第十七回 語学恋愛論

2016年8月17日 / 留学のすゝめ

(写真)中国語の辞書と教科書

「語学は恋愛と相通じるものがある」

私の持論です。男女が付き合っていても、毎日会って意思疎通を図るのと、二日に一回、一週間に一回とでは二人の親密度は顕著に異なってくると思います。これと同様、外国語学習も毎日の積み重ねが重要なのです。

それでは恋愛のタブーはなんでしょうか。そう、「浮気」です。

留学すると先ずは語学班で中国語の勉強をするのが普通です。留学当初から中国人の友達なんてなかなかできませんから、当然クラスメイトの外国人と仲良くなります。彼らとの交流が深まるにつれ、徐々にその人たちが喋っている言葉に興味を持ち始め、「浮気」の衝動に駆られてしまうのです。特にその傾向がみられるのが英語。

「あぁ、みんな英語がしゃべれるのに私だけ……中国語と同時に英語も勉強しよう!」

誘惑に負けた瞬間です。

語学学習は脳の中に引き出しを作ることです。我々日本人は、すでに「日本語引き出し」を持っています。それとは別に「中国語引き出し」が作れるか否か、これが語学学習のポイントです。

ところが、入門・初級の段階では、「中国語引き出し」ではなく「外国語引き出し」しかできていない状態。つまり、日本語以外の言語はその中にごった煮状態なのです。そのような状態で他言語を学ぶとどうなるか、想像に難くありません。

私の知人で、まだ中国語を習い始めて半年しか経っていないのに、周囲に感化され英語を習い始めた人がいました。その結果、

Wo (我) will go

など、二つの言語がごっちゃになったり、文法がメチャクチャになったりと惨憺たるものでした。このように、「浮気」をすると結局どちらも中途半端になってしまい、語学をマスターするどころか、外国語をまともに使うことすら困難な状態に陥らないとも限りません。「二兎を追うものは一兎をも得ず」とはよく言ったもの。古人の言葉はいつも正しいのです。

外国語学習は同一言語の勉強を毎日繰り返すことが大切なのです。そうすることによって、語学との関係はより緊密になり、徐々に「自分のもの」になっていきます。逆に、他に気を取られよそ見をしたり、忙しいからといって邪険に扱ったりすると、必ず離れていくでしょう。恋愛でも語学でも浮気はよくありません。


Yusaku Nishimura

投稿者について

Yusaku Nishimura: 対外経済貿易大学副教授  2010年6月に中国の経済金融系重点大学である対外経済貿易大学で経済学博士を取得し、同大学国際経済研究院で専任講師として採用される。  2013年1月より同大副教授。日中両国でのコラム執筆や講演活動も精力的におこなっている。  中国の外国人の大学教員の立場は、自国の言葉で教える非常勤講師か、海外の大学教員でありながら中国でも講義する客員教員が一般的。日本人を中国人枠での専任講師として採用するのは極めてまれで、人民日報やChina Dailyなどでも大きく紹介された。