第三回 負けず嫌い

2016年8月17日 / 留学のすゝめ

(写真)今は無き『北京商学院』の校舎

私が留学先に選んだ「北京商学院」は地元の人もあまり知らないような小さな大学です。留学生数も少なく、「初級」、「中級」、「上級」、「最上級」の4クラスしかありませんでした。

私は1年間みっちり勉強し、ある程度の自信がありましたので、「上級」からスタートし、一年間で「最上級」の修了を決意します。

意気込んで臨んだ初授業は、郗老師の『综合汉语』。その日の出来事を今でも忘れることができません。授業も終盤を迎えそろそろ教科書を片付けようかとしているその刹那、郗老師がみんなの前で私に向かって質問してきました。

『你听懂了百分之多少?』

郗老師が喋る中国語はとてもきれいな『普通话』です。こてこての北京語や地方出身者の訛った中国語のような「壁」とは違います。留学準備期間に毎日のようにカセットテープを聞き、ヒアリングの勉強を繰り返してきた私ですが、さすがに短期間では「耳」は慣れませんでした。

「え?は?あ?う?」

聞き取れていない私が返答できずに狼狽していると、私より半年早く中国に来てすでに「中国語耳」ができていた唯一の日本人クラスメイトの耳打ちが後ろの席から聞こえてくるではありませんか。

「先生は『何パーセント聞き取れた?』って言ってるよ」

その時の悔しさ、情けなさといったらとても言葉で表現することができません。この瞬間です、私の「負けず嫌い」に火がついたのは。家庭教師、相互学習等、授業以外で一日平均7時間勉強の日々が始まったのはこの直後の事でした。

この猛勉強が奏功し留学後3ヶ月足らずでHSK6級を獲得することができたのです。気をよくした私は、更に上を目指し、帰国までにHSK8級(中級最上級)取得の目標を立て、モチベーションを高めるためクラスメイトに宣言しました。それを聞いた韓国人クラスメイトから、

「俺は2年も北京にいてやっと7級なんだよ。1年で8級なんてとても無理だね」

と、鼻で笑われました。

あぁ、火をつけてくれてありがとう。

一旦燃え上がった「負けず嫌い」の炎はとどまることを知らず、瞬く間に広がりをみせました。半年で7級取得、そして8か月でついに8級に合格したのです。

「負けず嫌い」というものは度が過ぎたり、表に出しすぎたりすると、周囲の人間に嫌悪感を与えてしまいます。しかし、それを巧みにコントロールし自己のモチベーション向上にうまく利用できれば、爆発的なエネルギーとなって背中を押してくれるのです。


Yusaku Nishimura

投稿者について

Yusaku Nishimura: 対外経済貿易大学副教授  2010年6月に中国の経済金融系重点大学である対外経済貿易大学で経済学博士を取得し、同大学国際経済研究院で専任講師として採用される。  2013年1月より同大副教授。日中両国でのコラム執筆や講演活動も精力的におこなっている。  中国の外国人の大学教員の立場は、自国の言葉で教える非常勤講師か、海外の大学教員でありながら中国でも講義する客員教員が一般的。日本人を中国人枠での専任講師として採用するのは極めてまれで、人民日報やChina Dailyなどでも大きく紹介された。