第二十一回 名作『SLAM DUNK』に学ぶ基礎の大切さ

2016年8月17日 / 留学のすゝめ

(写真)ピカソと雄牛。右下が完成図

何事もそうですが、語学上達のためには基礎をしっかり固める事が何よりも重要です。私は授業中、学生によく基礎の大切さを説きます。その時に必ず例として挙げるのが、井上雄彦先生原作の「SLAM DUNK(スラムダンク)」です。

 1990~96年にかけて「週刊少年ジャンプ」で連載されていたバスケットボール漫画の傑作で、中国でも『灌蓝高手』や『篮球飞人』のタイトルで放送されました。今でも多くの中国人に愛されている名作中の名作といえるでしょう。

 そのスラムダンクでは以下のようなシーンがあります。

 『主人公の桜木花道が、全国大会前に単独合宿を行い、コーチの安西先生とジャンプショットの練習を行います。毎日同じ練習を10日間で2万本続けます。そして、物語のクライマックスでは、タイトルにもなっている大技「スラムダンク」ではなく、地道に何度も何度も練習を繰り返したこのジャンプショットが決まりタイムアップ、幕が閉じます。』

 肝心な時に成否を左右するのは、まさしく基礎力です。つまり、自分が繰り返し練習し、一つ一つ積み上げてきた努力が最後に結果を左右するのです。

 これは語学学習でも同じようなことが言えます。しかし、基礎練習というのは決して楽しいものではありません。早く次のステップに進みたいという衝動に駆られるのもわかります。私も幾度となくそのような葛藤に苛まれながらも、しっかりと基礎練習をやり遂げました。

 発音練習ではちり紙を口の前にあてて、何度も何度も有気音・無気音の練習を繰り返しましたし、口やあごが痛くなるまで苦手だった捲舌音、鼻母音の訓練も決して怠りませんでした。それが奏功し、今では発音に関しては北京人と間違われるくらいのレベルまで到達しました。文法も入門、初級の段階でみっちりやったおかげで、後々受験したHSKでは、塾に通ったり、参考書を勉強したりといった対策なしに11級に合格することができました。

 入門、初級時における基礎がしっかりできていないと、後々必ずひずみが出てきます。北京の留学生の中には、基礎が全くできていないのに、北京の『儿化音』をやたらと使いたがる学生がいます。彼らの中国語は極めて難解で、先生方も聞き取れず苦笑い。本末転倒です。

 これも授業中によく学生にする話ですが、アレンジする前に基礎をしっかり固めなければなりません。その時に例に挙げるのが、「ピカソと雄牛」の話です。抽象画の大家ピカソがアレンジをするまでの過程を見ることで、いかに基礎が大切かというものが理解できます。

 発音、文法、聞き取りのどの分野においても、基礎学習をしっかり行い、本物の中国語力を身につける心がけが必要なのです。

 「下手糞の上級者への道のりは己が下手さを知りて一歩目」はスラムダンクの安西先生の名言。自分の苦手な分野を見つけ出し、一歩目を踏み出してみてはいかがでしょう。


Yusaku Nishimura

投稿者について

Yusaku Nishimura: 対外経済貿易大学副教授  2010年6月に中国の経済金融系重点大学である対外経済貿易大学で経済学博士を取得し、同大学国際経済研究院で専任講師として採用される。  2013年1月より同大副教授。日中両国でのコラム執筆や講演活動も精力的におこなっている。  中国の外国人の大学教員の立場は、自国の言葉で教える非常勤講師か、海外の大学教員でありながら中国でも講義する客員教員が一般的。日本人を中国人枠での専任講師として採用するのは極めてまれで、人民日報やChina Dailyなどでも大きく紹介された。