<筆者プロフィール>
1986年東京生まれ。私立武蔵高校、早稲田大学理工学部卒。大学在学中は体育会ラクロス部に所属。 2010年株式会社商船三井入社。関連会社出向、本社経営企画部を経て2016年8月より、上海にあるChina Europe International Business School (CEIBS)に現在会社からの派遣でMBA留学中。
ブログ: CEIBS MBA日記 (http://ceibs2018.hatenablog.com)
<紹介文>
第1、2回では、大山さんがなぜ会社の制度がない中で、社費留学制度を作ってまで、中国MBAに行きたかったのか。第3回では、なぜ中国人エリートの働き方に興味をもったのか。第4回以降は、中国人同級生の取材を通してこれからの中国人エリートの働き方にせまります。
<第4話>エリートエンジニアがHuaweiを辞めてMBAに学ぶ理由
中国人同級生 LIAO Bin (英語名Liao):
1984年、広西チワン族自治区生まれ。華中科技大学にてオートメーションを専攻し、2007 年卒業、卒業後Huaweiにプロキュアメントエンジニアとして入社。サプライチェーンのマネジメントを一貫して担当する。3年間Huawei本社にて働いた後、ブラジルに異動。Huaweiのブラジル支社にて5年間勤務。趣味はサイクリング。
あのHuaweiで社内婚。学び続けるのがHuaweiメソッド
大山:Liaoは奥さんもHuaweiで働いていたんだよね?
Liao:妻は今も 東莞(トウカン)市にあるHuaweiの本社で、ある部署の人事系の仕事をしているよ。だからMBA期間中は別居生活だね。子供もいるけど共働きだから日中は妻の両親に3歳の子供の面倒を見てもらっているよ。MBA生活はタフだけど、なるべく1ヶ月に1回は帰るようにしているよ。
大山:奥さんとは職場で知り合ったの?
Liao:妻とはHuaweiの入社同期なんだ。入社初日のトレーニングで知り合ったんだ。トレーニングが終わって別々の部署に配属になったけどね。今の奥さんとも知り合えたしHuaweiには本当に感謝しているよ笑 それに、8年間Huaweiにいて働く姿勢や哲学はHuaweiから学んだことが多いよ。
大山:中国人は良く転職するイメージがあるから、8年間は長い方だよね?
Liao:長い方だね。Huaweiの平均勤続年数が大体6年くらいだったかな。
大山:Huaweiは先日、日本でも新卒採用の給与がマーケットの倍くらいということで話題になったよ。Liaoが思うHuaweiで働いた経験から、従業員にとってHuaweiの良いところと悪いところを教えてよ。
Liao:日本でHuaweiの新卒の給与が高いと話題になったことは知っているよ。今でもHuaweiのニュースはチェックしているからね。
一番良いところはもちろん給与だね。同じ業界の同じ仕事で、外資系の競合他社よりも約30%、中国企業よりも約50%程度はHuaweiの給与の方が高いと言われているよ。二番目は、Huaweiは決して学ぶことを辞めない会社だから、その姿勢を学べたことはとても大きいよ。Huaweiは全ての競合他社は徹底的に研究しているけど、例えば一時期、小米(シャオミ)がインターネットを通じて、顧客から様々な意見を吸い上げて、全ての意見に対応していることがニュースになったけど、Huaweiも顧客第一主義を掲げているから、すぐに実践したよ。そして本当に顧客のニーズがあれば、とても面倒な作業であるにも関わらず、すぐにプロセス変更をしてまで顧客の要望に応えようとするんだ。
更に、全然違う業界の成功企業の事例、例えば海底捞(中国で大成功している火鍋のチェーン店)のケースも徹底的に研究して、社員に共有している。この満足することなく、学び続ける姿勢はHuaweiから学んだね。後は昼休みが1時間半あったのは良かったな(笑)。Huaweiの従業員はみんな、30分ご飯を食べて残りの1時間は昼寝をしていた。そうすると午後スカッと仕事が出来るんだよ。昼休み中に電話が来たりすると、小さな声で周りの人を起こさないように、昼休みが終わったらもう一度連絡してくださいって言って対応していたいよ(笑)。
逆に良くない点としては、Huaweiは今や大企業だから、深センでは企業というよりは一つの街のような感じなんだ。だから良くも悪くも、Huawei内で全てが完結できてしまう。考え方や物事の見方が似ている人が多くて、Huawei式にこりかたまっちゃう可能性が高いと思う。いろいろな考え方を知りたいというのはMBAを目指した理由の一つだね。うちの場合は僕も妻もHuaweiで働いていたからとても考え方が偏ってしまっていると感じることがあったんだ。だからMBAでの日々はとても刺激的だよ、金融やコンサルがバックグラウンドの同級生とは全然考え方が違うからね。
ブラジル支社を5年経験後、MBAへ
大山:Huaweiの創業者ってどんな人?例えばアリババのジャック・マーに比べて、全然メディアに露出しないし、プレゼンとかも聞いたこと無い気がする。
Liao:Huaweiの創業者はジャック・マーとは全然違うタイプだよ。もう70歳は超えていると思う。メディアには全然出てこないけど、社内では伝説的なプレゼンをいくつも残していて、その噂が外部に漏れたりしているね。彼は70歳を超えているけどとても元気で、若くみえる。多分学ぶことをやめないからじゃないかな。学ぶことをやめなければ若さを保つことができる。
大山:そういえばHuaweiってLDP(Leadership Programの略。外資系企業は幹部育成のために、通常とは別の採用・育成ルートを持っているケースが多い)もないよね?どうやって幹部を育成しているの?
Liao:Huaweiの人材育成の考え方は、LDPを持っている企業とは異なって、とにかく成長の機会をたくさん従業員に与えて、そこでサバイブした人達を幹部として迎えるというもの。だから、有望な若手はすぐに別の国に、送りこまれてふるいにかけられるんだ。
大山:Liaoも5年間ブラジルにいたよね。有望な若手と認められていた証だね。その間奥さんはどうしていたの?
Liao:最初の2年間は単身赴任だったんだけど、奥さんも会社にお願いしてブラジルで働けるようにしてもらったんだ、だから最後の3年間は一緒に住んでいたよ。一緒に旅行もたくさんした。ブラジルはとても広大だから、まだ回れていない場所もたくさんあるんだけどね。ちなみにブラジルを希望したのは、若いうちに 英語以外の言語を習得したかったから。スペイン語、ポルトガル語はこれからとても重要になるだろうからね。
大山:これだけエリート街道まっしぐらで、Liaoはキャリアの上でミスをしたことってあるの?
Liao:もちろんあるよ。ブラジルにいた時に、部署は中国にいた時と同じく、サプライチェーン・マネジメントを担当していたのだけど、ブラジル支社のダイレクターから、その部署の業務とは全く異なる仕事のプロジェクトマネージャーを頼まれたんだ。ダイレクターからのお願いだったから断れなかったのだけど、とても忙しく、重要なプロジェクトで本業の方に時間があまり取れず、当時の部署の上司はそのことをよく思わなかった。だからその年の評価がとても悪くなってしまった。その後、ダイレクターが僕に社内で自分の現状や、なぜ今本業に集中できないかを説明する機会を設けてくれたんだけど、そこで僕は上手く皆に説明することができなかった。そこで気がついたんだ、僕はソフトスキルが欠如しているって。だからMBAに行くことにしたんだ。もしプレゼンが上手くいって、トントン拍子で出世していたらここにはいないかもしれないね(笑)。
両親は反対、妻は賛成したMBA進学
大山:数あるMBAスクールの中でCEIBSを選んだ理由は?
Liao:当時はブラジルに5年間住んでいたから、そろそろ中国に帰りたくなっていたんだ。北京は大気汚染が酷いし、香港は熱すぎるから選択肢から外して、上海を選んだんだ。上海だったらCEIBS以外他に選択肢はないからね。
大山:奥さんや家族の反応はどうだった?
Liao:両親は、信じられないという反応だったよ。とても良い給料で安定した会社をなぜ辞めるのかと。両親の世代は、恐らく日本と同じで、一つの会社にずっと長く勤めることが美徳とされていた時代を生きてきたからね。しかしながら僕達の世代は、やりたいことや、家族の状態に合わせて転職することは普通のこと。両親には、Huaweiは今は調子が良いし、僕が入社した当時と比較しても売上が8倍位になっているけど、いつ調子が悪くなるか分からない。日本の家電メーカーのようにね。そうなると35、40歳以上のスキルの割に、給料の高い従業員からクビになる可能性が高い。だから、妻も僕も同じ会社で働いているということはとてもリスキーなんだ。そんな話を両親にはしたよ。納得はされなかったかもしれないけど、僕らはもう自分の人生を自分で決断できる歳だよ(笑)。
妻とはとても長い時間相談していたけど、基本的に僕の決断を応援してくれているよ。実は2015年の夏にHuaweiを離れているから、MBA卒業まで3年間僕は無収入の状態になる。これは大変なことだけど、妻は僕の決断を応援してくれている。本当に感謝しているよ。
夫婦で「Enough」の価値観を共有したい
大山:素晴らしいね。Liaoにとって、理想の家族像、夫婦像ってどんなもの?
Liao:理想の家族は、家族みんなで一緒にいること。やっぱり、お父さんが別のところにいるのは子供にとって良くないことだと思う。理想の夫婦は、お互い支え合って、また互いに違うものの見方だけど、お互い勉強して、例えば夜ご飯の時とかに、意見を出し合ったりして、意見は違うけどお互い高め合える夫婦。だから妻には専業主婦にはなってほしくはないけど、Huaweiが好きだったらずっとHuaweiで働いてもらっても構わないし、違う会社に移りたかったら移っても構わない。好きな場所で仕事をしてほしい。後は「Enough(もう十分)」を理解している夫婦になりたいな。
大山:「Enough」を互いに理解するってどういう意味?
Liao:中国では、基本的に共働きが普通で、その主たる理由は、住居費をはじめとした生活費を賄うために、共働きせざるを得ないということだけど、もう一つは、中国人はメンツを気にして、他の人と比べることを好むんだ。だから、1千万円稼いだら、5千万円稼いでる人、5千万円稼いだら1億円稼いでる人と比較して、更に上を目指す。だけど、もうこれで十分っていうラインをお互いが分かっていれば、他人と比較することもないし、幸せになれると思うんだ。
大山:なるほどね。CEIBSにいると特に成績に関しては中国人の方が敏感だもんね。子供の教育に関してはどう?
多くの同級生の悩みとして、インターナショナルな教育を受けさせるか、中国の教育を受けさせるか悩んでいる人が多いと思うけど。一度インターナショナルな教育を受けさせたら、現実的には中国式の教育には戻れない=中国の良い大学には行けないからっていうのが主たる原因だけど、Liaoはどういう意見?
Liao:僕は子供には中国式の教育を受けさせようと考えている。これからどんどん良くなっていくと思うからね。だけど、子供には小さいうちに数年間、海外で経験を積ませてあげたい。次の職場で転勤で海外に行くチャンスがあって、そこで子供と数年間海外で過ごせたら最高だね。
将来は起業、PhDもとりたい
大山:なるほどね。最後にLiaoの今後のキャリアプランについて聞かせてよ。
Liao:これから先自分の考え方がどう変わっていくかわからないから不確実だけど、MBA卒業後は就職しようと思っている。できたら、東莞や深センの近くで働いて、そこで家も買えたらいいね。次の就職先でいろいろと新しい考え方も学ぶと思うけど、ゆくゆくは起業するつもりだよ。現時点では教育関連での起業を考えているけど、例えば、学校のコンサルティングプロジェクトでブロックチェーンについて学んで、その延長線上で自分で作ったビジネスプランを投資家に説明したら、興味を持った投資家が複数人いた。彼らはブロックチェーンについて何も知らないのだけどね(笑)。しっかりした事業プランがあれば、特にホットなトピックであればなおさら、今の中国でお金を集めることはそこまで難しくないと思っている。だからどの分野になるかはわからないけど、自分でビジネスをそのうち始めるつもりだよ。それに、学ぶことも絶対に死ぬまでやめないよ。中国国内で、パートタイムで何年かかるかわからないけどPhDもとりたいと思っている。
大山:学ぶことをやめないHuaweiイズムが染みついているね(笑)。
Hirotaka Oyama: <プロフィール> 1986年東京生まれ。私立武蔵高校、早稲田大学理工学部卒。大学在学中は体育会ラクロス部に所属。 2010年株式会社商船三井入社。関連会社出向、本社経営企画部を経て2016年8月より、上海にあるChina Europe International Business School (CEIBS)に現在会社からの派遣でMBA留学中。 ブログ: CEIBS MBA日記