第十四回 北京のおふくろの味

2016年8月17日 / 留学のすゝめ

(写真)老北京ジャージャー面

中国語に『吃货』という言葉があります。原義としては「無駄飯喰い」「穀つぶし」といった意味があるのですが、最近では「食いしん坊」のような意味でよく使われています。私は『美食家(グルメ)』ではありませんが、かなりの『吃货(グルマン)』です。

「文化を理解するには、まずは食文化から」

食文化ほど地域に根ざした文化はありません。中国には山東、四川、江蘇、浙江、広東、湖南、福建、安徽の『八大菜系』と呼ばれる著名な料理がありますが、その中に中国の首都北京を代表する『京味(北京料理)』は含まれていません。そんなマイナー(?)な北京料理ですが、北京留学の際には是非食べてもらいたい料理があります。ジャージャー面です。

ジャージャー面は中国語で『炸酱面』と書きます。読んで字の如く、油で炒めた味噌を『菜码儿』と呼ばれる具と麺の上にかける料理です。この『菜码儿』を「中日辞典(小学館)」で調べてみると「めん類にそえたり混ぜたりする具。野菜を千切りにしたものなど」とありますが、そのような単純な付け足し的なものではなく、季節によって内容を変えるなど、北京人はこの『菜码儿』にこだわりがあるようです。

麺のゆで方もこだわりがあるようで、冬の寒い時期にも湯で麺を一度水通ししたものを食べる人が多くいます。茹で上がった面を水にさっと通すことにより、面にハリが出て、最後の一本まで歯ごたえを楽しむことができるのです。

このジャージャー面は標準的な北京の家庭であればどこでも作れるようで、それぞれ作り方が微妙に異なるため、味が各家庭で違うのが特徴。つまり、北京版「おふくろの味」です。私も多くの北京人のお宅でいただきました。

最近食べたのは、親友の郭くん家のジャージャー面です。『菜码儿』はキュウリ、モヤシ、大豆、赤カブ。麺は自家製ではなく、市販のもので、一斤(500g)約5元で手に入ります。肝心の味噌ですが、北京では有名な老舗『六必居』の『黄醤(大豆と小麦粉で作った甘辛い味噌)』を使う家庭が多く、郭くん家でもそれを使っていました。具材も、肉、卵を両方入れ、さらに椎茸やネギをいれていました。

折角の中国留学です。日本料理もいいですが、「食」を通じてご当地の文化に触れあい理解することも大切です。また、北京人の友人ができたら、

「あなたの家のジャージャー面が食べたい」

とアタックしてみてはいかがでしょう。北京版「おふくろの味」は、きっとお腹も心も満たしてくれるはずです。


Yusaku Nishimura

投稿者について

Yusaku Nishimura: 対外経済貿易大学副教授  2010年6月に中国の経済金融系重点大学である対外経済貿易大学で経済学博士を取得し、同大学国際経済研究院で専任講師として採用される。  2013年1月より同大副教授。日中両国でのコラム執筆や講演活動も精力的におこなっている。  中国の外国人の大学教員の立場は、自国の言葉で教える非常勤講師か、海外の大学教員でありながら中国でも講義する客員教員が一般的。日本人を中国人枠での専任講師として採用するのは極めてまれで、人民日報やChina Dailyなどでも大きく紹介された。