<第7話>明治維新とサブちゃんとひばりを愛するベーカリーオーナー、28才

<筆者プロフィール>

大山廣貴:
1986年東京生まれ。私立武蔵高校、早稲田大学理工学部卒。大学在学中は体育会ラクロス部に所属。 2010年株式会社商船三井入社。関連会社出向、本社経営企画部を経て2016年8月より、上海にあるChina Europe International Business School (CEIBS)に現在会社からの派遣でMBA留学中。

ブログ: CEIBS MBA日記 (http://ceibs2018.hatenablog.com)

<紹介文>

第1、2回では、大山さんがなぜ会社の制度がない中で、社費留学制度を作ってまで、中国MBAに行きたかったのか。第3回では、なぜ中国人エリートの働き方に興味をもったのか。第4回以降は、中国人同級生の取材を通してこれからの中国人エリートの働き方にせまります。

 

 

<第7話>明治維新とサブちゃんとひばりを愛するベーカリーオーナー、28才

中国人同級生 Rolex Shu
1988年、中国浙江省生まれ。高校まで浙江省で育つ。ノッティンガム大学(中国、寧波キャンパス)在籍時に、Enactus(当時はSIFE。次世代のビジネスリーダー育成を目的としたNPO。アメリカ・ミズーリ州本部。世界37ヶ国、1600を超える大学の62000人以上の学生が参加する) の年に一度の大会で、自身の発案した事業で中国国内で優勝、世界大会でも準優勝する。卒業後は、父親の経営する医療・薬局事業の会社に入社し、主にロジスティクスの改善を行う。2015年、ハッピーベーカリー(ベーカリー事業)を起業し、中国国内に現在8店舗、90人程の社員を抱え、年商約1500万元(約2億5千万円)まで成長している。

早稲田に交換留学中、日本でパン職人をスカウトしたい

大山:まさか母校の早稲田大学でロレックスに会えるとは思わなかったよ(笑) 

ロレックス:早稲田大学への交換留学プログラムは来年の2月までで、多分CEIBSの交換留学プログラムの中では、最も長いと思う。このプログラムが終わるまでには日本語をマスターしたい。というわけで、今日のインタビューは日本語で答えてもいいかな?(笑)

大山:もちろんいいよ。ロレックスは日本語はどうやって勉強したの?

ロレックス:中学生の時から日本の歴史にとても興味があって、大河ドラマを観たり、演歌を聞いたりして、日本語を勉強したよ。演歌だね。北島三郎とか美空ひばりが大好きだ。最終的な目標は、戦国時代の読み物、例えば、甲陽軍鑑とか太平記とかを原文で読めるようになることだよ。

大山:なるほど、それでロレックスと日本語でしゃべっていると戦国時代みたいな言葉遣いが散見されるんだね(笑)。ところで日本に興味を持っていた以外に交換留学先を日本にしたのは何か理由があるの?

ロレックス:今ベーカリービジネスをやっているけど、日本はこの業界でかなり進んでいる。だから、日本に来て、良い技術を見つけてそれを持ち帰りたいのと、できたら優秀なコックを見つけられたらと思って日本を選んだよ。実は今日も都内の専門学校にいって、キャリアセンターと話をしてきたよ。そこは10−15%くらいの卒業生が中国人みたいだから、優秀な人がうちに興味をもってくれたらいいね。

大山:さすがロレックス。昔からビジネスに興味があったの?

ロレックス:そうだね。父親がビジネスをやっていたからその影響かな。大学時代は、Enactusでマイクロファイナンス(貧困層向けに小口の資金融資のスキーム)のビジネスを立ち上げて中国国内で優勝、全世界でも2位になることができたよ。

大山:さすがだね。大学卒業後は、お父さんの会社に入ったんだよね?

医者から起業家に転身した父の事業を手伝う

ロレックス:父親は元々医者だったんだけど、今は事業家で浙江省で病院や薬局の経営をしていて、僕は父親のビジネスを手伝うことにしたんだ。とにかくいろいろやったね。倉庫の管理から、薬局の店長まで。

大山: 経営を直に学べているのに、なんでまたMBAにいくことにしたの?

ロレックス:父親の会社で3年位働いたんだけど、浙江省はまだ田舎で、他の大きな都市ではとてつもないスピードで変化が起きている。自分は井の中の蛙じゃないかって、ある時気付いたんだ。それでMBAに行くことを決めたよ。
だけど、MBA受験は本当に苦労したよ。特にGMATは半年間勉強して、4回受けたけど満足行く点数が取れなかった(GMATは年間5回までしか受験できないという制限がある)。ただし、CEIBSでは、特別にCEIBSテストというものをGMATの代わりに用意してくれている(GMATの代わりに、その学校独自の試験を用意していることがある。形式はGMATと同様で、GMATの点数が十分な受験生はGMATの点数を利用する)。だからそれに賭けることにしたんだ。そしたらたまたま、そのテストの読解問題の一つが、中国の歴史に関するものだった。だから高得点を取ることができたんだ。本当にラッキーだったよ。

大山:ロレックスはCEIBSで一番、歴史について詳しいものね。世界史全般とても詳しい、日本史もとても詳しい。恐らく僕含めてほとんどの日本人より日本の歴史に詳しいと思うけど、日本の歴史に興味を持ったきっかけは何だったの?

ロレックス:日本の歴史はとても興味深いね。日本は2回ミラクルを起こしていると思う。1つ目は明治維新。もう1つは戦後復興だね。この2つを知ってから日本の歴史に興味を持って勉強するようになったよ。

ベーカリー経営とMBAの両立はスーパーハード

大山:ベーカリーの経営をしようと思ったのはどうして?

ロレックス:大学時代に公認会計士の勉強をしていて、ベーカリービジネスの利益率の高さを知ったんだ。そして研究していく内に、中国のベーカリーは日本より30年くらい、他のアジア諸国よりも10年以上遅れているのではと思うようになり、ビジネスチャンスがあると思ったんだ。実は個人的な都合で、CEIBSには合格したんだけど、1年間入学が遅れることになった。その1年の間に、時間もあったから起業することにしたんだよ。地元に1号店をオープンして、すぐにビジネスを軌道に乗せることが出来た。

大山:CEIBSの授業が始まってからは大変だったでしょう?

ロレックス:2015年8月にCEIBSに入学してからは本当に大変だった。特に最初の半年は課題がとても多いからね。毎週金曜日の深夜に2時間位運転して、故郷のオフィスに戻って朝2時位までミーティング、翌日の午前中にCEIBSに戻るという生活を毎週続けたよ。

大山:すごい、僕は授業でもいっぱいいっぱいだったのによくそれが続いたね……。

ロレックス:今までの会社の歴史をざっと説明すると、2015年5月に最初の1号店を、2016年1月に2号店を開店させ、それから順調に店舗を増やして、2017年3月に8号店を出店させたよ、全部浙江省内だね。今年は、それ以上拡大させずに、1店舗辺りの収益を増やすことに注力したよ。後、今年大きな工場を作ることを決めて、2017年6月から工事を始めて、今建設中で来月完成予定だよ。銀行への借金返済が大変だよ(笑)。

大山:ロレックスはCEIBSに入学してからも、1年間休学しているよね?

ロレックス:2015年8月にCEIBSに入学して、年末まで頑張ったんだけど、事業が拡大し過ぎて、2016年の1年間は休学することを決めたんだ。その1年間の間に、自分がCEIBSで卒業まで授業を受けている間、事業を任せられる者を育てようと思ったんだ。結果的に、台湾人の良い人が見つかって、競合他社から引き抜いて、今は彼が頑張ってくれているよ。

大山:事業を拡大するプランはあるの?例えば上海に進出とか。

ロレックス:3年以内に40-50店舗まで増やしたいと思っているよ。だけど、上海や北京といった1級都市は、競争が激しすぎて進出する予定はないね。競合の少ない都市を狙って出店するよ。

大山:ロレックスが思う今まで一番大きな失敗ってなに?

ストライキも経験。理想の結婚は自立し合った夫婦

ロレックス:失敗かどうかわからないけど、今年の年初に、従業員にストライキを起こされてしまったことかな。丁度CEIBSに復学したタイミングで、鎮火させるのにとても大変だったね。

大山:その年でストライキされた経験がある人もなかなかいないと思うけど、どうやって鎮火させたの?

ロレックス:全従業員90人位の内、約20人が、ストライキに参加していたんだけど、話をしていく内に、主犯格が数名とそれ以外の大部分は流されたフォロワーということが分かったんだ。主犯格の数名は主張を聞いて、これは辞めてもらった方がいいと判断したんだけど、フォロワーのその他大勢については、特にコック達は戻ってきてもらいたいと思ったんだ。だから、個別に一人一人電話で交渉して、給料を上げる代わりに戻ってきてもらうように一人一人説得していったよ。

大山:ロレックスはまだ独身だけど、理想の夫婦像とか、家族像とかってある?

ロレックス:理想の夫婦は、お互い独立していて、ハードワークな夫婦だね。そしてできたら子どもは3人くらい欲しいね。父親が医者で、僕は頭が悪くて医者にはなれなかったけど、もし優秀な子どもがいたら医者になって父親の設備機器を継いでほしい。その場合は、医療はアメリカが進んでいるから、アメリカに留学もしてほしい。だけど僕みたいに頭がよくなかったら、ビジネスの道に来ると思うから、そうしたら中国以上にチャンスのある国はないと思うから、この国で教育を受けて欲しいかな。

大山:ロレックスも相当優秀だと思うけどね。 ロレックスの夢は何?

ロレックス:ハードワークしている従業員全員がリッチになって、彼らが自分の夢を掴んで幸せになることかな。 

大山:なるほどね。もし将来、従業員が独立したいって言ったらロレックスはどうする?

ロレックス:従業員に辞めると言われたら、まずは今の自分の組織に何かしら問題があるというサインのことが多いから、自分自身の組織を見つめ直すね。その後に、もちろん引き止めるけど、それが従業員の夢であれば、資金援助含めて全力で応援することを誓うよ。

大山:最後に何でロレックスという名前をつけたの?笑

ロレックス:自分の英語名を決める時に、何かシンプルで覚えやすい名前がいいと思ったんだ。それで考えている時に、たまたまロレックスの看板が飛び込んできた。他に同じ名前をつけてる人にあったこともないし、覚えやすい。即決したよ(笑)

大山:さすがロレックス笑 今のところ他にロレックスさんには会ったことないよ(笑)


Hirotaka Oyama

投稿者について

Hirotaka Oyama: <プロフィール> 1986年東京生まれ。私立武蔵高校、早稲田大学理工学部卒。大学在学中は体育会ラクロス部に所属。 2010年株式会社商船三井入社。関連会社出向、本社経営企画部を経て2016年8月より、上海にあるChina Europe International Business School (CEIBS)に現在会社からの派遣でMBA留学中。 ブログ: CEIBS MBA日記