<第13話>手堅くオールマイティに、自分に向いていることを探して。

<筆者プロフィール>

大山廣貴:
1986年東京生まれ。私立武蔵高校、早稲田大学理工学部卒。大学在学中は体育会ラクロス部に所属。 2010年株式会社商船三井入社。関連会社出向、本社経営企画部を経て2016年8月より、上海にあるChina Europe International Business School (CEIBS)に現在会社からの派遣でMBA留学中。

ブログ: CEIBS MBA日記 (http://ceibs2018.hatenablog.com)

<紹介文>

第1、2回では、大山さんがなぜ会社の制度がない中で、社費留学制度を作ってまで、中国MBAに行きたかったのか。第3回では、なぜ中国人エリートの働き方に興味をもったのか。第4回以降は、中国人同級生の取材を通してこれからの中国人エリートの働き方にせまります。

 

 

<第13話>手堅くオールマイティに、自分に向いていることを探して。

中国人同級生Caroline Zhu:
1988年上海生まれ、上海育ち。上海交通大学経済学部卒業後、IMI plc(イギリスに本拠を置く国際的なエンジニアリング企業)に幹部候補生として( リーダーシップ・プログラム)入社し、マーケティングのプロフェッショナルとしての道を歩む。MBA在学中に結婚、出産を経験。趣味は剣道で、日本語も堪能(日本語検定1級取得済み)。

大山:お子さんが生まれたばかりなんだよね?

Caroline:今年の1月に出産したよ。だからまだ数時間おきに授乳しているよ。今日も赤ん坊が寝ている隙をみての外出だよ(笑)
 
大山:うわーそんな忙しいなか、ありがとう!

Caroline:今は母が家に来てくれているから大丈夫だよ。子育ては大変だけど、それ以上に赤ん坊が可愛いから子育てはとても楽しいよ。

大山:Carolineは上海人なんだっけ?

Caroline:生まれも育ちも上海だよ。上海の中流家庭で育って、大学は上海交通大学に進学して、マーケティングのIMI plc(旧社名:インペリアル・メタル・インダストリーズ。イギリスに本拠を置く国際的なエンジニアリング企業)に入社したの。そこでのリーダーシップ・プログラムでいろいろな経験をさせてもらったよ。マーケティングやスウェーデンオフィス(セフレ:人口9000人程の都市)勤務のあと、 上海でマーケティングマネージャー働いた。そのとき、もっと広い世界を見てみたいと思ってCEIBSに入学することにしたよ。

大山:スウェーデンは僕も昨年行ったけど、自然が豊かでとてもよい場所だよね。

Caroline:スウェーデンでの生活は私の価値観にとても影響を与えたね。彼らはとてもワークライフバランスを重視する生活だね。例えば彼らは必ず午前と午後に毎回15分位のティータイムをとるし、遅くまで残業することもない。1つの会社に比較的長く勤めるしね。休日は大自然の中にある、同僚の家でパーティをしたりして、こういう生活を本当に豊かな生活っていうんだろうなって思ったよ。老後はこんな生活をしてみたいね。後は、上海に実家があったから、大学で寮に入っている時も週末は頻繁に実家に帰ったりしていたから、親元から完全に離れての生活も初めてで、自由を謳歌したね(笑)

大山:日本人も一つの会社に長く勤めるけど、中国人は頻繁に転職を繰り返すものね。

Caroline:日本やスウェーデンのような先進国は、急激な物価上昇もないだろうしね。だけど中国の場合は、知っての通り、毎年物価もとても上がるから、常に自分を高めていないと不安になるんだよ。だからよりよいオファーを求めて転職するんだと思うな。

大山:スウェーデンに行ったのは自分の意志で?

Caroline:実は、途中で担当の人事が辞めてしまって、自分で自分の求めている部署を探して直接担当部門とコンタクトをとって面接を受けたんだよ。リーダーシップ・プログラムの3年間の間に私はトップの成績を収めることができて、上海に戻ると最速でマネージャーに昇進することができたんだ。スウェーデンオフィスからもオファーをもらっていたんだけど、マネージャーにも昇進できるし、やりたいことができる上海の部署からオファーをもらったから、戻ることにしたんだ。

14歳から日本語を学ぶ

大山:Carolineは日本語がとても上手だけど、日本に留学したことはないんだよね?いつから日本語の勉強を始めたの?

Caroline:日本語の勉強を始めたのは、14歳の頃かな。実は、10歳くらいの頃に、親から、あなたの将来なりたい、憧れの人物は誰?って聞かれたことがあって、その質問がずっと頭の中に残っていて、14歳くらいのころに、周恩来(中国の政治家(1898-1976))のようになりたいって思ったんだ。知っているかな周恩来は8カ国語しゃべることができたんだ。だから私も何か言語を習得したいと思ったんだよ。

大山:数ある言語の中から日本語を選んだ理由は?

Caroline:実は最初はフランス語を選ぼうとしていたんだ。だけど、母がフランス語は英語と通じるものがあるから、14歳のその当時の私の英語は、まだまだ不完全だったから、まずは英語をマスターしてからフランス語を学ぶようアドバイスくれたんだ。

大山:なるほどね。だけどそれから地道にコツコツ勉強を続けたのはすごいよ。

Caroline:週1回くらい日本語の塾に通って勉強したよ。地道に続けられたのは、母の教育方針のお陰だと思う。彼女は物事に取り組む姿勢とかは厳しい人で、私が日本語を勉強する時も最後までやりきるならば、応援すると言ってくれて、私はその約束が常に頭の中にあったんだ。

大山:それを忠実に守って、やりきるのはやっぱり凄いね。CarolineはMBA期間中に出産したけど、結婚したのもMBA期間中だったよね?

MBA在学中に出産

Caroline:彼と結婚したのは、去年の5月だね。出産が今年の1月だったから、本当にこんなに早く事が進む(子供が生まれる)とは思ってなくて予想外だったんだよ(笑)。 だけど、子供を生むタイミングについてはずっと考えてはいて、一度就職してしまったら、しばらく仕事に慣れるのに時間がかかるだろうし、直ぐに子供を生むか、しばらくしてから生むかのどっちかだろうなとは思っていたから、私はすぐに生みたかったとは思っていたけど、まさかこんなに早いとはね。

大山:旦那さんとはどこで知り合ったの?付き合っている時に一緒に日本に旅行に行っていたのを覚えているから、日本語学校とか?

Caroline:実は通っている上海の剣道道場で知り合ったんだ。彼は私より、1年遅く入ってきたから私のほうが上手だけどね(笑)。 最初は全然意識していなかったけど、剣道のレッスンでランダムに組まれるグループが一緒になったりして、気づけばつき合うようになっていたね。

大山:剣道を始めたのはどうして?

Caroline:日本語を勉強して、日本の文化に興味をもったんだ。だから高校時代は空手も習っていたし、剣道もずっとやりたいと思っていたんだけど、道具を揃えるのにお金が必要だから、高校、大学ではできなくて、社会人になってからようやくできるようになったの。名前は忘れちゃったんだけど、女子が主人公の剣道のマンガを昔読んだことがあって、それが剣道に興味を持ったきっかけだったと思う。今でも日本のドラマはよく観るけど、大学時代は時間もあったから日本のドラマをよく観たね。剣道を始めてから、自分に見つめ合って、自分の弱みを知って、その弱みにどう付き合っていくかとかを考える時間が増えて、自分の人生を豊かにするのに本当に素晴らしいスポーツだと思うよ。

大山:旦那さんが剣道を始めたきっかけは?

Caroline:彼は10代の時にとても日本の文化に影響を受けたみたいなんだ、更に映画「ラストサムライ」を観て感動したらしい。そして、スペインに留学している時に、自分の内面を知って、自分のメンタルのバランスを保つ重要性に気づいて、剣道に興味をもったみたいなんだ。

大山:なるほどね、僕も剣道始めようかな(笑)。 旦那さんも日本語を喋れるの?

Caroline:いや、彼は日本語は喋れないんだ、だけどスペイン語は喋れるよ。 彼は浙江省玉環市(浙江省は人口5500万人程の省で、東は東シナ海に面している、玉環市は人口40万人程の市)の出身で高校から上海にいるんだけど、大学時代にスペイン語を習っていて、大学院はマドリード(スペイン)にあるIEビジネススクールに通っていたんだよ。

大山:とてもグローバルなカップルだね。そんなグローバルだったらやっぱり子どももグローバルに育てたい?

Caroline:私達は中国の教育は悪くないと思っているから、これはあくまで今持っている理想だけど、高校までは中国で、大学からアメリカの大学に進んで欲しいかな。

大山:Carolineにとって理想の夫婦ってどんな夫婦?

Caroline:これからお互いいろいろなことがあるだろうけど、どんなことがあってもいつでもお互いを信頼している関係かな。

大山:なるほどね。Carolineは旦那さんから影響を受けたこととかってある?

Caroline:彼はどんな小さなことでも、お祝いをしようとするんだ。私にはその習慣はなかったんだけど、彼と出会って、実際にこまめにお祝いすると記憶にも残るし、とても良い習慣だなと思った。だから今では私も小さなことでもマメにお祝いするようにしているよ。

大山:Carolineは自身のキャリアについては今後どう思っている?

まだ確信ができない、自分に向いていること

Caroline:マーケティングが自分のやりたいことかなと思ってはいるんだけど、まだ確信できていないから、外資系企業のリーダーシップ・プログラムがある会社でいろんな仕事をしたいと思っているよ。
実は、もうすでにヘッドハンターと会っていて、子育ての合間に面接も受けているよ。

大山:日本企業はどうでしょう?(笑)

Caroline:日本の文化とか精神的なものはとても興味あるんだけど、日本企業はちょっと私には向かないと思ってる(笑)

大山:子育てしながら就職活動もしているということだったけど、それはやっぱりお母さんのサポートがあってこそだね。

Caroline:この時期の子育てはタフだと思うけど、うちの母は、最近退職したばかりで、こないだまで働いていたから、その生活との比較で、子育てを楽しんで協力してくれているよ。友人の中には、夫婦それぞれの両親が交代交代で子供の面倒を観てくれるケースもあるけど、彼の実家は浙江省で遠くてそういうわけにはいかないから、どうしても私の母に頼ることになるね。だけど彼女に過度に負担がかからないようにはするつもりだよ。

大山:Carolineは今までの人生で失敗ってしたことある?

Caroline: 私は試験とか、様々なことに用意周到に準備するタイプで、試験とか面接とかほとんど失敗したことはないんだけど、唯一の失敗は高校時代に日本語検定の1級を取れなかったことかな。それから大学受験があったから、一時日本語検定の勉強は中断したけど、大学に入ってから母と最後までやりきるって約束していたから、ちゃんと日本語検定1級を取ったよ。

大山:日本語検定1級って1番難しいテストだよね、さすがだね。

Caroline:あとはこれは失敗かどうかはわからないんだけど、私はリスクを取る選択をしない傾向にあると自分では思ってるんだ。例えば、大学受験にしたって、例えば香港に行くっていう選択肢もあったけど、より確実に入れるいい大学を選んだり。転職もそうだね。私はIMIで働いている時に他に移る選択もあったけど、留まったからね。もちろん私の長所でもあるんだけどね。

大山:上海交通大学だって、中国のトップの大学で十分すごいと思うけど……。Caroline、今日はお忙しいなか本当にありがとう。


Hirotaka Oyama

投稿者について

Hirotaka Oyama: <プロフィール> 1986年東京生まれ。私立武蔵高校、早稲田大学理工学部卒。大学在学中は体育会ラクロス部に所属。 2010年株式会社商船三井入社。関連会社出向、本社経営企画部を経て2016年8月より、上海にあるChina Europe International Business School (CEIBS)に現在会社からの派遣でMBA留学中。 ブログ: CEIBS MBA日記