第二十三回 伸び悩みは進歩の証拠

2016年8月17日 / 留学のすゝめ

(写真)日本語の意味がびっしり書かれている留学初期の教科書

語学の学習過程において、必ずと言っていいほど大きな“壁”にぶち当たる時がきます。私もちょくちょくそのような壁にぶつかり、モチベーションを維持できなくなったことを記憶しています。今思い起こすと、その壁の多くが、

「語学力の向上や進歩を感じられない。勉強法方が間違っているのでは?」

といった自分自身に対する不信感でした。

語学学習は一歩一歩の積み重ねであり、「第十七回 語学恋愛論」や「第十八回 好きこそ物の上手なれ」でも書かせていただいたとおり、毎日コツコツと繰り返し続けることが大切です。毎日覚えた単語の数、中国語を耳にした時間数、書いた文章の量、読んだ中国語本の数、つまり学習量と中国語能力は正比例の関係にあるのです。

しかし、このように正比例の関係にあるのであれば、なぜ「中国語力の向上や進歩を感じられない」、といった現象が起こるのでしょうか?

実は、この「中国語力の向上や進歩を感じられない」事こそが、あなたの中国語能力が進歩し、かなりの状態に達している証拠なのです。能力を量化するのは非常に難しいので、ここでは単語量=能力と仮定して、このことを説明します。

毎日、コツコツと単語を暗記していっても、記憶できる一日の単語量は限界があります。ここでは毎日5個の単語を覚えたと仮定します。もともとの単語量が50である初級者が、毎日5個ずつ単語量を増やしていけば、10日後には、

5(毎日増える単語量)×10(日)+50(もともとの単語量)単語量=合計100

となり、能力(単語量)はもとの50から倍増したことになります。

しかし、もともと500の単語量をもっている中級者の場合は、10日後には550個となり、実質的には10%((550-500)÷500×100(%))しか増えていないことになります。つまり、ある程度の能力に達した語学学習者になると、絶対数は同様に伸びているが、相対比率は下がっているからその能力の伸びを感じ取ることができなくなってくるのです。

このような“壁”にぶつかった時には、どうすればいいのでしょうか。そのような時は、半年前の教科書やノート、辞書(電子辞書を使ってない方のみ)をパラパラとめくってみて下さい。きっと、今では当たり前のように覚えている単語やセンテンスにいっぱい書き込みをしているはずです。

「なーんだ、半年前はこんな簡単な単語もわからなかったのか!」

と自分の進歩を実感し、自信を取り戻すことができる事でしょう。

前ばかり見て歩くのではなく、時には後ろを振り返り、自分の歩いてきた道、自分の進歩を見つめなおしてみて下さい。きっと、今までと違った自分を発見できるはずです。


Yusaku Nishimura

投稿者について

Yusaku Nishimura: 対外経済貿易大学副教授  2010年6月に中国の経済金融系重点大学である対外経済貿易大学で経済学博士を取得し、同大学国際経済研究院で専任講師として採用される。  2013年1月より同大副教授。日中両国でのコラム執筆や講演活動も精力的におこなっている。  中国の外国人の大学教員の立場は、自国の言葉で教える非常勤講師か、海外の大学教員でありながら中国でも講義する客員教員が一般的。日本人を中国人枠での専任講師として採用するのは極めてまれで、人民日報やChina Dailyなどでも大きく紹介された。