第九回 知己(3)

2016年8月17日 / 留学のすゝめ

(写真)三十路のバースデー『烤全羊』

酒逢知己千杯少
これは「知己と飲む酒は千杯でも足りない」と言う意味を表す中国のことわざです。この言葉を教えてくれたのが、互いを「兄弟」と呼び合う知己、郭くん。

彼との出会いは、2度目の留学で北京を再訪した直後の2002年10月。当時日本語を勉強していた郭くんとそのクラスメイト達が企画した「香山紅葉鑑賞ピクニック」に参加したのがきっかけでした。

お互い肌があったのか、あっという間に意気投合、毎週のように遊びに行くようになります。

彼は小さい頃から北京の胡同で育ったこてこての北京人。現在、私がしゃべる中国語は『京腔(北京なまり)』だとよく言われますが、彼から受けた影響が大きいのでしょう。また、言葉だけではなく北京の風習についても色々と体験させてくれました。

大晦日の夜は郭くんを中心とした仲間たちと集まります。以前も書きましたが、私の場合、蒋老師の家で『年夜饭』を食べ、その後、彼らと合流するのがいつものパターンとなりました。春節期間中に『庙会(春節期間中お寺などで開かれる縁日)』にもよく一緒に行きました。また、北京では長年禁止されてきた花火・爆竹ですが、2006年から時間限定で解禁されました。この時も真っ先に声をかけてくれたのが郭くんでした。

彼とはよく旅行に行きました。印象深いのは、2004年7月に行った河北省苟各庄。北京から片道7元の汽車に乗り約3時間、シャワーもない一泊10元の民宿に3日間泊まりました。その日は奇しくも私の三十路の誕生日。バースデーケーキ代わりに食べた羊の丸焼きの味は今でも忘れられません。




(写真)チベットの『ナムツォ(納木錯)』


2007年5月、開通して間もない青蔵鉄道に48時間乗りチベットへ向かいました。標高世界一の塩水湖「ナムツォ(納木錯)」は今まで見た中でも最高級の景色、チベット族の貧しい子供や老人たちとも交流し、人生観を変えるような素晴らしい経験をすることができました。

また、私が中国人のコミュニケーション能力、交渉能力を垣間見たのもこの時です。我々一行は6人で、列車の一部屋のベッド数も6つ。しかし、旅行会社を通じて買った帰りのチケットは全員がバラバラという状況でした。日本人だったら、仕方がないと諦めてしまいそうですが、彼らは違います。同じ車両の旅客に片っ端から話しかけ、一人旅の旅行者を見つけだしてはベッドの交代を依頼、わずか10分足らずでバラバラだった6人を一つの部屋にまとめ上げました。なんとも心強い!

彼とはよく私の部屋で盃を交わし、夜遅くまで語り合いました。家族の話や恋人の話、友人に裏切られた話など、何でも私に喋ってくれました。泣きながら相談を受けた事もあります。

「ここまで分かり合え、何でも話せる友人は中国人でもなかなかいない。」

彼がよく口にする言葉です。実は最初のことわざは続きがあります。

话不投机半句多(話が合わねば半句も多し)

話の合わない人、口も利きたくないような人というのは同じ国籍でも数多くいます。そのような中、異国の地で心から分かり合える知己と出会えるというのは本当に幸せな事です。


Yusaku Nishimura

投稿者について

Yusaku Nishimura: 対外経済貿易大学副教授  2010年6月に中国の経済金融系重点大学である対外経済貿易大学で経済学博士を取得し、同大学国際経済研究院で専任講師として採用される。  2013年1月より同大副教授。日中両国でのコラム執筆や講演活動も精力的におこなっている。  中国の外国人の大学教員の立場は、自国の言葉で教える非常勤講師か、海外の大学教員でありながら中国でも講義する客員教員が一般的。日本人を中国人枠での専任講師として採用するのは極めてまれで、人民日報やChina Dailyなどでも大きく紹介された。