<第5話>MBA中に出産。それがなにか?家族が支えるMBAママライフ

<筆者プロフィール>

1986年東京生まれ。私立武蔵高校、早稲田大学理工学部卒。大学在学中は体育会ラクロス部に所属。 2010年株式会社商船三井入社。関連会社出向、本社経営企画部を経て2016年8月より、上海にあるChina Europe International Business School (CEIBS)に現在会社からの派遣でMBA留学中。

ブログ: CEIBS MBA日記 (http://ceibs2018.hatenablog.com)

<紹介文>

第1、2回では、大山さんがなぜ会社の制度がない中で、社費留学制度を作ってまで、中国MBAに行きたかったのか。第3回では、なぜ中国人エリートの働き方に興味をもったのか。第4回以降は、中国人同級生の取材を通してこれからの中国人エリートの働き方にせまります。

 

 

<第5話>MBA中に出産。それがなにか?家族が支えるMBAママライフ

中国人同級生 Tina:
1984生、新疆ウイグル自治区生まれ。2004年に高校進学のため上海に移住、以降ずっと上海在住。上海財経大学にて、Eコマースマネージメントを学び、IBMコンサルティング、アビームコンサルティングにてITコンサルタントとして働いた後、CEIBSに入学。趣味はバトミントン、ランニング、水泳。

夫は料理担当、両親が子育てをサポート

大山:Tinaと言えば、MBA期間中に出産して、お腹も大きい時は本当にこっちがハラハラしたよ。けどすぐに復帰したよね?

Tina:皆と一緒に卒業したかったから、すぐに学業に復帰したよ。12月中旬のTerm2の最終試験を受けて、2月頭のTerm3の途中に復帰したんだ。1ヶ月位休んですぐに復帰したね。それでも必修科目をいくつか取れなかったから、来年また1学年下の代に混じって取らないといけないけどね。こんなに早くにカムバックできたのは周りの人のサポートのおかげだよ。

大山:家族は心配しなかった?1年間休学して子育てに専念するっていう選択肢もあったと思うけど。

Tina:実は家族は、1 年間の休学を私に勧めたよ。MBAだけでも大変な負担だから、皆私と赤ちゃんの体を心配してくれた。だから私もCEIBSの卒業生や、学校の事務局とよく相談したんだ。最終的には1. 赤ちゃんの産まれてくるタイミング、2. 学校からの素晴らしいサポート、3. 自分の性格(今までの経験上、粘り強く全ての困難を乗り越えられる)。この3つから総合的に判断して自分で決めたよ。みんな私の最終的な決断を尊重してくれて、サポートしてくれたよ。

大山:旦那さんは何をしている人?

Tina:PwCでITコンサルタントをしている。実は高校の同級生なんだ。

大山:Tina自身もIBMコンサルティングでITコンサルタントだったもんね。同じ職種なんだね。二人とも働いていたら、家事の役割分担とかはどうしているの?

Tina:実は料理は、夫が家にいる時は夫がしてくれる。彼の方が料理は得意だから。彼は上海人なんだけど、上海の家庭の8割は夫が料理をしていると言われているって知っていた?これは他にはない上海の特徴の一つだね。夫も上海人なんだ。

大山:本当に……?! 僕は料理できません(涙)

Tina:大学時代、大学の同級生3人と4人で寮に住んでいたんだけど、私以外は皆上海が地元の子達で、週末になると彼女達のお母さんが交代交代で私達の部屋の掃除やベッドメイキングや掃除等をしにきてくれたり、料理を作ってくれた、まるで阿姨(あーいー:お手伝いさんのこと)みたいに。だから私達も勉強に集中することができたんだけど、これは上海だけの特殊な事情かもしれない。

子育てと仕事、続けるための三択

大山:仕事、家庭、子育てとどうやってバランスとっている?

Tina:方法は3つあると思っている。一つめは、両親の住んでいる実家に子供を預けてしまうケース。ベビーシッターを雇うにも高いし、良いベビーシッターを探すのは大変だから両親が近くに住んでいたり、孫を毎日見たい両親には最適だね。

大山:その場合は、頻繁に実家に帰って子供に会うんだね。

Tina:中国はとても広いので実際はそんなに頻繁に帰れない。動画を送ってもらったり、動画でコミュニケーションをとったりすることが多いかな。CEIBSの同級生もこのケースは多いよ。そういえばCEIBSの同期のママ専用のWechatグループがあるの知っていた?ベビーシッターの話題はホットな話題だよ。二つめは、両親のどちらかに来てもらって子供の面倒をみてもらうケース。うちが今このパターン。ただし、彼らも自分の仕事が故郷であるし、そもそも上海の生活があまり好きでないから、今後もサポートしてくれるか話し合っているところ。
そして3番めがベビーシッターを雇う方法。ベビーシッターの料金はどんどん上がっている。Wechatグループで話をしているのは、中国人ベビーシッターの月の最低料金が月大体8000元くらい。ただし、これは経験のないベビーシッターの料金で、優秀なベビーシッターの場合はこれよりもっと高い。

大山:政府は何かサポートしてくれているの?

Tina:政府はベビーシッターのトレーニングを積極的にしてくれている。ただ私の感覚では、形だけのトレーニングで、それを受けたからと行ってベビーシッターが必要なスキルを備えているかというと別問題。

大山:日本人ではまだベビーシッターの活用はそこまで多くないんだけど、一番大きな理由はベビーシッターを信頼できないという理由があると思う。

Tina:それは中国でも同じ。ベビーシッターが職務を放棄して、実際は部屋でテレビをずっとみていたり、そもそも子供に興味がないのに、他に職がないため、仕方がなくベビーシッターをしている人もいる。もちろん中には子供が大好きでベビーシッターをやっている人もいるけれど。だから、基本的にはみんな家中にカメラを設置してずっとスマホでベビーシッターの動向を確認している。

大山:家中にカメラはすごいね……。

Tina:その労働環境が嫌でやめるベビーシッターもいる。けどそれ以外に赤ちゃんの安全を守る方法がないんだよ。今、中国に複数大きなベビーシッターのエージェントがあるんだけどまだどこも信頼できるレベルには達していないかな。まだまだ成熟していない業界で、逆に言えば、この業界はビジネスチャンスがあるよ。

大山:さすがMBA生(笑)。フィリピンとか、他の国から出稼ぎにくるベビーシッターはいないの?

Tina:フィリピン人のベビーシッターが最近中国市場に入ってきたよ。感覚的にはベビーシッターを利用している99%の家庭は中国人ベビーシッターで、1%がフィリピン人ベビーシッターかな。そしてWechatのグループチャットでもまさに話題になっていたところで、フィリピン人ベビーシッターの方がとってもプロフェッショナルでしかも英語の教育にもなる、料金も一番安くて13,000元くらいだから、そこまで中国人ベビーシッターと変わらないことを考えると、今後フィリピン人ベビーシッターを活用する可能性はかなり高いと思う。

大山:中国人はとても子供の教育に熱心だけど、Tinaもいろいろ考えているの?CEIBSの周りには本当にたくさんのインターナショナルスクールがあるけれど。。。

Tina:もちろん。中国ではトップの中学も、高校も公立の学校なんだ。だけど中国の教育の問題は、勉強しかさせないところ。もし将来インターナショナルな職に着きたかったら勉強だけ、ペーパーの勉強だけじゃだめだと思っているから、かなりインターナショナルスクールに興味をもっている。ただし問題は、一度インターナショナルスクールを選んでしまったら、もう二度と中国の教育システムには戻れない。途中から中国の教育システムに戻った場合、最初からそのシステムの中で競争させられている子供達とは勝負にならない。だから基本的には大学は海外に行くことになる。いずれにせよ、親が判断して子供に道を示してあげないといけないね。

猛烈に働いて稼ぎたい。それは家族のため

大山: Tinaの理想の家族像、夫婦像を教えてよ。

Tina:本当は大きな家に、子供、夫婦、両親みんなで住んで暮らしたい。だってみんなファミリーだから。そのために、頑張って稼がなきゃいけないからCEIBSを選んだんだ笑

大山:だけど旦那さんも忙しいんじゃない?

Tina:夫の仕事はとても忙しい上に、出張も多いので私は、こないだ旦那にクレームしたよ。これだけ出張が多くて家に不在だと子供の教育に悪影響があるって。そしたら転職も考えるよと言っていたよ(笑)

大山:日本では働く女性を増やそうと政府が動いているけど、中国ではどう感じる?

Tina:私個人的には中国政府は特には何もしていないように感じる。そして日本人の感覚にそもそも違和感を感じる。なんで今まで学校で勉強を頑張ってきた女性が、急に家で家事だけすることができるの?だったら最初からそんなに勉強を頑張る必要なんてないんじゃないかな。私の大学の同級生女子全員、結婚後も仕事を当然続けているよ。そもそも上海の生活費、住宅費は毎年毎年上がっているから、共働きでないと家計を養えないっていうのが最も大きな理由だと思う。あとは 中国の年金は日本に比べてしっかりしていないから今のうちに頑張って働くしかない。だからわざわざ政府が後押しする必要なんてなく、皆自然と頑張って働く。あと個人的には、もし夫だけが働いていたら何を買うにも夫の許可をとらなきゃいけない、それはとてもストレス。自分で働いている限りは、自由に買い物もできるからね。

ワークライフバランスより、ハードワークで社会貢献

大山:今日本ではワークライフバランスがとても重視されているし、中国でもそうだと思うんだけど、Tinaはどう?

Tina:ワークライフバランスを重視するんだったらMBA には来てないんじゃないかな(笑)。私はハードワークしてお金を稼いで社会に貢献したい。

大山:将来のキャリアプランについて教えてよ。

Tina:私は教育業界にとても興味がある。中国の教育業界はまだまだ発展途上、それ故に英語をまともにしゃべれる人もまだまだ少ない。CEIBS卒業後は、教育業界の会社で働いて、空いている時間で自分の会社を立ち上げる準備をしたい。もちろん教育関連の会社を立ち上げたい。ある程度収入の見込みがたったら、その会社を退職して、自分の会社一本でやっていきたい。

大山: 確実に家族や働き方に関する考え方は、親の世代とは変わっているね。

Tina:物理的な意味での家族と過ごせる時間というのは、親の世代よりもどんどん少なくっていると思うし、それを覚悟しないといけない時代だと思う。だけど、そのせいで家族愛が薄くなっているかといったら全く別問題。どこにいても家族は家族だし、愛情は変わらない。一番大事なのは変わらず家族。

大山:今まで生きてきて一番失敗したことってなに?

Tina:数年前に上海市内に家を買おうか検討していた時に、最終的に買わなかったこと。結局夫が家を買うことに乗り気じゃなかったんだけど、その後半年に二倍になって、その後もぐんぐん上がっている。だからその時は夫を怒ってしまったよ(笑)。家の値段に比べたらMBAの学費は全然大したことないね。

大山:さすがTina、最後に現実的な話をありがとう(笑)。


Hirotaka Oyama

投稿者について

Hirotaka Oyama: <プロフィール> 1986年東京生まれ。私立武蔵高校、早稲田大学理工学部卒。大学在学中は体育会ラクロス部に所属。 2010年株式会社商船三井入社。関連会社出向、本社経営企画部を経て2016年8月より、上海にあるChina Europe International Business School (CEIBS)に現在会社からの派遣でMBA留学中。 ブログ: CEIBS MBA日記