第9回 建築も経営も、コンセプトがイノチ




(写真)小売りとレストランを一体化させるというイメージを具現化して設計してくれた東福大輔さん


 僕は、田舎者である。
 静岡県袋井市という都市に生まれ育ち埼玉の大学へ進学した。
 小さい頃から都市の憧れをもち自分の小さなコミュニティーへの閉塞感を感じ育ってきた。中学の時は、早く袋井市というコミュニティーから抜け出したくて、高校の時は、早く静岡というコミュニティーから抜け出したくて、関東の大学に進学してやっと閉塞感という感覚から抜け出した記憶がある。それでも就職をしてからまたその閉塞感という感覚が戻ってきた。そんな感情が僕を中国に仕向けさせた要因でもあると思う。
 中国で仕事を始めて、ちょっとずつ規模が大きくなるにつれて気づいたことがある。僕が求めていたのは、大きな土地ではなく、充足できる仲間を持つことだったということ。自分自身が成長するに従い、様々な人に出会うことができた。僕の本来の能力では到底会うことができなかったであろうという人との出会いが出てきたのである。それが現在の人間関係である。
 ワンさん、ジャンさん、小島さん、そして現在僕の周りにいて支えてくれている人々。すべて自分自身で行動をしてきたから出会えた人々だ。その中に東福大輔さんという建築家の友人がいる。
 東福さんとは、ひょんなことから出会った。天津の1店舗目のベーカリーを改装した時、そのアドバイスを求めて出会った人を介してのことだ。名前だけを知っていてその後2007年に北京店をオープンしてしばらく経ってから、友人の誕生日会で実際に出会うことになった。
 東福さんは、現在38歳。有名大学の大学院を卒業後、超有名ゼネコンの設計部に入り、さらにそれを捨てて、世界的超有名建築家の設計事務所で働き、北京事務所の担当者となって中国入りをした人だ。現在は、独立して北京に事務所を構えておられる。音楽なんかの話をしているうちに意気投合して、今でも仲よくさせていただいている。




(写真)人気の一品、エクレア


 僕は、ここで知り合い自慢をしたいということではなく、自分の能力以上のことは、自ら行動することによって生み出されるということ思うのである。そして今の中国には、そのチャンスが広がっている。
改めて僕の文章をみるとものすごく頑固で人の意見に耳を傾けない堅物のように感じられるが、実は、ものすごく人や本に影響されやすい性格だ。
 東福さんの影響を受け建築に興味を持つことができた。実のところ僕の大学時代の専攻は、土木工学で建築と近い学問を学んでいた。建築に憧れていた時期もあったけどそれは、ただただかっこいいからという理由であり、大学に編入する勇気も独学で建築を勉強する勇気もなかった。それでも今でも僕の心の中で憧れがあるらしい。実際、東福さん曰く建築やってる人かっこ悪い人多いですよなんて冗談半分でいってますが……。へへ
 そして東福さんに設計を依頼したのが、僕らにとって4店舗目となるレストランと食品スーパーを融合させた新店舗『ガンガンセラー』である。
 この店舗は、2005年に出店した1店舗目のオリンピックタワー店から約200mほどの近距離に位置していて、ディベロッパーからの働きかけで出店を決めた。
 犀地という高級アパートのテナント部分であり、いわゆる路面店だ。日本人も含めた外国人も住んでいて中国人の富裕層も多い。まだまだ開発が全て終わっているわけではなく、さらなる発展はありそうだ。
 出店した当時には、空き店舗ばかりで閑散としていた。しかし目の前には小学校があり、すぐ近くの大通りは、交通量も多く、天津の商業中心からもタクシーで初乗りでいけてしまう位置。だからといってものすごく賑やかで雑多な場所ではなく、ある程度の高級さも兼ね合わせた場所である。近くには、オフィス棟もあり、住居と混在しているという立地は、現在のガンガンにとっては、立地のセオリーでもあった。お店に面した通りは、並木通りとなっており秋口には、その紅葉と閑静な雰囲気がなんとも素晴しい。
 この条件を踏まえて出店を決断した最大の理由は、家賃の安さだ。ディベロッパーに日系の店舗を入れたいという考えがあり、特別価格で借りることができた。
 立地ありきで業態を考えることからスタートしたのである。
 ベーカリーを出店するにはオリンピックタワー店が近すぎるし、少々面積も大きい。オリンピックタワー店が74平米であるのに対して、この犀地店は120平米の2階建て。合計で240平米である。




(写真)Gang Gang Cell-ar2階のレストラン


コンセプトは「食品備蓄庫」

 そこで考えたのが小売りとレストランだ。精肉の需要も考えられたので、知り合いの精肉店に社員2人を研修に行かせた。さらに岡田がケーキを開発して製造、小売りには、ケーキと精肉、さらに野菜やその他調味料などの食品を販売するという形式。これが1階で2階がレストランだ。
 食品の売り場(スーパー)、加工場(キッチンフロアー)、消費場(レストランフロアー)、この順番で店が構成されている。食材が一階に備蓄されてキッチンで加工され2階に料理が上がっていく。この食品の流れが視覚的にも実現されたこの店を、食品備蓄庫という意味も含めて『ガンガンセラー』と名づけた。そして英語名は、the Gang Gang Cell-ar。
 なぜ、CellarではなくCell –arなのか?ここに内装設計のコンセプトが見え隠れする。備蓄庫としてこのスペルに細胞という意味のCellが含まれており、2階レストランは、開放的でありつつ天井を細胞のように区切りその一つ一つの細胞に対応してテーブルを配置。このテーブルと天井が対応していることによりそれぞれが独立した空間に感じられる。言葉では、なかなか上手く伝わらないけど、非常に面白い構造となっている。デザイナーである東福さんが作り上げたコンセプトだ。僕は小売りとレストランを一体化させた業態を考えており、それを東福さんが噛み砕いてデザイン案としてまとめ上げた。
 設計でも教育でも日々の仕事でもなんでもかんでもどうやらこのコンセプトを固めるというのは、とっても重要らしい。全ての行動は、達成したい目標の為に行われることで、この目標やコンセプトがしっかりと固まっていないとアヤフヤな結果となってしまう。
 その目標を常に意識することが非常に大事だ。常にゴールとは何かを考え行動をして判断をすれば、最初のコンセプトが徐々に近づいてくる。判断を迫られる時にまず本能的に浮かぶ基準が楽なのか苦なのかということ。しかしそれでは、うまくいかない。目標に対して、コンセプトに対してどちらが近しいか?という基準で判断しなければならない。そうしなければ同じ目的で仕事をしているスタッフが迷うだけである。一貫性のない行動とは、このことだ この新店舗は、2010年7月28日に開店を迎える。期待をもってのオープンだったがやはり簡単にはいかなかった。今までなら労務問題だけで四苦八苦していたが、今度はそこに加えて財務問題。さらに景気がよいという現象は、人事労務とって不利な条件となることがあると分かった。人材が売り手市場になることは、待遇や福利厚生などの条件が少しでも好ましくなければ募集をすれど人材が集まらない。現場に100%使ってしまいその他の仕事に手が回らなくなって世の中の変化に気づくことが鈍感になった僕は、判断が遅れてしまった。その結果、極端な人手不足に陥っていった。僕は、開店してからの1年間は、肉体的にも精神的にもどん底を味わい、心がどんどん病んでいった。
 そして、経営判断という仕事が遅れ勝ちになり、時間の余裕と心の余裕が無い僕は、たいした分析もできないまま一貫性のない判断をとるようになり、状況は悪化していく一方だった……


HabukaTakeshi

投稿者について

HabukaTakeshi: 生年月日:1978年12月25日 血液型: O型 出身地: 日本国静岡県袋井市 大学卒業後、サラリーマンを2年経験、退職後中国に渡りパン屋をオープン。 趣味は、バスケットボールとボードゲーム。