<第10話>キャリア女子の王道、仕事と子どもとMBA

<筆者プロフィール>

大山廣貴:
1986年東京生まれ。私立武蔵高校、早稲田大学理工学部卒。大学在学中は体育会ラクロス部に所属。 2010年株式会社商船三井入社。関連会社出向、本社経営企画部を経て2016年8月より、上海にあるChina Europe International Business School (CEIBS)に現在会社からの派遣でMBA留学中。

ブログ: CEIBS MBA日記 (http://ceibs2018.hatenablog.com)

<紹介文>

第1、2回では、大山さんがなぜ会社の制度がない中で、社費留学制度を作ってまで、中国MBAに行きたかったのか。第3回では、なぜ中国人エリートの働き方に興味をもったのか。第4回以降は、中国人同級生の取材を通してこれからの中国人エリートの働き方にせまります。

 

 

<第10話>キャリア女子の王道、仕事と子どもとMBA

中国人同級生Andrea Zhang:
1987年河南省洛陽市生まれ、高校から上海に移り、复旦大学にて会計学を学ぶ。卒業後、PwCへの勤務を経てCEIBS入学。趣味はスペイン語の勉強、水彩画、スキューバーダイビング等。

バルセロナ留学は、2歳の娘と母連れ、女3代で

大山:バルセロナのIESEに交換留学に行って以来だね。お久しぶりです。バルセロナにCEIBSから交換留学に行った中で、Andreaは唯一スペイン語をしっかり勉強していたけど、今も継続してる?

Andrea:2歳の娘が、上海に帰ってきてからもう3回くらい風邪を引いてしまったよ。今年は上海はとても寒いからね。スペイン語の勉強は続けているよ。私の趣味だね。スペイン語の勉強と水彩画が私の趣味なんだ。自分の時間ができた時にこれらをやると心が落ち着くし、最高に贅沢な時間だね。

大山:すごいなぁ。みんな仕事以外にもしっかりとリフレッシュできる趣味を持っているよね。それにしても交換留学に娘さんとお母さんを連れて行ったのにはびっくりしたよ。旦那さんはその間上海で働いていたんだよね?

Andrea:そうかな?娘にとっても、母にとってもとてもいい機会だと思ったからね。IESEは授業もハードにあったから、娘を連れて行く場合は、娘の面倒をみてくれる母は絶対必要だったね。夫はその間はもちろん上海で働いていたよ(笑)私の場合は、高校からずっと地元を離れて、両親と離れ離れで育ったから、バルセロナで母親と過ごした3ヶ月はとても貴重な時間で、母親との関係もよくなったよ。ただ、知っていると思うけど、中国人が欧州の旅行ビザをとるのはたいへん。娘と母のビザ取得に2ヶ月以上かかって、本当に一緒に来れるかは直前までわからなくて、ドキドキしてたよ。

大山:Andreaって大学も上海で、上海人っていう印象があるんだけど、ずっと上海で生まれ育ったわけじゃないんだね?

高校から選抜で上海の高校へ

Andrea:私の生まれ故郷は洛陽市(河南省の中の人口600万人程の都市、人口の9割以上は漢族)という場所で、そこで中学生まで育ったんだ。たまたま中学を卒業した時に、上海の学生の人口が少ないということで、上海市と洛陽市のプログラムで洛陽市の成績優秀な学生が上海市に移り住んで、上海の高校に進めるというプログラムがあって。それに応募して運よく採用されたんだよ。

大山:いやいや、それは運じゃなくて、間違いなくAndreaがめちゃくちゃ優秀だったからだよね(笑)中国人が他の市に移るのは大変なことだもんね。それから、上海の名門、复旦大学に進むんだよね?絵に描いたようなサクセスストーリーだ(笑)

Andrea:ほんとに運がよかったんだよ。たまたま私が応募した時は、まだそのプロジェクトの二期生で、応募者もそこまで多くなかったからね。翌年以降は、プロジェクトの認知度も上がって、グンと応募者も増えたと聞いているよ。

大山:复旦大学での専攻は会計学だよね?中国ではほんとに多くの優秀な学生が会計学の分野に進む印象があるよ。

Andrea:生物学とかも興味があったんだけど、生物学だったらアメリカの大学じゃないとだめだという周りの人の勧めもあって、会計学に進んだよ。そうだね。今はまた流行りの学科が変わっていると思うけど、私が高校生の時は、優秀な学生は、ファイナンスや会計学の学科に進んでいたよ。

大山:CEIBSの授業で教授も言っていたけど、当時は監査法人とかの給料がよくて、監査法人で働くことが社会人としての成功のモデルケースだったと聞いたよ。もちろん今はBAT(バイドゥ・アリババ・テンセントの中国の3大インターネット企業の総称)が出てきて、その時とは状況が全然違うのは明らかだけど。旦那さんとは大学で知り合ったの?

Andrea:夫は、复旦大学の同級生だよ。彼はIT系の学部に進んだ後に、ファイナンスの道に進みたくて、香港に留学して、ファイナンスを学んで、今は上海の投資銀行で働いているよ。出張も多くて、とても忙しそうだけど、彼は、今の仕事をエンジョイしているよ。

大山:Andreaは复旦卒業後PwCで働いていたんだよね?当時の中国人のキャリアとしては、これまた王道中の王道だと思うんだけど、AndreaはなんでPwCでのキャリアを捨ててCEIBSにMBA留学しようと思ったの?

キャリアチェンジのためにMBAへ

Andrea:一番の目的は、キャリアチェンジだね。これは自分の人生を懸けて、やりたいことじゃないかもしれないってPwCで働きながら思ったんだ。もちろんうちの両親は、一昔前の典型的な中国人で、私のPwCでのキャリアを誇りに思っていたから、反対されたけどね。今はちょうど就職活動中だけど、事業会社とか幅広くみているよ。二番目の理由は、いろんなバックグラウンドの人達にあって視野を広げたかったことだね。あなたみたいに面白い人がいっぱいいて来てほんとうによかったよ。

大山:MBAに行く決断をした時の旦那さんのリアクションはどうだった?

Andrea:私達は基本的に互いの決断はリスペクトしていて、応援しているから、夫はとても応援してくれたよ。彼はどうせだったらアメリカのMBAスクールも検討したらってアドバイスくれたんだ。彼がもし私の立場だったらということで、アドバイスをくれたんだけど、実は私たちは、大学卒業して一度別れていた期間があって、復縁してからまだそこまで時間が経っていなかったから、私としては、離れ離れで住むのは嫌だったんだ。これは男女の考え方の違いでもあるかもしれないね(笑)結局、MBAはCEIBSしか受けなかったよ。

中国の転職市場では、女性は子どもがいることが有利

大山:なるほどね。Andreaは娘さんがまだ2歳ということだけど、子育てとMBA生活の両立と大変だった?

Andrea:私はほんとうは、1年早く入学する予定だったんだ。それが入学前に、妊娠がわかって入学を1年遅らせたんだ。子育てとMBAの両立は、家族の支えがなかったらできなかったね。うちの場合は母親が助けてくれている。実は、MBAをとり終える前に子どもが欲しいっていうのはずっと考えていたことなんだ。

大山:ええ?ただでさえMBAはたいへんなのに、どうして?

Andrea:海外では考えられないことだと思うけど、中国では、女性の採用の際に、結婚していて子どもがいないと、採用に不利に働くことがある。せっかく採用しても産休に入っちゃう可能性があるからね。それに私の両親は古典的な中国人だから、結婚したらいつ子ども産むんだってずっとプレッシャーをかけてきていたからね(笑)いまうちの母親は、一人の子どもを育てる大変さを身にしみて感じているから、二人目を産みなさいっていうプレッシャーはなくなったね(笑)

厳しかった父、今は感謝

大山:Andreaの両親はどんな方々なの?

Andrea:二人とも、古典的な中国人だよ。父は地元で医者を、母は小学校で先生をしている。母はとてもオープンマインドで、それこそバルセロナにもついてきちゃう感じだね。父は、それとは対象的に、堅物な人で、バルセロナはもとより、上海にもめったにこないよ。もちろん医者という職業柄、責任感がとても強いというのもあるんだけど、私には彼がたまに理解できないことがある。それでもとても感謝していて。

大山:それはどんなこと?
Andrea:私が高校で上海にやってきた時に、今までとは違う言葉、環境に耐えきれなくてなって上海にやってきて2週間で両親に泣きながら電話したんだよ。私は地元に帰りたい。私はここにいるべきではないって。その時に父だけは、きっぱりと上海に残るべきと言って、聞いてくれなかった。その時、私は父のことが本当に嫌いになったけど、今になって思うと、本当にあの時の父の助言には感謝しているし、正しかったと思う。地元に戻っていたら今の私はないからね。多分复旦大学にもCEIBSにも来ていないと思う。今でも彼の考えや感情を理解するのは簡単ではないけど、本当に両親には感謝しているし、愛しているよ。

野心はそれほどないけど着実にステップアップしたい

大山:子育てについて、小さい頃からインターナショナルスクールに通わせて、海外の高校、大学に行かせる親が増えているけど、Andreaはどう考えている?
Andrea:今のところ、私と夫が受けてきたような、中国式の教育を受けさせようと思っているよ。もちろん娘のやりたいことや、才能に合わせるつもりだし、彼女がやりたいことが見つかれば、それを全力で応援するけど。もし海外の学校とかに娘が行った場合は、私か夫のどちらかがキャリアを中断してついていく可能性が高いから、今はそれは考えていないよ。

大山:Andreaにとって、理想的な夫婦像ってどんなの?

Andrea:お互いの決断をリスクペクトして、応援する今みたいな関係だね。私自身は、他のCEIBSの多くの女子同級生達みたいに、起業して大きな成功を収めたいとか、CFO、CEOに早くなりたいっていうのはないんだけど、着実にステップアップはしていきたいと思っているよ。

大山:Andreaは中国人女子のサクセスストーリーの王道だと思うんだけど、失敗したこととかってあるの?

Andrea:もちろんあるよ。大学受験だね。复旦大学はもちろん素晴らしい大学なんだけど、中高生の頃から私のドリームスクールは清華大学だったんだ。世界中の人々のドリームスクールがハーバードなように、私の中で現実的なドリームスクールは清華大学だったんだけど、結局入ることはできなかった。あとは、私は決められた道を これまで上手く走ってきたけど、実際の社会は違う。これから働く会社が、今まで働いていたようなインターなショルな監査法人みたいな整備された環境じゃなくて自分で何から何までやらなきゃいけないってなった時は、苦労するだろうね。それでもうまくやってしまうかもしれないけど(笑)

大山:Andreaならきっとどこでも成功するよ。今日はほんとうにありがとう!


Hirotaka Oyama

投稿者について

Hirotaka Oyama: <プロフィール> 1986年東京生まれ。私立武蔵高校、早稲田大学理工学部卒。大学在学中は体育会ラクロス部に所属。 2010年株式会社商船三井入社。関連会社出向、本社経営企画部を経て2016年8月より、上海にあるChina Europe International Business School (CEIBS)に現在会社からの派遣でMBA留学中。 ブログ: CEIBS MBA日記