<第9話>いなか町からアメリカへ 「勇敢である」「世界を愛する」「リスペクト」を教えた母

<筆者プロフィール>

大山廣貴:
1986年東京生まれ。私立武蔵高校、早稲田大学理工学部卒。大学在学中は体育会ラクロス部に所属。 2010年株式会社商船三井入社。関連会社出向、本社経営企画部を経て2016年8月より、上海にあるChina Europe International Business School (CEIBS)に現在会社からの派遣でMBA留学中。

ブログ: CEIBS MBA日記 (http://ceibs2018.hatenablog.com)

<紹介文>

第1、2回では、大山さんがなぜ会社の制度がない中で、社費留学制度を作ってまで、中国MBAに行きたかったのか。第3回では、なぜ中国人エリートの働き方に興味をもったのか。第4回以降は、中国人同級生の取材を通してこれからの中国人エリートの働き方にせまります。

 

 

<第9話>いなか町からアメリカへ 「勇敢である」「世界を愛する」「リスペクト」を教えた母

中国人同級生Rafael Tong:
1987年青海省西寧市生まれ。高校卒業まで青海省西寧市で育ち、ハルビン工科大学卒業後、シンガポール国立大学の大学院にて機械工学を学ぶ。卒業後ハリバートンに入社。シンガポールで2年弱勤務後、幹部候補に選ばれ、ヒューストンの本社で1年間のリーダーシッププログラムを受ける。シンガポールで2 年半同社プロジェクトマネージャーを経て、CEIBS入学。

(写真)CEIBSのキャンパスをバックに

青海省のいなか町から、米国のエネルギー会社へ

大山:Rafaは青海省の西寧市出身だよね?

Rafa:そうだね、CEIBSの同級生に同じ出身地の人はいないね。上海からはとても遠いし、とってもとっても田舎だからね(笑)。同級生は都会の裕福な家庭出身が多いから、僕みたいなバックグラウンドは珍しいね。

大山:Rafaの故郷で Rafaみたいに海外経験豊富な人は本当に珍しいだろうね。だけど自分の努力でのし上がって、本当にすごいと思うよ。Rafaの生い立ちについてまずは教えてよ。

Rafa:地元に、海外経験がある人なんてまずいないね。CEIBSのアドミッションオフィスにも確認したけど、CEIBSのEMBA(*著者注:起業家や上場企業幹部向けのMBAプログラム)とMBA卒業生合わせて2万人以上いるけど、僕の地元からは僕がはじめての入学者らしい。それくらい田舎なんだよ(笑)。 高校卒業まで、地元の青海省西寧市で育ったよ。

大山:西寧市のRafaのふるさとって、どんなところなの?

Rafa:青海省は、中国のチベット高原に広がる広大な省で、その割に人口は約500万人ととても少ない。チベット文化やモンゴル文化の伝統が強く残っている土地だよ。西寧市は漢族、回族、チベット族、モンゴル族等の民族が住んでいて、青海省では1番目の都市だけど、決して大きくないし、富裕な都市ではないんだ。

苦労して育った母に教わった「勇敢であること」

大山:ご両親は、どんな方たちなの?

Rafa:僕の両親について紹介すると、うちの母親はとてもたくさんの苦労をしてきた人なんだ。僕の母の母親は彼女が生まれてすぐに亡くなって、更に不幸なことに、母には兄と姉がいたんだけど、共に若くして亡くなってしまった。母は彼女の父親に育てられたんだけど、母の父親はアルコール依存気味で、僕の母にたびたび暴力を振るっていたらしんだ。僕の母親がどれだけ困難な環境の中で育ったか、想像がつくと思う。彼女は自分が受けられなかった愛情を、その分僕に注いで育ててくれたんだ。そして彼女同様に、常に勇敢であるように僕は育てられたよ。逆に僕の父親は、地元のとても裕福な家庭で生まれたんだ。父親はとても優しいんだけど、規律とか挨拶とかにはとても厳格な人だよ。

大山:そうか。もちろん、Rafaもひとりっ子なんだよね?

Rafa:そうだよ。父親は家庭ファーストの人で、僕が小さい頃、雨の日も雪の日も毎日、父が早朝学校まで車で送ってくれて、帰りも必ず迎えに来てくれた。家族の幸せのために自己犠牲できる人なんだ。

大山:大切に育てられたんだね。そのぶん、期待も大きかったんじゃない?

Rafa:そうだね。大学入試がうまくいって、奨学金付きでハルビン工科大学(*著者注:HIT。工学系では清華大学に続き中国で2番目に有名な大学)に進んで機械工学を学んだよ。その後、海外に行ってみたくて、シンガポールに行くことにしたんだ。シンガポール国立大学(*以下NUS)の大学院から奨学金付きのオファーをもらえたから。

リーマンショック後の就活は厳しかった

大山:ハリバートン(*著者注:テキサス州ヒューストンに本社を置くエネルギー会社)にR&D職で就職するんだよね。大学院での専攻と異なるのはどうして?

Rafa:僕が就職したのはリーマンショック後で、メーカーの機械エンジニアのポジションの募集がとても少なかったんだ。結局、機械エンジニアのポジションで内定をもらえた会社もあったんだけど、希望の会社ではなかったから、それ以外のポジションも受けることにしたんだよ。そんな中でハリバートンから内定をもらえて、世界中から優秀な人が集まっているのを知っていたから、とっても嬉しくて働くことにしたんだよ。同期50人のうち、中国人は僕1人だったね。

大山:就職活動では中国企業もみていたの?

Rafa:いや、海外で経験を積みたかったからシンガポール中心に、海外での就職に絞っていたよ。

大山:なるほどね、シンガポールで数年働いた後に、アメリカ・ヒューストンの本社でも働いていたって聞いたけど。

Rafa:1年半シンガポールで働いて、会社のリーダーシッププログラム(*著者注:多くの外資系の企業で、 優秀な社員をピックして、幹部育成のために年単位で特別なトレーニングを積ませる)のメンバーに選ばれたから、1年間アメリカの本社でトレーニングを受けたんだ。その後、シンガポールに戻って2年半働いたね。

大山:バリバリのエリートコースだね。リーダーシッププログラムなんて少数精鋭だろうし。

中国へ、戻りたかった

Rafa:リーダーシッププログラムに選ばれた社員は世界中から10人強だったね。本当にいい経験をさせてもらったよ。その後、シンガポールに戻って最年少でプロジェクトマネージャーに昇進することができたんだ。

大山:そんなエリートコースにのっかっていたのに、なぜ辞めてCEIBSに来ることにしたの?

Rafa:リーダーシッププログラムの中で 、アメリカのMays Business Schoolで1ヶ月間ハリバートンのリーダーシッププログラム用のカリキュラムを受ける機会があったんだ。そこで自分は今までR&Dしか知らなかったけど、マーケティングとかファイナンスとか今まで自分が全く知らなかったものに触れて、とても面白くてMBAに興味を持ったんだ。それに将来的には起業したいと思っているんだけど、そのための経営全般の知識が僕にはなかったからね。だからリーダーシップが終わったら、会社にお願いしてR&D職からプロジェクトマネージャー職に変えてもらったんだ。だけどそれでも、アメリカのビジネススクールでかじった、あの全然知らない世界に触れる刺激が忘れられなかったんだ。

大山:CEIBS以外のMBAスクールは考えなかったの?

Rafa:ハーバード、イエール、INSEAD(*著者注:フランス、シンガポールにキャンパスを持つ世界屈指のMBAスクール)を受験して、イエールとINSEADは合格したんだ。だけど、MBAに行きたくなった理由の一つに、中国に戻りたいという気持ちが芽生えていたこともあるんだよ。昔は中国から出たいとずっと思っていたのに、外で働いて中国のものすごい成長スピードを外から見ていて、母国に戻ってこの成長を肌で実感したいと思ったんだ。だけど僕には中国で働いた経験がないし、まずは中国でMBAをとって、ビジネスの全体の知識を身につけると同時に、中国のビジネス事情も学びたいと思ったんだ。僕が中国にいなかった間にものすごいスピードで中国は成長したからね。シンガポールにいた時は、年に数回しか中国に帰らなかったんだけど、それでも帰る度にその成長具合に驚いていたよ。

大山:そういえば、CEIBSの受験の際に、待合室でRafaに出会ったのを思い出したよ。その時、INSEADからもオファーをもらったと言っていたから、絶対にこの人はINSEADに行くんだろうなと思っていたよ。なんせ世界一のMBAスクール(*著者注:Financial TimesのMBAランキングでINSEADは2年連続世界1位に選ばれている)だからね。

Rafa:ハハハ。僕にとってはランキングより、中国で学べることの方が大きかったね。それにCEIBSのランキングだってとても高いし、僕にとってはCEIBSの方がメリットが大きいと感じたんだ。

(写真)奥さんと

妻はアムステルダム。信じ合ってるから別居は没問題

大山:奥さんとはどこで知り合ったの?

Rafa:妻とはNUSにいる時に知り合ったよ。彼女が学部生で僕が大学院で学んでいて、友達の紹介で。彼女は中国・武漢の出身で、NUS卒業後に、コグザント(*著者注:アメリカのIT企業)にITコンサルタントとして入社したよ。実は彼女も会社のリーダーシッププログラムに選ばれて、今オランダのアムステルダムにいるんだ。

大山:ものすごいエリート夫婦だね。彼女ももちろんバリバリのキャリア志向なんだよね?日本では、共働き夫婦を政府が後押ししようとしてはいるんだけど、Rafaはどうやってキャリアと家庭とどうやってバランスをとっていくつもり?

Rafa:妻もキャリア志向が強いね。大学からずっと海外で生活しているというのもあって、とても独立した女性だよ。もちろん将来的には子どもは欲しいんだけど、今この瞬間は、二人ともキャリアに集中するべきだと思っているんだ。よく周りから、離れて生活していて寂しくないかと聞かれるけど、そりゃ寂しいけど、お互いの考えを理解して尊重して、信じ合ってるから問題ないよ。だから去年籍を入れたんだけど、結婚式はまだしていないし、する予定も今のところないんだ。親からは、いつ結婚式するんだと聞かれるんだけど、親の世代とは考え方も価値観も違うからね、僕らはとても忙しくて、結婚式のプライオリティは今現在そこまで高くないんだよ。だけど、将来子どもを持ったら、3つ選択肢があると思ってる、1つ目は、両親に面倒をみてもらう、2つ目は、ヘルパーを雇う、3つ目は僕と妻で1年間くらい交互に仕事を休んで、面倒を見る。

大山:えっ? Rafaも1年間くらい仕事を休むの?

Rafa:妻と僕は完全に平等だと思っているからね。女性だけキャリアを中断して子育てをするのはおかしいと思っている。お金より、キャリアより、幸せな家庭を築くのがいちばんだからね。そのためには1年くらい仕事しなくても全然問題ないよ。

大山:Rafaにとって理想の夫婦像って?

Rafa:お互い刺激し合えて、互いに尊敬できる関係かな。彼女は全然僕と違うバックグラウンドだから話していて、常に新しい刺激がもらえるよ。

妻も、CEIBSをめざす

大山:奥さんは、ずっと海外で働く予定なの?

Rafa:いや、実は奥さんも中国に帰りたいと思っているところなんだ。彼女の場合、僕より長く中国から離れているからね。それで実は僕は、奥さんにCEIBSを勧めていて、彼女も前向きで、今受験の準備をしているんだよ(笑)。

大山:夫婦ともCEIBSを卒業するなんて素敵だね。そしてRafaは本当にCEIBSが大好きだね。もちろんみんな大好きなんだけど、その中でもRafaは特にCEIBSのことが気に入っているように感じるよ。

Rafa:CEIBSのことが大好きだし、CEIBSの全てに大満足で、本当にCEIBSに来てよかったと思っているよ。授業の質もさることながら、本当に生徒が多彩なバックグラウンドで、優秀な同級生ばかりで本当に世界が広がったよ。

失敗を失敗としてとらえない

大山:卒業後はすぐに起業するの?

Rafa:まだ中国で働いた経験がないから、まずは数年は中国のどこかの企業で働こうと思っているよ。

大山:最後にRafaのキャリアはピカピカだけど、今まで失敗したことってあるの?
Rafa:そりゃたくさん失敗はしてきているよ。例えば、リーマン・ショックの時に就職活動をしてエンジニアの職を得られなかったことだって、失敗といえば失敗だよね。だけど、親の教育の影響もあるけど、昔からあまり失敗を失敗としてはとらえないんだ。チャレンジしたら失敗はつきものだし、その度に成長できるしね。僕は本当に貧しい田舎の出身で、チャレンジしてここまで来ることができたからね。だからこれからも失敗を恐れずにチャレンジしていくよ。

大山:両親から教わったことで大事にしていることってある?

Rafa: 2008年の四川の大地震を覚えているかな?彼はその時約3ヶ月程、ボランティアに励んでいたよ。そんな両親の影響で、僕は勇敢であること、世界を愛して、常にリスペクトを忘れないことを学んだよ。確かに僕の家庭は、他のCEIBS同級生に比べて豊かではないかもしれない。だけど、彼らは僕にそれよりもとても大きなものをくれたんだよ。

大山:それはなんだろう?

Rafa:大学卒業を控えて、海外に行こうか悩んでいる時に、母親に言われた言葉を忘れたことはないよ。
息子よ。広い世界を見てきなさい。もしあなたが、そこで幸せを見つけたのなら、私はそれ以上の幸せはない。もし幸せになれなかったら、だいじょうぶ。いつでも故郷に帰ってきなさい


Hirotaka Oyama

投稿者について

Hirotaka Oyama: <プロフィール> 1986年東京生まれ。私立武蔵高校、早稲田大学理工学部卒。大学在学中は体育会ラクロス部に所属。 2010年株式会社商船三井入社。関連会社出向、本社経営企画部を経て2016年8月より、上海にあるChina Europe International Business School (CEIBS)に現在会社からの派遣でMBA留学中。 ブログ: CEIBS MBA日記