年月日:1978年12月25日 血液型: O型 出身地: 日本国静岡県袋井市 大学卒業後、サラリーマンを2年経験、退職後中国に渡りパン屋をオープン。 趣味は、バスケットボールとボードゲーム。