<第11話>キレッキレで人望アツい台湾人の「出来杉」くん。サムソンの熱烈オファーによりソウルへ

<筆者プロフィール>

大山廣貴:
1986年東京生まれ。私立武蔵高校、早稲田大学理工学部卒。大学在学中は体育会ラクロス部に所属。 2010年株式会社商船三井入社。関連会社出向、本社経営企画部を経て2016年8月より、上海にあるChina Europe International Business School (CEIBS)に現在会社からの派遣でMBA留学中。

ブログ: CEIBS MBA日記 (http://ceibs2018.hatenablog.com)

<紹介文>

第1、2回では、大山さんがなぜ会社の制度がない中で、社費留学制度を作ってまで、中国MBAに行きたかったのか。第3回では、なぜ中国人エリートの働き方に興味をもったのか。第4回以降は、中国人同級生の取材を通してこれからの中国人エリートの働き方にせまります。

 

 

<第11話>キレッキレで人望アツい台湾人の「出来杉」くん。サムソンの熱烈オファーによりソウルへ

台湾人同級生Ernesto Chien :
1985年台北(台湾)生まれ。国立台湾大学、同大学院卒業後、グラクソ・スミスクライン(本社イギリス・ロンドン)に就職。台湾の実績が認められ、同社のリーダーシッププログラムのメンバーに選ばれ、ロンドンで1年間働いた後、同社の上海支店で働き、中国で更なるチャンスを掴むためCEIBSに入学。

台湾から上海MBAへ

大山:学年でもトップクラスに優秀なErnestoは、いろいろな会社からオファーをもらって、逆に進路に悩んでいると聞いたよ。キャリアの話は後で聞くとして、Ernestoの生い立ちについて教えてよ。大学までは台湾で育ったんだよね?

Ernesto:ハハハ。実は先週進路を決めたから後で教えるよ。そうだね。台湾の首都・台北で育って、大学、大学院と国立台湾大学に進んでバイオロジーを学んだ。そして、グラクソ・スミスクライン(*著者注:イギリス・ロンドンに本社を置く世界有数の規模を持つグローバル製薬企業、以下GSK)に入社したよ。

大山:国立台湾大学はErnestoに案内してもらったことあるけど、素晴らしいキャンパスだね。最初はGSKでは最初は台湾での勤務だったんだよね?

Ernesto:はじめはGSK台湾で勤務していたね。そこで営業やマーケティングをやっていたよ。そこでの実績が認められて、GSKロンドン本社のリーダーシッププログラムのメンバーに選ばれて、その後ロンドンに移ったよ。

大山:奥さんも国立台湾大学卒じゃなかったっけ?同級生?

Ernesto:同級生ではないよ。大学時代は知らなかった。GSK台湾で働いていた時に、そこで担当していた病院で今の奥さんと知り合ったんだ。彼女は違う製薬会社だったんだけど、同じ病院を担当していたんだよ。妻は台南出身で国立台湾大学の大学院を出て、薬剤師の資格を持っているよ。

大山:じゃあ、奥さんもキャリア思考なのかな?

Ernesto:CEIBSの女子みたいにバリバリ野心があるというわけではないよ。ただ、薬剤師の資格を持っていることで、ちょっとのブランクがあってもすぐに職を見つけることができるというのはあるね。ロンドンに一緒についてきた時も、その後台湾に戻った時にすぐに職を見つけたし、上海に移ってきてもそうだったしね。

台湾へ戻らず韓国へ

大山:Ernestoの今後のキャリアについて聞きたいんだけど、結局どこで働くことにしたの?

Ernesto:最後はイーライリリー(*著者注:世界最大級の製薬会社)のリーダーシッププログラムとサムスンのリーダーシッププログラムで迷ったんだけど、最終的にサムスンで働くことに決めたよ。サムスンでは中国・台湾の製薬・医療関連のビジネスデベロップメントの仕事に就く予定だよ。

大山:さすがね。イーライリリーのリーダーシッププログラムだって、超難関なのに……。台湾に戻るという選択肢はなかったの?

Ernesto:台湾に戻る選択肢はなかったね。台湾の経済は今あまりよくないし、人口も減少している。台湾にある有力な企業は限られているし、そこにある魅力的なポジションも限られているから、先が見えないと感じて若者の多くが海外に出て行くよ。台湾国立大学の同級生の6割くらいは、海外で働いていると思う。 これはまずいということで、台湾政府も若者の起業の支援に乗り出していて、海外で経験を積んだ友人が、台湾で起業するために戻るって話はちらほら聞くけど、僕が台湾に戻るのは、もう少し先だね。しばらく海外で経験を積んでからかな。

大山:そういえば昨年Ernestoの実家にお世話になった時に、ErnestoのGSK台湾の同僚の方々と一緒に食事したよね。同僚の方々がみんなアメリカの一流校のMBAホルダーで驚いたよ。台湾でいい仕事を得るのは本当に大変なんだね。

Ernesto:職を得るのが難しいだけじゃなくて、給料も全然違うんだよ。例えばイーライリリーでは、同じ仕事でも上海の給料は台湾の倍くらいになる。もちろん上海の方が生活費が高いから、簡単には比べることはできない。だけど、それもあってか、台湾から出て行く人が多いね。

台湾人は大陸に対して複雑

大山:Ernestoが思う台湾の問題点ってなんだと思う?

Ernesto:政治だね。個人的には台湾の政治は上手くいっているとは思えないし、多くの若者は支持していない。台湾には2つの大きな政党があるんだけど、少子高齢化の影響もあって、この2つの政党は共に若者のことを真剣に考えているとは思えない。互いに人気取りや相手の揚げ足取りばかりしているように見える。政治の混迷が、台湾経済の悪化を招いて、結果若者がどんどん海外に出ていっているように思うよ。

大山:台湾に行ってみて、日本と同じで、中国に対してネガティブな印象を持っている人が多いなと感じたよ。Ernesto がCEIBSに行くと決めた時に、周りの反応はどうだった?

Ernesto:多くの台湾人は中国のことを正しく理解していないし、しようともしていないから、一部の人からはどうして中国に行くの?って聞かれたよ。だけど、うちの母親はオープンマインドな人だから何も言わなかった。中国にチャンスがあるのは、誰の目から見ても明らかだからね。

大山:なるほどね。
話をキャリアに戻すと、最終的にイーライリリーとサムスンでサムスンを選んだ決め手はなんだったの?Ernestoは韓国語はしゃべれないよね?

Ernesto:韓国語は全くしゃべれない。これから勉強しなきゃいけないね(笑)。 実は、このサムスンのリーダーシッププログラムに今までCEIBSの卒業生が合格したことはないし、このポジションの台湾人も初めてなんだ。それに僕はCEIBSに来た当初の目的は中国でのキャリアアップであって、韓国なんて思ってもいなかった。だけど、最もチャレンジングだと感じたんだ。二番目は、待遇だね。給料含め、本当に破格のオファーをもらったんだ。おまけにサムスンは妻も雇うっていってきたんだ(笑)。

大山:それだけErnestoに来て欲しかったんだね。じゃあ奥さんもサムソンで働くの?

台湾人は日本人と家庭観が近い

Ernesto:いや、妻にはまずはゆっくりしてもらおうと思っているよ。僕がMBAに通っている間、慣れない上海でずっと働いて支えてくれたし。韓国でゆっくり何か勉強でもしたらいいんじゃないかな。子作りもしたいしね。

大山:台湾人女性の仕事に対する価値観って、中国人女性と似ているのかな?

Ernesto:いや、中国人女性とはちょっと違うかもしれない。むしろ日本に近いかな。未だに専業主婦の割合が高いしね。最近は、共働き家庭が増えたけど、それは単純に生活費を賄うのに一人の稼ぎでは難しいからっていうのが大きな理由かな。

大山:なるほどね。日本とシチュエーションが似ているね。Ernestoも子供が生まれたら、奥さんには家に入って欲しいの?

Ernesto:個人的には、お互い独立して働き続けた方がいいかなと思っているよ。お金のためというよりは、内の世界に入っちゃうと、ストレスが溜まった時に全部僕に来そうだしね(笑)。

大山:Ernestoの夢は?

Ernesto:世界中の国々を旅することだね。妻もメジャーではない国を旅するのが好きなんだ。そして、世界中に友達がほしいね。

キャリアのために父の最期を看とれなかった後悔

大山:輝かしいキャリアだけど、Ernestoは人生で失敗したことってある?

Ernesto:失敗かどうかわからないんだけど、ふたつあるよ。ひとつは、GSKの台湾での成果が認められて、本社のロンドンで働くことになって、キャリアとしては順調だったんだけど、そのために父親が亡くなった時に立ち会えなかったことだね。これは本当に難しい選択だったんだけど、キャリアを優先して台湾に帰国しなかったことを後悔していないと言えば嘘になるね。

大山:もうひとつは?

Ernesto:もうひとつは、大学受験の時だね。最初に入った大学は、台湾にある国立清華大学で、もちろんトップスクールだったんだけど、ほとんど学校にも行かずにゲームばかりして遊んでたんだ(笑)。本当に時間の無駄をしたよ。それに気づいた時、これではいけないと思って、国立台湾大学に入り直したんだ。だから、同級生よりも1歳年をとっていたんだけど、今思えば、あの経験は無駄じゃなかったかなって思うよ。あの時1年間遠回りしたことで、今後は同じような失敗や時間を無駄にしたりすることは絶対にしないと思う。仕事にしても、仕事場で愚痴を言ってる同期とかを見ていると、彼らより忍耐力があるのはあの経験があったからじゃないかなと思う。

大山:Ernestoでもゲームに夢中になってた時期があったんだね(笑)。 たしかに、Ernestoが弱気になったり、ネガティブな発言をしているのを見たことがないよ。どんな状況でも常にポジティブに打開策を探しているよね。
今日は本当にありがとう!


Hirotaka Oyama

投稿者について

Hirotaka Oyama: <プロフィール> 1986年東京生まれ。私立武蔵高校、早稲田大学理工学部卒。大学在学中は体育会ラクロス部に所属。 2010年株式会社商船三井入社。関連会社出向、本社経営企画部を経て2016年8月より、上海にあるChina Europe International Business School (CEIBS)に現在会社からの派遣でMBA留学中。 ブログ: CEIBS MBA日記