第一六回 街は大きな教室

2016年8月17日 / 留学のすゝめ

(写真)街中で中国将棋に興じる人々

海外留学の最大のメリット。それは何と言っても、外国語に触れ合う機会が圧倒的に増す事でしょう。日常的に外国語と接することにより、当然語学力は飛躍的に高まっていきます。

簡単に説明すると、中国の留学カリキュラムは、通常『学歴生』と『非学歴生』に区分されます。前者は、『本科生(学部生)』や『研究生(修士・博士課程)』といった学位の取得を目的とする留学生。中国で博士号を取得した私の場合はこれに該当します。後者は、『漢語班』などに通う「語学の習得」を目的とする短期の留学生を指します。

全体的にみると、日本人留学生の場合、『学歴生』は比較的少なく、多くが語学上達のための『漢語班』に在籍しています。

この『漢語班』で教えている先生は対外漢語のプロ。つまり外国人を相手に中国語を教える専門家です。熟練の先生になれば、どの国の学生がどのようなミスを犯しやすいのか、発音にどのような癖があるのかといった細かい点までわかるようになります。実は、これが結構曲者なのです。

漢字文化の日本人は、中国語は読めば何とか理解はできます。また、1,2カ月もすると耳も慣れてきて、先生が言っていることが徐々にわかるようになってきます。そうなってくると、

「お、中国語って楽勝!」

と勘違いしてしまう人がいるのです。実は、対外漢語のプロの先生は、使う中国語を厳選してわかりやすく話をしますし、発音の癖もわかっているので、多少つたない中国語でも理解してくれます。

実際街に出てみると、タクシーの運転手やお店の店員が喋っている事がわからない。上級者においても、TVやラジオのキャスターが喋る標準語はわかるのに、『相声(中国漫才)』やドラマ、映画等が聞き取れない、という事はよくあることです。つまり、教室で使う「お客様用の中国語」はわかっても、実際に使われている「本場の中国語」は理解できていないのです。

これを解消するには、多くの中国人との「生きた会話」を積み重ねるしかありません。

私の場合、初心者の内はできるだけタクシーを利用し、助手席に座りつたない中国語で運転手に語りかけました。もともとそんなに高くないタクシー代ですが、レッスン料と考えれば安いもの。北京のタクシーの運転手は、ほとんどがネイティブの北京人です。中には発音を矯正してくれたり、北京語などのスラングを教えてくれたりした運転手さんもいました。

また、北京語以外の、訛りのある標準語にも対応できるようにと、街で座っておしゃべりしている高齢者の方々や、暇そうにしている出店のおばさんにもよく声をかけました。とても優しく丁寧に対応してくれたのが印象的でした。さらに、中国将棋を指している人を取り巻き討論している人たちの中に入って聞き取りの練習もしました。おかげで、ある程度の訛りのきいた中国語でも聞き取れるようになりました。

語学習得に近道はありません。単語一つ一つ、言葉一つ一つをコツコツと積み上げていくしかないのです。せっかくの中国留学です。果敢に街に飛び出して多くの中国人との会話を楽しんではいかがでしょうか。


Yusaku Nishimura

投稿者について

Yusaku Nishimura: 対外経済貿易大学副教授  2010年6月に中国の経済金融系重点大学である対外経済貿易大学で経済学博士を取得し、同大学国際経済研究院で専任講師として採用される。  2013年1月より同大副教授。日中両国でのコラム執筆や講演活動も精力的におこなっている。  中国の外国人の大学教員の立場は、自国の言葉で教える非常勤講師か、海外の大学教員でありながら中国でも講義する客員教員が一般的。日本人を中国人枠での専任講師として採用するのは極めてまれで、人民日報やChina Dailyなどでも大きく紹介された。