<第6話>ファミリービジネスは映画製作。自立して、喜ばれる仕事を

<筆者プロフィール>

大山廣貴:
1986年東京生まれ。私立武蔵高校、早稲田大学理工学部卒。大学在学中は体育会ラクロス部に所属。 2010年株式会社商船三井入社。関連会社出向、本社経営企画部を経て2016年8月より、上海にあるChina Europe International Business School (CEIBS)に現在会社からの派遣でMBA留学中。

ブログ: CEIBS MBA日記 (http://ceibs2018.hatenablog.com)

<紹介文>

第1、2回では、大山さんがなぜ会社の制度がない中で、社費留学制度を作ってまで、中国MBAに行きたかったのか。第3回では、なぜ中国人エリートの働き方に興味をもったのか。第4回以降は、中国人同級生の取材を通してこれからの中国人エリートの働き方にせまります。

 

 

<第6話>ファミリービジネスは映画製作。自立して、喜ばれる仕事を

中国人同級生 Duan Josephine:
アメリカ国籍。1990年シアトル生まれ、3歳までシアトルで過ごす。その後中国に移り、15歳まで上海で過ごした後、高校から大学卒業まで再びアメリカへ。エモリー大学では認知心理、言語学を学び、卒業時には最優秀卒業生に与えられるSumma Cum Laudeを受賞。全米各大学の優秀学生のみ入ることの出来るPhi Beta Kappaのメンバーでもある。大学卒業後、日本の楽天に就職。3年間働いた後、CEIBSに入学。今はPLACE MAKER社にて、ドラマ・映画制作に携わっている。

面接は英語。楽天で国内営業3年

大山: このキレイなオフィスタワーに今Josephineが働いている会社が入っているの?

Josephine:そうだね。CEIBSでの卒業単位はクリアしたから、今はフルタイムで働いている。実は、ファミリー・ビジネスなんだけどね。

大山:仕事の話は後半に聞くとして、まずはJosephineの生い立ちについて教えてよ。両親は中国人なんだよね?

Josephine:うん中国人の両親の元に生まれたよ。だけど生まれたのはアメリカのシアトル。3歳までシアトルで過ごした後に、上海にやってきて、中学校卒業する15歳まで上海で過ごして、そのあとまた、高校進学のためにシアトルに戻ってきたんだ。

大山:なるほどね。ご両親の仕事は何をやっているの?

Josephine:両親は二人共弁護士だよ。父親はアメリカの大学を卒業して、アメリカで働いていたんだ。
大山:わお、ご両親もエリートなんだ。そして、Josephineはエモリー大学(米国ジョージア州)を卒業した後に日本にやってきたんだよね?

Josephine:そう大学を卒業して、もともと日本に興味があって、日本語を勉強していたこともあって、日本に行くことにして、楽天に就職したんだ。

大山:なんでまたいろいろな選択肢の中で、日本を、そして楽天を選んだの?

Josephine:アメリカの会社に就職したら一つの専門職について、それをずっとやらなきゃいけない。だけど、日本の会社にはジョブローテーション制度があるって聞いたんだ。まだ自分のやりたいことが何かわからなかったし、いろいろな仕事ができる日本の会社の方があっていると思ったんだ。ちょうどその時、楽天で働いていた人が大学に来て、話を聞く機会があって、その人がとても魅力的だった。楽天はその時初めて知ったけど、受けてみることにしたんだ。

大山:面接は日本語でやったの?

Josephine:面接は英語でやったよ。その時の私の日本語はまだまだ全然上手ではなかったからね。面接をしてくれた楽天の人達は、とても英語が上手だったよ。何人かはアメリカの大学を卒業していたみたい。そして面接してくれた人達もとても魅力的だった。だから楽天で働くことを決めたんだ。

大山:楽天での仕事は何をしていたの?

Josephine:それが、なんとドメスティックな国内営業だったんだよ。そしてそのチームに女性は自分ひとりだけだった。

大山:えっ日本語できなかったのに?

Josephine:本当にユニークな経験だったよ。てっきりインターナショナルな仕事をするのかと思っていたから。でもその時のチームメンバーが本当に素晴らしくて、仕事が終わった後につきっきりで、日本語含めて、仕事について教えてくれて、それで一気に成長することができた。チームメンバーには本当に感謝しているよ。

大山:もちろん教える方もすごいと思うし、そういう逆境を乗り越えるJosephineはやっぱりスゴいね。毎日夜10時くらいまでは日本語の勉強をしていたの?

Josephine:もともとチャレンジしたりすることが好きだからね。夜10時に終わったら大分早い方だね(笑)
大山:アメリカ、中国、日本と経験したわけだけど、どの国が一番好き?(笑)

Josephine:難しいけど、住むなら中国か日本かな。アメリカは地域によって全然特徴が違うから、本当にどこに住むかによると思う。シアトルはとても良い場所だったけどね。

大山:なるほど、そういえば旦那さんとも楽天で知り合ったんだよね?

Josephine:そうなんだよ。インターナショナル採用は秋に一斉に入社するんだけど、その中の一人で、同期にあたるね。やっている仕事は全く別で、彼はデータアナリストをしていたよ。彼は韓国人で、 韓国の大学を出た後にシンガポールへの留学を経て、楽天に入社したんだ。

大山:彼もJosephineみたいに日本語上手なの?

Josephine:それが彼の方が日本語上手なんだよ。私の日本語は英語交じりだと彼からよく言われる(笑)。彼は日本に来てから日本語の勉強を始めたんだけど、ものすごいスピードで成長して、彼曰く韓国語と日本語は近いから簡単だって言っているんだけど……

大山:もちろん相当努力もされたんだろうね。旦那さんは韓国人、Josephineはアメリカ人だけど国際結婚で何か難しいことはある?

Josephine:今のところ、難しさを感じたことはないかな。彼の両親ともとても仲良くしていて、年に2回くらいは韓国の彼の実家に行くようにしているよ。これから子どもができた時に難しさが出てくるかもしれないけどね。
大山:話をしていてもJosephineが楽天のことが好きで、楽天での経験が素晴らしいものだったということがヒシヒシと伝わってくるんだけど、旦那さんも楽天に対しては同じような気持ちなのかな?

Josephine:彼の所属していたチームもファミリーのような本当に良い雰囲気のチームで、彼も私同様かそれ以上に楽天が大好きだよ。もちろん運良く、素晴らしいメンバーに恵まれたというのはあると思うけどね。

ファミリービジネスに生かすため、MBAへ

大山:そんな大好きな楽天を三年で離れるんだよね?何かきっかけはあったの?

Josephine:日本に行く時に父親と3年したら中国に戻ってきて、ファミリー・ビジネスを手伝う約束をしていたんだ。それで、3年経って、ファミリー・ビジネスを継ぐにしても私にはまだ全然経営の知識が足りないから、まずはMBAに行こうと思ったんだ。CEIBSを選んだのは父親がとても熱心にCEIBSを勧めてきたのがきっかけかな。中国でMBAだったら絶対にCEIBSが良いって。結局、私もCEIBSを気に入って、他の学校は受けなかったよ。

大山:ご両親は弁護士だし、ファミリー・ビジネスは法律関係の仕事?

Josephine:いや、ドラマとか映画とかを制作しているメディア関係の会社。父親は弁護士なんだけど、もともと脚本とかとても興味があって、いつか自分の作品を作りたいとずっと思っていたみたいで、今は自分の夢を実現している。映画もドラマも彼が脚本を書いているよ。今年ドラマをリリースして、今は丁度映画の制作のまっ最中。20人程の小さな会社だから、同時に複数のことはできなくて、今は映画に集中しているよ。

大山:その中でJosephineの役割は?

Josephine:今の自分の役割は表現するのはとても難しい。20人しかいないから明確なジョブディスクリプションがある訳ではないし、映画の撮影も会社として初めてだし、何でもやっているよ。映画の宣伝はもちろんのこと、今度日本人のカメラマンを雇うんだけど、そういう人のリクルーティングとかまでやっているね。

CEIBSでいちばんよかったのは、組織運営の授業

大山:Josephineの経歴ってピカピカだけど、挫折した経験とかってある?

Josephine:去年8月にCEIBSに入学するまでの間、半年間今の会社で働いたんだ。その時に、この業界の知識も経験も全くないのに、一方でファミリー・ビジネスということで、役職だけはベテランの従業員の人達よりも上になって、プレッシャーからくる焦りでとても大変だったよ。

大山:なるほどファミリー・ビジネスには必ずある問題かもしれないね。

Josephine:結局今になって思うと、勝手に自分で自分を追い込んでしまっていたんだと思う。会社のメンバーはとても良いメンバーばかりで、何でも教えてくれるし。当時は知識はないけど、役職は上だから誰にも相談できないと勝手に思い込んでいたんだ。

大山:Josephineの中で、CEIBSの授業で一番役に立った授業は何?

Josephine:Organizational Behaviorの授業が、とっても役に立っているよ。こんな組織のマネージの仕方があるのか、組織運営における引き出しが増えたね。後は、ケーススタディを通じて、世界中皆自分と同じようなことに悩んでいることがわかって、自分だけじゃないって少し安心したかな。

大山:旦那さんも今の会社で働いているんだよね?上海に行くと言った時に、彼の反応はどうだった?

Josephine:彼の反応はとてもポジティブだったよ。上海は素晴らしい場所だし、ビジネスチャンスがまだまだある場所だからね。

夫は韓国人。お互い自立して好きな仕事をしていきたい

大山:Josephineはどうするの?一緒に日本に行くの?

Josephine:彼が正式に日本で職を見つけて、日本に行くことになったら私もついていくよ。幸い、今やっているメディアの仕事はフレキシブルで、遠隔にいてもできることはあるし、日本マーケットの開拓もできるし、ポジティブに捉えているよ。
大山: 全ての変化をポジティブにもっていけるのは、やっぱりすごいなぁ。Josephineにとって理想の家族像とか、夫婦像ってどういうもの?

Josephine:やっぱり自分の両親みたいに、きちんと二人共自立して、好きなことを仕事にして楽しんでいる夫婦かな。自分もそうなるんだと思う。

大山:まだ先のことはわからないとは思うけど、子どもを持ったらしようとか、どうキャリアを両立させるかとか、現時点で考えはある?

Josephine:現時点では本当にノープランなんだけど、私は大学で心理学を学んで、生まれてから最初の2年が子どもに与える影響がとても大きいということを学んだから、子どもが生まれたら2年間は仕事をセーブして子育てに専念したいなとも今少し思っているよ。CEIBSの子育てしている女子同級生たちは、みんな本当にたくましくて、尊敬しているよ。

大山:日本も頑張って女性の社会進出の後押しとかをしているけど、中国との違いは何だと思う?

Josephine:やっぱり一番大きいのは、家族のあり方の違いだと思うよ。中国では、親が孫の面倒をみて、自分たちは働くというのが一般的な形として染み込んでいるからね。日本に住んで思ったのは、日本の方が家族のメンバーがより独立しているかな。私の母親は、普通の中国人と違うから、子供の面倒をみてくれるかどうなるか心配だけど(笑)。あと、このあいだ会社に産休から復帰した女性がいたんだけど、彼女になんで復帰したのか聞いたら、 社会につながっていないと不安だから、母親に子供の面倒を任せて仕事に復帰したとも言っていた。働いてる方が子育てよりよっぽど楽だとも言っていたよ(笑)。

大山:Josephineの将来の夢は?

Josephine :今の会社を大きくして、メディア業界を代表するような企業に育てる!みたいな野望はないんだ(笑)。今は両親をサポートしているけど、誰かをサポートして、誰かが喜んでくれたら、私はそれで十分。みんなが喜んでくれるようなことを、これからも続けていきたい。
大山:応援しています。今日は忙しいところ、ありがとう!


Hirotaka Oyama

投稿者について

Hirotaka Oyama: <プロフィール> 1986年東京生まれ。私立武蔵高校、早稲田大学理工学部卒。大学在学中は体育会ラクロス部に所属。 2010年株式会社商船三井入社。関連会社出向、本社経営企画部を経て2016年8月より、上海にあるChina Europe International Business School (CEIBS)に現在会社からの派遣でMBA留学中。 ブログ: CEIBS MBA日記