僕達の問題は、非常に簡単なことだった。
人材をうまく活用できない。
物事は全て、その本質と真理を解き明かせばおのずと解決策が見えてくる。
シャオチェンの失踪や天津店のストライキ全ては、人によって起きた出来事。 これは、従業員管理の問題から生まれた結果だった。
当時、恥ずかしながら大した就業規則や体系だった昇給制度が確立しておらず、問題が起こったらこれこれというような対応でしかなかった。これは、店舗が1店舗で岡田と僕が現場にずっといれば僕達が決まりなので問題が起ころうと対応できる。皆辞めてしまったとしても2人がいれば何とか継続できる。しかし、組織が拡大して2店舗、3店舗となればスタッフを管理する店長やコック長を登用しなければならない。その店長達がスタッフを管理する際に体系だった規則がなければ彼らも判断できない。無理やり判断した結果がもしも道理に合っていないことであれば、その下にいるスタッフがその店長にケチをつける。
さらに大きな問題は、その下にいるスタッフがこの管理職を店長やコック長として認めて指示に従うのか?ということだ。
組織の管理職は辛い立場に置かれる。上からの圧力と下からの圧力の板ばさみ。もしもスキルがない人がいきなり管理職になれば、その仕事は、大きなプレッシャーとなり押しつぶされてしまう。前回の記事に書いたようにシャオチェンが恐らくこれに当てはまってしまったと僕は思う。
店長の人事権は非常に大きな力になる。彼自身がもしもその他スタッフの考査や採用に対して権利がなければ、その下の者は、自分自身がボスと認めない人間に対しては、同等かそれ以下と思い、指示には従わない。
組織に対して人がついていくのではなく、人に対して人がついていく。だから管理職には人事権が必要なのだ。
昇給に対して影響力を持つ管理職の指示には、従わなければならない。そして、2店舗目をオープンした2007年秋ごろより、頑張っている人間をより評価したいという思いが僕にはっきりと芽生え、初めて経営に対する考え方がぼんやりと固まってきた時期でもあった。
そこでこの会社の骨組みである就業規則と昇給制度の体系化にお手伝いいただいたのが、小島庄司さんだ。僕が師匠と慕う人物で人事労務のプロである。コンサルタントという肩書きは似合わず、ご本人自身で会社を経営・実践されていて、マニュアルを作成するというやり方ではなく、何が真理なのかを見極め経営者に的確なアドバイスを与え情況にあわせた施策を考え、その会社に応じた本当の仕組みを作るというスタンスだ。
根気なくして、社員教育なし
小島さんとの出会いは、パン屋を出店した2005年当時まで遡る。共通の友人を介して知り合い、その丁寧な物腰と鋭い眼光に凄みを感じた。その当時からメールでのやり取りの中から勉強させていただいたことがあった。日本での社会人経験の少ない僕は、手紙やメールの書き方も知らない。諸先輩方のメールを参考に真似をして覚えて言った。メールの書き出しに相手の名前を書いて最後に感謝の言葉を添えて自分の名前を署名する。恥ずかしながら、小島さんよりメールをいただいて初めて知ったことだった。
開店前の2005年に知り合いその後何度か小島さんの会社が主催するセミナーに参加して何度か食事をしたりしていた。そして、北京店を出店した2007年10月頃に昇給制度の相談をする。そして2009年3月に就業規則をお手伝いいただいた。
半年に1回、従業員考査を行う。昇給は考査の結果によって決まる。その考査内容は、予め従業員に知らせておき、半年の間で何度か面談を行い途中結果も話し合い最後に自己評価と上司の評価をつけてそのフィードバックも行う。内容について、大きく分けると7つの項目がある。態度、コミュニケーション、知識、技術、実績、出勤状態、身だしなみ。新入社員は、態度やコミュニケーション、出勤態度、身だしなみとこれらの仕事人としての基本的項目を重視して、幹部などは、実績、知識、技術といったことのウエートを高くする。この考査の肝は、面談というコミュニケーションの機会を設けることとフィードバックによる本人の基準と会社の基準とのズレを是正することにある。
何でも同じことが言えるのだが、このコミュニケーションというのが非常に鍵だ。人間同士の誤解は、コミュニケーション不足から起こる。友だちとの喧嘩、恋人同士の不和、夫婦の別居、そして国と国との戦争。ちょっと話を大きくしすぎたが、これらも相互理解がしっかりとあればおのずと解決策は望めるし心にしこりを持ったままの決裂というものはない。そして人間は本当に他人のことを理解しづらいようにできているようだ。
自分にできて彼にできないこと。これってなかなか理解できない。ここで僕得意の極論をもち出すと……。
小さな子供が公共の場で騒いでることを想像してみる。大人からしたら理解しづらいし、子供だからここで騒いではいけないことがわからないのだろうと思うだろう。むしろ、親は何をしてるんだ?と思えてくる。でも実際その子供はしてはいけないこととわかって敢えてしているかもしれない。親の気を引くために、もしくは、アニメのキャラクターがこのようなことをしているので真似しているとかなんとか……。この親にはある偏った教育方針があってただ甘やかしているからではなく信念があってのことかもしれない。
ちょっと意味のわからない例をとりあげたけれど、結局他人は、真相はわからないのである。この子供に勇気をもって注意すれば、親からの説明があり、お互いの理解はできることもあると思う。結局コミュニケーションをとらなかったり悪いものを悪いと言わなければ、事の真相は推測でしかないのである。
僕自身、自分の意見や感情を表に表すことが苦手で、他人に何かを言うことも好きではない。でもこれを怠れば仕事は、劣化していく。
定期的に購読しているメールマガジンにこんなことが書いてあった。教育というものは、根気である。例えば、社内でテーブルの真ん中にコップを置くと規定したとする。それでも次の日に一部の従業員は、まだ理解しておらず、テーブルの真ん中から5センチ離れた場所にコップを置く。これをまたその従業員に言い聞かせ真ん中に置く。そしてその次の日にその従業員がテーブルの真ん中から3センチ離れた場所にコップを置く。そしてまた言い聞かせて真ん中に置く。その次の日は、やっと真ん中にコップを置くものの放っておくと1週間後には、なんとテーブルの端に置き始める。これで諦めてそれを許していると会社の経営は傾いていく。
これこそが、教育であり経営の本質かもしれないと思う。イメージは、相手がわかるまで伝え続けてさらに定期的に確認をしてさらに是正する。その理解が早い者やそれを継続できる者、そしてそれをその他の者にも伝えることができそのルールの本質まで理解した者が多くの給料を取る。その有名経営博士の言葉を借りれば“真摯”であることが重要である。
ガンガンの昇給制度は、このような思想のもとに成り立っている。
この昇給制度は、現在も進化中で幹部については、自分で目標設定をさせてそれに基づき行動計画を立て実行させている。従業員に、かならずゴールをみせることでモチベーションがあがる。自分のイメージをはっきりと言葉や文章にしてそれをできるだけわかりやすく根気強く実行する。
そして就業規則は、法にもとづいて制定しなければ現在の中国では意味のないものとなる。これは、コンサルタントや弁護士の力をかりなければ難しいことだ。なぜなら中国の法律は凄い速さで変化しており、それに追いつくには、本業の傍ら情報を集めて分析検討していくというのは、無理な話だ。経営者が本業を考える時間が少ないのは、問題だ。
ここだけの話、僕も以前辞めていった従業員と労務関係の裁判になりそうになり、仲裁にかかったことがある。結構な額を支払った。これは、手続き上にミスを犯しておりその穴を抜かれてしまった結果だ。ここで詳しいことを書くと不利を被る人が出てくる可能性があるので割愛するが、このように重箱の隅をつつくような訴訟が中国で頻発しており、対策を打つ必要があるのだ。それには、やはりプロの手を借りるのが確実だ。
現在ガンガンでは、行政手続、財務コンサルの張さんと人事労務のプロの小島さんという協力なサポーターに支えられて運営している。これからも多くの人達にお世話になりながらガンガンは伸びていくのだろう。また、お世話になっている人のためにも伸びていかなければならない。それがガンガンの使命のひとつだ。
HabukaTakeshi: 生年月日:1978年12月25日 血液型: O型 出身地: 日本国静岡県袋井市 大学卒業後、サラリーマンを2年経験、退職後中国に渡りパン屋をオープン。 趣味は、バスケットボールとボードゲーム。