第十五回 学

2016年8月17日 / 留学のすゝめ

(写真)対外経済貿易大学の留学生卒業式

留学とは、よその土地に在「留」して「学」ぶこと。つまり勉強こそが一義的な目的です。私は10数年間北京の大学に籍を置いていますが、その中で多くの外国人留学生と交流してきました。

「中国に行けば中国語が喋れるようになる」

うーん甘い考えですね。

しかし、このように安易に考えている留学生は少なくありません。語学学習はそんなに甘いものではありません。実際、数年も中国にいるのにほとんど中国語をしゃべれない外国人をたくさん知っています。逆に、中国に来て数か月しか経っていないのに、自在に中国語を操ってコミュニケーションをとっている人もいます。

彼らの違いはどこにあるのでしょう。

実際住んでみるとわかるのですが、現在の北京では中国語を全く話せなくても生きていけます。スーパーやコンビニは充実しており、ネットで何でも買い物できます。日本料理屋も数多くあり、毎晩日本人でにぎわっています。

以前はなかなか手に入らなかった日本の食材や加工品も、日系のスーパーや百貨店の出店に伴い充実してきました。今では刺身や納豆、生で食べられるたまごさえも簡単に入手できるようになりました。

外務省の統計によると、中国の邦人数は平成23年10月1日現在で140,931人、その内上海が56,481人、北京が10,355人となっています。ここまで邦人数が拡大すると、日本人向けのサービスが充実するのは当然です。

また、フリーペーパーをみれば県人会や同窓会、趣味サークル等の広告がたくさん出ています。寂しくなったら日本人のコミュニティに行けば、日本語で会話を楽しむことができます。

このような日本人にとって便利な環境が、語学習得、国際交流に与える負の影響は無視できないレベルにまで達しています。私の場合、1996年当時、一人で分厚い辞書を片手に食堂を訪れ、片言の中国語で必死にコミュニケーションをとっていましたが、それが今では全く喋らずに用事を済ませることが可能となっています。趣味のサッカーを通じて多くの中国人と交流を深めましたが、今では日本人チームがいくつも存在します。日本の情報もインターネットで検索し放題。中国にいるのに全く中国語を喋らず、中国人と接することなく生活できるのです。

同じ留学に来ている人でも、伸びる人とそうでない人の違い。一言で言えば「気持ち」です。

「絶対に習得してやる!」

という気持ちが無ければ、このような日本とほぼ変わらない便利な環境の中で語学力を高めることはできません。私は精神論者ではありませんが、私が約二十年間真剣に取り組んできた語学学習に関してだけは、自信を持って言えます。上達するか否かは本人のやる気次第だと。

心地よい環境に甘んずることなく、自らを律し「日本」と適度な距離を置く。その上で、中国人のコミュニティに果敢に飛び込み、異文化交流の輪を広げ、語学だけではなくリアルな国際感覚を養いたいものです。

そのような人材をグローバル社会は求めているのです。


Yusaku Nishimura

投稿者について

Yusaku Nishimura: 対外経済貿易大学副教授  2010年6月に中国の経済金融系重点大学である対外経済貿易大学で経済学博士を取得し、同大学国際経済研究院で専任講師として採用される。  2013年1月より同大副教授。日中両国でのコラム執筆や講演活動も精力的におこなっている。  中国の外国人の大学教員の立場は、自国の言葉で教える非常勤講師か、海外の大学教員でありながら中国でも講義する客員教員が一般的。日本人を中国人枠での専任講師として採用するのは極めてまれで、人民日報やChina Dailyなどでも大きく紹介された。